第336話 宇宙船村によく遊びに行くサイトの話
「ほう、サイトが宇宙船村に出かけた? 最近よく行くな」
「あいつ、ガラドンと仲良くなっててさ。ガラドンに乗って出かけていくんだ」
教えてくれたのはアムトだ。
考えたな。
勇者村と宇宙船村は、徒歩でそこそこ掛かる距離だ。
だが、高速疾走が可能なガラドンならば、時間を大幅に短縮できる。
きっと、野菜か何かでガラドンを買収しているのだろう。
そこまでして宇宙船村に向かう理由は何があるのか。
分かりきっていよう。
……ということで、俺はそのお店の前でのんびりとサイトを待った。
しばらくして、スッキリした顔のサイトが出てくる。
俺と目が合った。
「!? そ、村長なぜここに!!」
「うむ。お姉さんと遊べるお店に絶対来ていると思っていたぞ、俺は。年頃だもんな……」
「いやあ……。勇者村、いい女が多いじゃないか。だけど誰かの奥さんだったりするだろ? 生殺しだよ……。なので俺は俺なりにムラムラを発散しようと思って」
「気持ちは大変よく分かる。というか勇者村に来てそんなに経ってないのに、そういう気分になれるバイタリティは凄いと思うぞ。で、お金はどうやって用意してるのだ」
「実は宇宙船村の手伝いもしてる」
サイトがバイト先に案内してくれた。
そこは、街へ運ぶ宇宙船の資材を、細かく壊す場所である。
ガンガンとハンマーを叩きつける音が響き渡っている。
「俺って魔力を破壊できるだろ。だから、ある特定の素材だと、簡単に壊せるんだ」
サイトが顔を見せたら、宇宙船村から「おー、壊し屋が来たぞ」「複合材ありったけもってこい」と声が上がった。
頼られているじゃないか。
「ここでちょっと頑張ると、お店で一回遊べるぶんくらい稼げるんだ。で、おつりでガラドンに野菜やフルーツを買ってやる」
「なるほど、それでガラドンと協力体制を結んでいたんだな」
俺としては、独身貴族であるサイトがお姉さんのお店で遊ぶのは全く問題ないというスタンスである。
遊ぶためのお金も自分で稼いでいるしな。
ちなみにこの解体場の責任者は、うちの村にいるガンロックスの弟子の一人であった。
見た目は岩石巨人とでも言うんだろうか。
バカでかいハンマーを振って、宇宙船の構造材を砕いている。
「師匠は元気か? おう、そうかそうか! たまには会いに行きたいもんだな、ガハハハハ!」
豪快なやつだ。
爆笑しながら石をばりばり食っている。
「じゃあ親方、俺は帰るよ。また一週間くらいしたら来るぜ!」
「おう、お疲れ! だがもったいねえよな! お前すげえ才能持ってるんだから、いっそここに住み込んじまえばいいのによ!」
「それがさ。村長にまだまだ教えてもらうこともあるからさ。じゃあな!」
解体場の人々に別れを告げるサイト。
「俺は別に、お前がここに住み込みで働くようになってもいいんだが」
「それじゃ、村長が俺を鍛えられないだろ? 外からまだまだ魔王が来るかもしれないって言ってたじゃないか。じゃあ、俺が強くならなくちゃ始まらないだろう」
おお、勇者っぽい事を言う。
やっぱりこの男、本来の勇者だったのではないか……?
その後、サイトを伴って野菜畑の視察に出かける。
俺が現れると、畑仕事をしていた若者たちが敬礼っぽい姿勢になった。
「お疲れお疲れ。その後どう?」
「野菜泥棒は棒で叩いてますよ!」
「見つかったら棒でこっぴどく叩かれるって知れ渡ってて、泥棒が減りましたねー」
「やはりな。痛くなければ覚えないものだ」
野菜泥棒対策、バッチリなり。
そして畑の規模は以前よりも拡大していた。
木々が切り開かれ、向こうでは開墾が行われているな。
「実は宇宙船から、畑を掘り返すゴーレムみたいなのが発見されたんですよ」
「ほう!」
「んで、宇宙船村でそのゴーレムと協定を結んでですね、畑仕事をしてもらうことになったから、たくさんの仕事を一気にできるようになったんです」
「それは素晴らしいな」
地球でも、農薬やら農作業道具やらが進化した結果、大量の作物を作ることが可能になった。
その力で多くの人口を養えるようになったわけだ。
宇宙船村は今まさに、そのルートを辿っている。
農薬関連だが、これがしっかりと開発されると、収穫量が全然変わってくる。
勇者村の野菜は神の祝福を受けているのであまり心配ないのだが、普通の野菜は虫に食われたり、病気にやられたりするものなのだ。
「あれ? 勇者様ご存知ないんですか。農薬は勇者村から仕入れてるんですが」
「なんだって!? もしや、その薬は……」
「はい、賢者ブレイン様が開発したものです」
普段は大人しく、あまり存在感を示してこないブレイン。
実はコツコツと俺の知らぬところで仕事をしていたのか。
きっと、魔本の記述を読み解き、得た知識を複合的に利用することで農薬を発明したのだろうな。
それが今、宇宙船村の人口を養うための助けになっているのだ。
「へえ……。畑仕事ってのも戦いなんですねえ」
サイトが感心したように呟いた。
「そうだぞ。人が生きる限り、終わりの来ない戦いだ。それでこれを上手くやり続ければ人はどんどん増えるようになる。失敗すると餓死したりする連中が増える。かなり重要な戦いなんだぞ」
「魔王どころじゃないですねそれ!」
「そうなんだよ。いつ来るか分からない魔王よりも、よほど大事な仕事なのだ。だが魔王を放置してたら畑も全部破壊されるから、やっぱり備えておかなければならない。どちらかだけでいい、とはならないのが世の中の難しいところだな」
「深いですねえ」
うーむ、と唸るサイトなのだった。
どうやら、宇宙船村は彼の社会勉強にうってつけのようだ。
まさしく社会の縮図みたいなところだからな。
今後も自由に出入りしてもらうことにしよう。
こうして俺たちは、村の外に繋がれていたガラドンと合流し、勇者村へ帰還するのであった。
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