第335話 アドバイザーだよカトリナさん

 夕食が終わり、まったりする時間。

 それぞれが食堂から自宅に引っ込み、家族でのんびりするのだ。


 あるいは、独り者ならば星あかりの下、村の中をぶらぶら散歩したりもしている。

 我が家は家族団らんである。


 既にマドカは爆睡しているが。


「今日もたっぷり遊んだもんねー」


「ああ。マドカくらいの年頃は、パワーが尽きるまで全力で遊んで、いきなりバタンと倒れて寝るからな」


「そうだねえ。マドカはご飯を食べるまでは頑張って起きてるけど」


 サーラなどは夕食時に寝てしまったら、アキムとスーリヤは保存食系の食べ物を用意しておくのだそうだ。

 そうして目覚めたら、保存食を水で戻して食べさせる。


 小さい子は食べられるタイミングでご飯を食べさせないとな。

 なお、バインはいつでももりもり食べる。


「それで最近どう? ちょっとお腹も大きくなってきたが」


「うん、まだお腹の中を蹴ったりはしないかなー。でもね、どんどん大きくなってるのが分かるよー。ミーはつわりが大変だって」


「あー、だろうなあ。オーガはあんまりそういうの辛くないんだっけ」


「私は辛い方。体が小さいから、色々無理が出るのかもねえ。パメラみたいに大きい人だと、そんなでもないって」


 そういうものなのか。


「二回目だし、ちょっとずつなんか分かってきたし。食べられるものだけ食べてるから大丈夫」


「そうかー。無理しないでくれよ」


「しないよー。今はね、リタとピアが手伝ってくれるし。そうそう。二人がね、私とミーに相談してくるの」


「相談?」


「アムトとフーがどうだろうって」


「ヌウー」


 俺は唸った。

 二人の方でも男子たちを気にしているではないか!!

 アムト! フー! 脈アリだぞ! 良かったな!!


 内心で大いに喜ぶ。

 信じられないような人としてありえない大ポカでもしない限りは、これはゴールイン間違いなしだろう。


 村において、恋愛みたいなのの成就は即ゴールインだからな。

 そもそもこういう狭いコミュニティでずっと一緒に暮らしているのだ。

 相手の人となりは分かった上で、お隣さん以上の関係に踏み込んでいくわけだな。


 恋愛感情を持つ以前に、相手を冷静に見る機会があるわけだから、後から幻滅するということは少なかろう。

 多分だが。


「あー、ショートが喜んでる」


「ああ。俺もアムトとフーから相談を受けててな」


「知ってる。最近よく、あの二人といるもんねえ」


 それ以外は、カールくんとサイトの訓練だがな。

 たまにビンも遊びに来て、圧倒的な格の違いを見せつけたりしている。

 サイトの破魔の力でも、まだビンの実体化念動魔法を打ち破れないでいるのだ。


 あの三歳児、強いな。

 いやいや、今はそんな戦いに満ちた男の世界の話では無かった。


 村で二組の初々しい夫婦が誕生するかどうかという話である。 

 結論から言うと誕生するでしょうな。


「カトリナはどう答えたんだ?」


「うーん、アムトは真面目だし、がんばり屋だし、リタとはお似合いだと思うな。リタはむしろ、司祭としての仕事が忙しくなるでしょ? だったら日常はアムトみたいに、フォローが得意な子がいいんじゃないかな」


「的確な評価だ。確かにあいつはそういう地味な裏方が得意だもんな」


「フーはね、ピアと同じ方向を向いてるから、いいんじゃない? 仲良し夫婦になると思うよ。ただ、ストッパーがいないから危なっかしいかなーって。どっちかがしっかりしないとね。二人でお互いのストッパーになるでもいいけど」


「含蓄があるなあ……」


「そりゃあもう。私は世界一非凡な旦那様を持ってますから。留守を守って、村のことをちゃーんと見ておかないといけないもんね」


「いやあ、いつもお世話になってます」


 胸を張るカトリナに、俺はペコペコ頭を下げた。

 そして顔を見合わせたら、お互いに吹き出してしまったのである。


 カトリナ、村のみんなのことをよく知っているんだなあ。

 女子側をこうしてサポートしてくれるのはとても助かる。

 俺は女心とか、全く分からないからな。


「それにしても不思議なもんだ」


「何が不思議なの?」


「フーとピアもだけど、俺とカトリナだって種族が全然違うだろ。だけどこうやって出会って、夫婦になってさ。子どもだってこうしてできて、今も一人お腹の中にいる。不思議だなーって」


「そう言えばそうだねえ」


『それはですね』


「うわーっ!!」


 突然ピカピカ光るユイーツ神が入り口から顔を出したので、俺とカトリナは大変びっくりした。


『魔王大戦の前は、あまりにも離れすぎた種族同士ではなかなか子どもができないようになっていたのです。ですが、世界の人々はあまりにも減りすぎた。そこで私が世界のルールを変更し、普通に惹かれ合って子どもができるようにしました』


 ユイーツ神の仕事だったのか……!!

 元豊穣神である彼だからこそ持っていた権能だな。


 そしてユイーツ神曰く、世界中で俺とカトリナ、ニーゲルとポチーナ、フーとピアみたいな異種族同士のカップルが誕生しているそうだ。

 いろいろな種族的特徴が混じった新世代が、世界を闊歩するようになるのかもな。


 それはそれで楽しみだ。


「それでね、私としては、若い二人に任せて……ってなるまではね、きちんと教え導いて行かないと……」


「おお、世話焼きの鑑」


 夫婦関係とか、個人の知見だけだと難しかったりするもんな。

 プライベートがあまりない代わりに、村人全員が家族みたいなうちの村だからこそ、我々の集合知を大いに使ってほしいものだ。


 俺とカトリナとユイーツ神で、アムト&リタかフー&ピアか、どちらが先にゴールインするかで盛り上がるのだった。


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