第334話 宇宙船暴走? サイトの鎮圧任務
幻の勇者パーティーメンバー。
全ての魔法を打ち消す、破魔の力を宿した男。
異能を疎まれ、祖国に居場所のない男。
うーん、ラノベの主人公。
俺の新しい弟子であるサイトのことだ。
実際凄い。
彼が勇者パーティーとして発見されていれば、俺は召喚されることも、デスマーチな魔王討伐をすることも無かったのでは……?
いやいや、それでは俺はカトリナやブルストと出会えなかったし、マドカも産まれていなかったのだよなあ……。
マドカとカトリナがいない人生など割と灰色なので、俺はサイトが発見されなかったことを喜ぶべきなのかも知れない。
「うーむむむむ」
「村長、何を唸ってるんだ?」
「いや、ちょっとな。弟子を前に邪念を抱くなど、俺もまだまだ修行が足りん」
「村長だってまだ若いじゃん。俺の親父より全然年下だろ。立派になる必要ないって」
「含蓄のある事を言うなあ」
俺は感心してしまった。
若者から学ぶこともたくさんあるのだ。
まあ、俺はようやくアラサーになったくらいの年齢なので、他から見るとまだまだ若造なのかも知れないが。
「おーい、大変だ勇者様ー!!」
俺をいつまでも勇者と呼ぶのは、勇者村の外の連中である。
そしてわざわざ名指しでやって来るということは……。
「宇宙船村で何かあったか?」
走ってきた若者が青ざめた顔で、コクコク頷く。
「実は……いつものように宇宙船の壁をみんなで削ってたら、ウイーンって開いてですね、そこから怪物が顔を出して攻撃を……」
「防衛装置がまだ残ってたのか」
それは問題だ。
あの船は、仮にもオーバーロードが乗ってきた船だ。
なんか超文明の戦闘艦みたいなもんだと思っていいだろう。
「行くぞサイト。お前を連れてシュンッで移動するが、腕や足を動かすなよ。お前が攻撃すると俺の魔法も破られるからな」
「お、おう! 分かったぜ」
サイトは腕組みして不動の体勢になる。
よし。
同時に瞬間移動だ。
宇宙船村の中心……宇宙船に到着だ。
なるほど、外壁から身を乗り出したように見える巨人が、砲塔化した腕からビームをぶっ放している。
今は鍛冶神がこれを食い止めてはいるが……。
『おお、ショート! おかしな物が出てきたぞ。神がこれを防いでいるから、被害はまだ無いがどうしたものか』
「うむ。鍛冶神的には村人を守るため、攻撃には移れないものな。ここは俺の弟子がやろう」
「俺!?」
いきなり名指しで戦えと言われたサイトが、目を丸くした。
「サイト。ビームはな、魔法と同じ原理だ。そいつを機械仕掛けで発生させているに過ぎん。発生と過程が違っても結果が同じなら、お前はそれを砕ける。やってみるのだ。死んでも時を巻き戻してやるから安心せよ……」
「いきなりなんて危険な事させるんだよ! いやまあ、俺にやれるっていうならやるけどさ」
「やれるやれる。いけいけ」
無責任に応援する俺なのだ。
サイトが防衛システムと向かい合うと、システムは周囲への無差別攻撃を停止した。
おっ、気付いたか。
あいつのセンサーみたいなのがあって、それは生物が放つ魔力を感知して認識していると思われる。
そうすると、姿を消されても追跡できるからな。
だが、サイトは一切の魔力を放たない。
自分が放つ魔力すら、持っている破魔の力で消滅させるからだ。
姿は見えるのに、魔力を認識できない相手。
これはデータにあるまい。
防衛システムは、小手調べとばかりに、サイトをビームで狙撃した。
「見え見えだぜ! おら!!」
サイトがビームを素手で打ち消す。
なんか、魔力を打ち消す度にキュピィーンッ!とか効果音がするんだよな。
なんだろうなこれ。
『ショート、大丈夫なのか?』
「大丈夫だ。あいつは俺が来なかった時とか、俺が負けた時のために世界が用意していた勇者みたいなやつなんだよ」
『なんと! そんなものが……』
「神々が知らない間に、世界は魔王の脅威に備えて、抗体を作り出してたってわけだな。だが、平和な時代にあいつは居場所をなくして、力も持て余してた。先輩として導いてやらんとな」
そう言ってるそばから、システムの攻撃を次々に打ち消しながら接近するサイト。
手にした槍をシステムの関節部に突っ込んだ。
ダメージ自体はそこまでではないだろう。
だが、サイトの力はシステムを動かす魔力の流れやプログラムそのものを破壊する。
つまり、一撃一撃が命中した部位を行動不能にする必殺攻撃なのだ。
あっという間にシステムは機能不全に陥り、動かなくなった。
「お疲れー」
俺は防衛システムのところまで走っていった。
そして、戦闘の終わりに安堵したサイトの前に立つ。
そこで自爆する防衛システム。
「ウグワーッ!?」
「はっはっは、油断してたなサイト。こういうのは最後っ屁で自爆したりしてくるからな」
パタパタ仰いで爆風を打ち消す。
逆位相で仰いでおけば、核爆発くらいなら消滅させられるのだ。
「やべえ……俺すげえとか思っちゃったよ……。まだまだだ。村長、俺、もっと精進するわ」
「ああ、頑張れよ! これくらいできるのが、うちの村だと一羽と一匹と二人と一頭くらいいるからな」
「勇者村やばい……」
気付いたか。
世界の最高戦力が揃ってるからな。
ちなみに二人、は俺を除いた人数だ。
ビンとカールくんが、あの自爆に的確に対応できる人間だという話だな。
マドカは未知数だが、多分小学生位の年齢になればイケルと思う。
『ご苦労様だ』
鍛冶神がふわふわやって来て、サイトの肩をポンと叩いた。
『だが、世の中は破魔の力の一芸だけではやっていけぬ。基礎的な力を身につけるのだ。ショートを見ろ。神をも凌駕する魔法の力を持っているが、この男の本領は魔法ではない。神が身を変えた剣を振るった時よ』
「うむ。つまり俺は常に不得意なジャンルで戦っている……」
「マジっすか」
「特にスローライフが不得意なんだけどな……」
これを聞いて、鍛冶神もサイトも爆笑した。
笑い事じゃないぞ!!
魔王退治よりも苦心して頑張ってるんだからな!?
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