第333話 腕試し、幻の勇者パーティメンバー!
その日の仕事が終わった後、カールくんとサイトを呼び寄せた。
サイトは一生懸命に畑仕事をし、朝飯も昼飯もたくさん食った。
これを見たアムトとフーが対抗意識を燃やし、めちゃくちゃに食ったくらいだ。
「同い年くらいのもいるんですね。俺ちょっと安心しましたよ」
アムトとフーが食べ過ぎでダウンする横で、ちょっと多いくらい食べて平然としているサイト。
常時、魔力を認識する目とそれに追随できる肉体を持っているので、燃費が悪いのだろう。
「サイトさんはたくさんたべてたね! ぼくもいっぱいたべられるようになりたいなあ」
「カールもでかくなったらいけるだろ。んで、村長。俺らは何をすればいいんだ?」
「うむ、良い質問だ。勇者村は基本、午前中で仕事が終わる。午後はフリータイムだ。その代わり年中無休なのだがな」
案内したのは、俺が用意した戦場である。
木々を切り開き、土をひっくり返して根を取り除き、平坦に均した場所である。
こんな風にしてても、放置していると一週間で草原に、一年で林になる。
「俺が攻撃を仕掛けるので、二人で協力して凌いでくれ。もちろん、こっちはお前たち向けにパワーを落とす。お前たちを一人前の実力者に育て上げる責任が俺にはあるからな……!」
そんなわけで、訓練スタートである。
俺がミニサイズのデッドエンドインフェルノとか、ワールドエンドコキュートスとかをぶっ放すのを、二人が防いで行く。
カールくんは俺と同じ魔法をかなりたくさん使えるので、インフェルノにはコキュートス、コキュートスにはインフェルノをぶつけて相殺だ。
「いいぞいいぞ! 多分君は世界最強の七歳児だ!」
「はい! まいにちがんばってます!!」
以前はビンに大きく水を空けられていたカールくんだが、この年月で力を付けたのである。
念動力を実体化させて行使するビンを、三回に一回は破れるようになった。
これは凄いことだぞ。
勇者村四天王の一角に、カールくんが食い込み始めている。
そして、傍らで剣を振っているサイトはと言うと……。
「魔法だ! えっと、逃げないで立ち向かうんだったよな。こうか!」
キュピィーンッ!と音がして、俺の放った魔法が砕け散った。
「おほー!?」
サイトの剣が、あるいは払った腕が当たると、俺の攻撃魔法がその場で打ち消されるのである。
彼が意識して魔法に体を当てると、それを消去することができるのだな……!
強い!
「村長の見立て通りだな。俺、この体で魔法相手に渡りあえるっぽい」
「おう。だが、お前の天敵は純粋な肉弾戦で凌駕してくる他の四天王だな」
「他の……?」
「アリたろう!」
「もがー!」
アリたろう登場である。
肉体を鍛えに鍛えたコアリクイである、アリたろう。
彼は俺の依頼を受けて、サイトと戦うことになったのである。
技量と速度のみで、ビンといい勝負をできるアリクイだ。
「うおおおっ!? は、速い! 打撃が重い! ウグワーッ!?」
アリたろうの打撃を受け流しきれず、体が泳いだところで足をすくわれ、サイトが尻餅をついた。
「もが」
「アリたろうありがとうな!」
「いてて……。そっか、俺は魔法相手が得意なだけで、そのまんま強いやつには分が悪いのか」
「己の弱点が分かったな。ちなみにカールくんは魔法とともに体術も磨いている。サイトもともに学ぶがいい」
「おう!」
「アリたろうは、ぼくでもけっこうきついです! いっつもしゅぎょうしてつよくなってるアリクイですから!」
「そうか……。動物も修行しているんだな……」
「勇者村では余暇がたっぷりあるからな。あと、それからな、魔王は倒されたと思っているんだろうが……あの後、今日まで三回魔王がこの星を訪れている」
「三回!? ……星?」
「ああ、星って概念がないのか。つまりな、この世界はマドレノースを含め、四回魔王に襲われている。全部俺が撃退した。だが、そのうちの一匹であるアセロリオンという魔王は、西の大陸を消滅させた。俺がいないとそんなもんだな」
「そんなバカな……」
「本当だぞ。記憶魔法、ウツシトール上映モード!」
俺が展開したウツシトールで、この星に襲いかかった名もなき魔王、そしてアセロリオン、この間来たよくわからん魔王、ついでに覗きに来たオーバーロードの映像を見せた。
「う、うわーっ!!」
「ししょうはずっとたたかいつづけていたんですね!!」
衝撃を受けるサイトと、感動するカールくん。
サイトは初見だろうが、カールくんはとんでもない事態にある程度耐性があるからな。
「俺が二人や、勇者村四天王を強化する理由は、この世界が魔王に対する抵抗力を身に着けられるようにするためだ。俺はいつまでもこの世界にはいないからな」
具体的には、俺はそのうち神様になってしまうのだが、そうなるとなんかこの世界のことばかりをみていられなくなりそうな気がするからだ。
「まあ、まだまだ時間はあるだろうけどな。ってことで、徹底的に鍛えるのでよろしく」
「おう!」
「はい!」
「もが!」
アリたろうもまだいたか!
いや、このアリクイ、どうやらこの機に俺の弟子として潜り込む算段だな?
一切の魔法的パワーを持たず、体術のみでどこまでいけるか……面白いかも知れん。
俺が未来を思い描いていると、カトリナが呼びに来た。
「おやつだよー!」
「おっ、ここで一息入れるか! やりすぎはよくないからな! 手応えがあったら軽く繰り返して成功体験を体に覚え込ませて、後はしっかり休むんだ。アリたろうには丘ヤシのすりおろしを作ってやるからな!」
「もがー!」
いい汗かいて、おやつを食って、また汗をかく。
実に健康的ではないか。
「ししょーがにこにこしてます!」
「おう、最高に楽しいからな!」
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