第332話 アイテムボクースからこんにちは
なにか忘れている気がしていたが、そう言えばワルダーク王国で兵士を一人スカウトしたような……。
「あ、いっけね!!」
俺はハッと気付いて、アイテムボクースをさらった。
すると、見覚えのある兵士がころんと出てくる。
「ウグワーッ!! 突然闇が晴れたかと思ったら炎天下!!」
「済まんな……。君をスカウトしたのをすっかり忘れて一ヶ月半くらい経過してた」
「!?」
兵士が信じられないものを見るような目を俺に向ける。
「君はワルダーク王国の兵士だろう。どうだ、勇者村で俺の弟子になってみないか」
「いきなり何を言っているんだ……」
「俺が誰だか分かるかね」
「そんなこと分かるわけが……」
と口にした兵士の表情がみるみる変わっていく。
「姿を消して侵入してくる様子、俺を謎の空間に閉じ込める力、一瞬で別のところに連れてきてしまう能力……。ま、ま、まさか」
「そう、そのまさかだ!」
「魔王!」
「違うよ」
なんだ今の漫才みたいな展開は。
横でこの話を聞いていたらしき、留学生のバロソンが爆笑している。
楽しんでもらえて嬉しいよ。
「俺は元勇者のショートと言ってな」
「元勇者のショート……? えっ、えっ、ええええええええっ!?」
兵士がまた驚愕した。
「権能的には魔王と似たようなもんだが、一応は人類の味方なのだよ……。そんな俺が君の才能を見込んでこっちにスカウトしてきた」
「さらってきたのでは」
「多面的な見方をするとそういう表現もありうるかも知れない」
ということで、彼の素性について聞いてみることにする。
名前はサイト。
ワルダーク王国出身の若者で、生まれつき不思議な目を持っていたらしい。
魔法そのものや、その気になれば魔力の流れを視認できる。
彼は、見てから魔法を避けることができるのだ。
なんなら、剣術や武術も魔力を使っている物が多いので、彼はそれすらも起こりを察知して事前に回避できる。
いわゆる天才である。
「そんな天才がどうしてワルダーク王国の普通の兵士してたの」
「実は……『色々見えちゃうお前の目は怖いから外で働け』って言われて家から追い出されまして」
「あー、平和な時代あるある! 異能を迫害!」
「昔からこんななので友達もできなくてですね」
「苦労したなあ」
「なので別に王国に未練があったかと言われると無いような……」
「よしよし、ではサイト、お前は俺の弟子になり、その才能を活かすのだ」
「それもいい気がしてきた……」
サイトは遠い目をした。
バロソンがこれを見て、
「村長が流れるような展開で兵士を洗脳した」
などと人聞きの悪いことをいうのであった。
さて、サイトの扱いだが。
彼を紹介すると、村人たちは「また村長が新しいの連れてきた」「どうぞどうぞやりやすそうな仕事を選んで担当して」などと受け入れ態勢である。
家に関しては、ブルストが事前に用意してあった簡易家屋建造セットを使った。
壁四面と床と天井を組み合わせると、ワンルームマンションの一室くらいの家ができあがるのだ。
とりあえず俺の家の横に作っておく。
こうして、俺の弟子、サイトが勇者村で暮らすことになったのである。
先にいた弟子のカールくんにサイトを紹介することにする。
「よろしくおねがいします!」
「子どもじゃないか」
「子どもだが、俺が作った魔法を俺以外に使える、世界で唯一人の男だぞ」
「えっ、あの奇怪な魔法を!? 凄い……」
「すごくないです! ししょうのほうがすごいです!」
「そりゃあこの人は別格だよ」
早くも打ち解けた弟子同士である。
彼らはお互いの情報交換をし合う。
サイトは俺の魔法を使う才能は無いが、知識を与えれば、あらゆる魔法を一見しただけで理解し、分析できてしまうようだ。
途中で呼んだブレインが大喜びで、
「これは凄い才能ですよ! 彼自身は積極的に魔法を使うことができないようですが、使われた魔法を破壊したり、利用して反射したりが可能です!」
「それは本当に凄いな……。思っていた以上に天才だった」
「もしかすると、世界が魔王に対抗するために生み出した力なのかも知れませんね。私たちがワルダーク王国に立ち寄らなかったので、彼を仲間にできなかったのでは」
「魔王大戦の時は、サイトは中学一年生位の年齢か……。あり得るなあ……」
世界も、魔王に抗うべく専門の戦士を用意していたのだろうな。
ただ、ちょっとだけタイミングが遅かったのだ。
お陰で、俺たちが先に魔王を打ち倒してしまった。
あんなとんでもない奴、どうやって倒すんだよと思って、俺は魔王相手にメタを張ってぶっ倒したわけだが……。
サイトがいれば、その労力は半分以下になっていたことだろう。
だとすれば、彼を育成するのは、俺の使命ではないか。
それから、俺たちはパワースを戦士だと思っていたが、彼は実は盗賊だったのかも知れない。
そして戦士役はこのサイトだったのではないだろうか……。
「さっきから俺の顔を見て二人で訳のわからないことを言っている……」
「専門的な話で済まんな! うちの村はお前を歓迎する方向で完全に決定した。これは俺のワガママではなく、こう、天命みたいなものだ。絶対に一人前にしてやるからな……!!」
「ししょうがもえてます!!」
「なんで燃えてるんだろうなあ……」
サイト一人がきょとんとしているのだった。
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