第331話 元勇者、若人の悩みに耳を傾ける

「結婚式はいいもんだよな」


「うむ」


「俺もやりたいです」


「うむ」


「やっぱりアタックあるのみだと思うんだよな」


「ふむふむ」


「俺は……どうにか彼女にこっちを向いてもらって……」


「ふむふむふむ」


 午前の労働が終わった昼下がり。

 昼食後の気怠い中、水田近くの日陰に誘われた俺である。


 ここで、二人の若人の話を聞くことになっていた。


 フーとアムトである。

 ピアとリタを妻にせんと狙う二人。


 青春だなあ。

 二人とも、ニーゲルとポチーナの結婚式に感化され、自分たちもなにかしなければ!と思い立ったようなのである。


「そんなに焦らなくて良くないか? 二人ともリタやピアにはちゃんと認識されてるし、ちょっと特別扱いされてるだろ」


「そうなのか!?」


 フーが目を剥く。

 虎人がこう言うことをやるとなかなか迫力があるのだが、こいつは肉も野菜もバランス良く食べる虎人なので、人間ができていて怖さはない。


「そりゃあそうだろう。お前、いつもいつもピアにプロポーズしてるだろ?」


「おう! だが……いつも断られている……」


「あれは断ってるんじゃない。よく思い出してみろ。最初のピアは興味がなかったろ。何それ、みたいな感じできょとんとしてなかったか?」


「していたな……!」


 遠い目をするフー。


「今はどうだ」


「それは後にしてって言われるな。興味ないのだろうか」


「後にしてだぞ。嫌と言っていない。どういうことか分かるか」


「ハッ!!」


 その時、フーに電流が走る……!!


「既にどういうことか、ピアは理解しているのか!!」


「そりゃあそうだ。勇者村婦人会が教育しているからな……」


「ぬおおおお! 脈アリか!! ……だが、どうして俺の求婚を受け入れてくれないんだ」


「お前のは毎日やり過ぎてて、いつものパターンになってるんだよ。フーはな、こう、雰囲気を作ってウェットに攻めていけ」


「ウェットに……!!」


「ピアはまともに女子扱いされたことがない。というか、男たちに混じって汚れ仕事なんかをバリバリやってたからな。だから、自分を女として見て猛烈にアプローチしてくるお前はある意味特別なのだ」


「なるほど……! 村長は女心の達人だな……!」


「そういうことではない。うちの嫁さんをずーっと近くで見てるのでなんとなく分かる……」


 あとは、ピアの姿がマドカの将来に被るからであろう。

 マドカも色気より食い気で突き進み、ある時、突然その辺りの感情を理解するのではあるまいか。

 少なくともピアは、間違いなくフーに脈がある。


 ただ、どう対処していいか分からないだけなのだ。


「流石は村長、含蓄があるなあ……。じゃあ、俺はどうしたらいいんでしょう」


「アムトはもうリタと仲がいいというか、ずーっと仲がいいじゃないか。日常になってるんだな。やっぱり雰囲気で攻めて、非日常からアタックするか、あるいはこのまま日常の延長線で自然な感じでプロポーズとかいいんじゃないか」


「な、なるほど……」


 フーとアムトが、尊敬の目で俺を見た。

 まあ、俺も知ったような口を利いているが、カトリナ相手には散々悩んだ挙げ句、彼女の部屋に突撃して思いを遂げてそのまま結婚したようなところがある。


 若さと勢いの一点突破はとても重要なのである。


「とりあえず、非日常からアタックするなら今から計画を立てて、近日中に全力で行け。日常の延長線で行くなら、彼女たちに悪い虫がつかないように注意をしながら、常に好意があるというのを表に出していけ。思わぬところで横からさらわれる事があるぞ!!」


 突然俺が真剣な口調になったので、二人は息を呑んだ。


「経験談だ……。まあその時の相手はもう村にいて、色々あって関係は良好なまま互いに親になっているがな……」


「誰だか分かっちゃった」


「アムト分かるのか!?」


 アムトは言わないでいいし、フーは詮索しないでよろしい。

 ということで、若人たちへの教授この辺りで切り上げておくことにする。


「俺に手伝えることがあれば何でも言うといい。まあ、勇者村婦人会が常に目を光らせているから、あっちに声をかければ全力のバックアップが来ると思うが」


「婦人会ちょっと怖いんだよな」


 フーが遠い目をした。

 気持ちは分かる。

 世話焼きおばちゃん軍団みたいなもんだからな。


 だが、それだけに威力は絶大だぞ。

 あっという間に二人の退路を絶って、二人きりになって思いを伝えて結婚するしかないルートを作ってくれる。

 最終手段だな。


「男の方がロマン主義で甘っちょろい事を言うからな。なので余裕があるうちは俺を頼り、どうしようもなくなったらカトリナに相談するんだ。一瞬で片がつく」


 ちょっと青くなりながら頷く二人なのだった。

 この間の、ニーゲルとポチーナの仲をぐんと推し進めたのも勇者村婦人会の力である。


 あれはある意味俺を越える権力を持っているからな。


 最後は二人とも、何やら決意をその身に漲らせながら帰っていった。

 頑張ってほしい。


「なあに、ショートったらニヤニヤしちゃって。何かいいことあった?」


 お昼寝しているマドカの横で、編み物をしていたカトリナ。

 俺に気付いて微笑みかけてきた。


「まあな。次の時代の若いのが、頑張るぞってやってるのを応援してきたんだ。こっちもエネルギーをもらえるな」


「ショートだってまだまだ若いのに」


「まあ、確かにそうだが……!」


 そう遠くないうちに、彼らの朗報を聞くことができるだろう。

 楽しみに待つとしよう。


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