第329話 縁の下の力持ちの結婚式

 その日がやって来た。

 礼服を身に着けたニーゲルに、俺は満足感を覚える。


「いいじゃないかいいじゃないか。出会ったばかりの頃、ニーゲルは栄養失調なおじさんだったもんな」


「うっす。あの時はなんかもう、死にそうだったっす。ショートさんには本当に感謝してるっす!!」


 ニーゲルが頬を紅潮させて、俺への謝辞を口にした。


「俺だけじゃない。勇者村みんなにお礼をしてくれ。だけど、俺たちだってお前に礼を言いたいんだ。そういう場所が結婚式場なんだよ」


「うっす!」


 ニーゲルはガッチリした体型になっているので、俺より背が低くても礼服がきちんと似合う。

 なかなか様になっている。


 彼を連れて教会にやって来ると、新郎の到着だということで、村人たちがうわーっと盛り上がった。

 婦人会の面々は、カトリナとシャルロッテ以外の全員がいる。


 つまり、ポチーナの担当はあの二人ということか。

 そして花を撒く担当である、マドカ、サーラ、ビンが最前列の席に掛けて、ぺちゃぺちゃお喋りをしていた。

 いい感じで力が抜けていてよろしい。


「ショート!」


「おとたんきたー?」


「まおのパパー!」


「おーう。俺だぞ。だが今日の俺は脇役だからな」


 ちびっこたちに手を振る。

 三人とも、きちんと誂えられた礼服やドレスを着ている。

 とても可愛い。


 婦人会がきっちり仕上げてくれました。

 まあ、普段着にそれっぽい布を貼り付けてかっこよくしたものなんだが。

 でも、それだけで雰囲気はぜんぜん変わるのでいいものだ。


「おおお……」


「緊張してるなニーゲル。人生の主役だからな! だが、もうひとり主役がやって来るからな! お前は彼女と支え合って、今日はガッツリ目立ち、これからは仕事をしながら新しい命を育んでいく的な……」


「おーいショート! 仲人の祝辞はまだまだ早いぜ!」


 ブルストから野次が飛んできて、みんながドッと笑った。


「いかんいかん! そうだった! ここから先は後に取っておくぞ!」


 俺は宣言し、ニーゲルとともに教会の祭壇の前で待つことにした。

 司祭であるヒロイナが、俺たちを見てニヤニヤする。


「ショートが仲人ねえ? ふーん。ふふーん」


「なんだよー」


 ワールディアにおける仲人というのは、新郎と新婦双方に関わりの深い人物が担当する。

 結婚見届人だな。

 新郎か新婦の両親が行うことが多いが、今回の場合は俺だ。


 間違いなく双方と関わりがあるからな。

 特にニーゲルは、年上だが俺にとって可愛い後輩みたいなやつだ。


「ショートもさ。ギラギラしたのが抜けて、いい感じで落ち着いてきたなって。いいんじゃない?」


「おう。ギラギラしてたらスローライフなんか維持していけないからな」


 ちょっとだけお喋りをしたところで、どうやら新婦の準備が整ったらしい。

 教会の控室側の扉が、バーンと開いた。


 カトリナが立っている。


「新婦登場!!」


 堂々たる宣言である。

 さすがはうちの奥さんだ。

 だが、結婚式でそれはどうなの。


 村民一同が見守る中、まず出てくるのはシャルロッテ。

 彼女に手を引かれながら、新婦が姿を現した。


 そうか、ポチーナ側の仲人はシャルロッテになるもんな。

 そう思っていたら、傍らのニーゲルが息を呑むのが分かった。

 ポチーナに見惚れたな。


 それくらい、ドレス姿の彼女はきれいだった。


 真っ白な布をドレスを作れるだけ用意した、というのがまず凄い。

 綿花の色がきれいな白になるまで洗い流し、さらに漂白なんかもやってたんだろう。

 それが、ポチーナが纏うことを前提にデザインされていて、大きく膨らんだスカート部分がとても映える。


 肩とかむき出しで、頭にはどうやって作ったんだろう、見事なレースが掛かっている……!!

 参列者の中で、スーリヤがガッツポーズをしているので、彼女の仕事らしい。

 すげえな!


 ニーゲルは感動のあまり、目をパチパチ、口をパクパクさせている。

 ポチーナも、ニーゲルの礼服姿の凛々しさにハッとして、もじもじし始めた。


 これはいかん!

 話が進まなくなるぞ!


「式を始めます! 神の御前で、愛を誓いなさい」


 ヒロイナが無理やり始めた!

 豪腕である。

 スタートしてしまえば、進行せざるをえない。


 ニーゲルとポチーナが神前で向かい合う。

 式場である教会は、色とりどりの布で飾られており、それゆえにシンプルな礼服とドレスが映える映える。


 二人がたどたどしく、どんな時も添い遂げると誓いの言葉を神に告げる。

 あっ!!

 俺はなんとなく、席の隅っこにユイーツ神が参列してるのに気付いたぞ!


 まーたユイーツ神教の主神が信徒の結婚式に顔なんか出して。

 息抜きかな。


 そして二人の誓いのキス。

 ここで、俺たちはうわーっと盛り上がった。


「お幸せにー!」


「良い家族を作れよー!!」


 かくして、新郎新婦が教会の外へ出る。

 晴れて神に祝福され、夫婦となった二人が外の世界へと一歩を踏み出す。


 ここまでやって結婚式なのだ。

 二人が行く道を、ちびっこたちがわーっと花をばらまいて飾る。

 まさに花道。


 マドカもサーラもビンも、至って真剣である。

 自分たちに任された、お祭りの大役なのだ。


 うんうん、カトリナとの結婚式では、お腹の中にいたマドカ。

 それが今、新郎新婦の花道を飾る役割をしているなんてなあ。


 感慨深い……。


 そう思ってたら、カトリナも同じ気持ちだったようだ。

 二人で顔を見合わせて、笑った。


 さあ、この後は飲めや歌えやの大騒ぎ!

 みんなで大いに羽根を伸ばすとしよう!


 ……あれっ、祝辞を話すタイミングが無かった……!!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る