第328話 肥溜め管理の新郎新婦

『しばらくは我々ゴーレムが肥溜めを管理します!』

『新郎新婦は大いに楽しむべきです!』


 ゴーレム4と5が仕事を請け負ってくれたので、ニーゲルとポチーナは村に来てから初めて仕事のない状態になったのである。

 二人ともオロオロしている。


「はいはい、ポチーナはこっち! ドレス仕立てるから! って言ってもあるドレスをポチーナ用に仕立て直す感じだからねー」


「は、はいです!」


 ポチーナがカトリナに手を引かれて行ってしまった。


「ポチーナが行ってしまったっす! お、おれはどうすれば」


「自由過ぎる環境はむしろ迷うもんだよなあ。ニーゲルはこっちだ。礼服を貸してやる」


 彼と俺は、我が家の地下室に向かうのだ。

 ここには、俺が結婚式の時に着た勇者っぽい礼服がある。


 ニーゲルは背丈こそ俺より低いが、日々の肥溜め管理や肥料づくりで鍛え上げられた肉体は、がっしりしている。

 そのお陰で、体系的には俺に近いだろう。


 試しに着せてみると、ジャストフィットであった。


「こ、こんなピッチリした服着たことないっす」


 ピッチリと言うが、南国の礼服なので胸元は開いているし、袖だって余裕があって風が入ってくるのだ。


「今まで着る機会がなかったもんな! だが明日一日はこれで過ごしてもらうぞ。こいつが晴れの舞台のための服ってもんだ。村のみんなは、お前とポチーナを祝って大いに盛り上がるんだからな。つまりお祭りで、お前ら二人は祭りの主役だ」


「お、おれたちが主役!? お祭りの!?」


 ニーゲルが目を白黒させた。

 情報過多でパニックになっているな。


 もともと素朴な人柄である。

 難しいことを考えるのは苦手で、一度に二つのことができないのがニーゲルという男なのである。


「何も考えなくていいぞ。後でポチーナと式の予行演習をする。そのことだけ考えていればいい。全部俺が先輩として教えてやるからな……!」


「ショ、ショートさん! お願いするっす……!!」


 俺にとってニーゲルは舎弟みたいなものだからな。俺よりも年上だけど。


「さて、教会に行くぞ。あそこが明日の舞台だからな」


「うっす」


 ニーゲルを連れて教会にやって来る。

 ヒロイナとリタがせっせと準備をしているところだった。


「あら、新郎じゃない。式場の下見? 明日は大いに盛り上がるわよ」


「う、うっす」


 ニーゲル緊張の面持ちである。

 ちょっと不安げなのだが、そんなに心配することはない。


 肥溜め管理と肥料作りを一手に担ってるニーゲルは、村のみんなから敬意を抱かれているのだ。

 村が祭りの時も、日照りの時も雨の時も、毎日毎日肥溜めと肥料を管理する。

 村の生命線を担う一人なのだ。


 そんな男の晴れ舞台に、喜ばない村人などいない。

 だがまあ、多少謙虚でいた方が対人関係は上手く行くからな。

 ニーゲルはこのままでいい。


 教会の中の歩き方をレクチャーしていたら、向こうから勇者村婦人会もやって来るではないか。

 今日はみんな、休業モードだな。


「ニーゲル!」


「ポチーナ! 大変なことになってしまった」


 ニーゲルポチーナ夫妻は手を取り合ってあわあわしている。

 裏方してきた人生が、突然祭りの主役になるんだからな。

 気持ちは分かる。


 そして婦人会が不敵に笑んでいる。

 あれは何かを企んでいるな!

 具体的には、ポチーナのドレス姿が思いの外良かったので、明日いきなり公開して新郎を驚かせてやろうという顔だ。


 それを口にしない程度には、俺も明日が楽しみである。


 その後、勇者村ちびっこチームが集められた。

 マドカ、サーラ、そしてビンである。


「三人には、お花を撒きながら前を歩いてもらいたい」


「おはなー?」


「すてき!」


「わかった!」


 首をかしげるマドカ、その光景を想像してうっとりするサーラ、物分りのいいビン。

 三者三様である。


 バインはまだ赤ちゃんに毛が生えた感じなのでこの役割は早かろう。

 つまり、子どもたちが文字通りの花道を作るわけである。


 花は当日摘むとして、今は葉っぱで代用をする。

 教会の中から扉をくぐるまで、葉っぱを撒くのだ。


 ちびっこサイズの籠も用意してある。

 こんなこともあろうかと、婦人会が作っていたのだ。

 恐るべし、勇者村婦人会……!!


「よーし、お花を撒くの開始!」


「はーい!」


 ちびっこたちがいいお返事をして、籠に詰まった葉っぱをワーッと撒き散らしながらトテトテ歩いていく。

 これは可愛い。


 俺はニコニコになる。

 婦人会もこの様子を見ていて、教会はほんわかした雰囲気に包まれた。


「うーうー」


 おっ、パメラに抱っこされたバインも花を撒きたがっている。

 だが、君の場合は一歩目で全てをばら撒いてしまうだろうな!


「バインよ、今はこれで我慢するのだ」


「おー」


「あらバイン、葉っぱもらっちゃったねえ。良かったねえ」


「うばー」


 バインが笑顔になった。

 俺の予想に反して、葉っぱを放り投げるではなく、嬉しそうに振り回している。


 これを、神官席に座ったヒロイナの膝の上から、ダリアがガン見しているのだった。

 ちびっこチームはどんどん増えていくな。

 今年の末には、カトリナとミーとポチーナが子どもを産むことになるだろう。


 すると、赤ちゃんが一気に三人増えるのだ。

 その頃には、ビンは畑作業の実働組に加わっている。


 マドカとサーラも、今よりももっと村の家事の手伝いをするようになっているはずだ。

 うむうむ、勇者村は大きくなっていくなあ……!


 そしてまずは、明日行われるニーゲルとポチーナの結婚式で大いに楽しまないとな!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る