第326話 元勇者侵入行

 兵士たちを撒いた。

 具体的には、超高速で疾走して振り切った後、そのままUターンして城壁をジャンプで越えたのだ。


「村長力ずくしかしてませんニャア」


「完全に脳筋になってますニャ!」


「済まんな。力で何もかも解決できてしまうと、小技を使うのが面倒になってくる……」


 塀の向こう、適当な家の屋根の上に立っている。

 ワルダーク王国を見回すのだが、こうして見ると普通の城下町だな。


「それでどこに行くのですかニャア」


「うむ、悪巧みが行われている場所と言えば、城だろう。城に侵入した後、広域の思考走査を行ってだな。中にあるそれっぽいのを捕まえて叩こう」


「力押しですニャ!」


「俺には力押し以外できないぞ。だが、ありとあらゆる力押しができる」


「力押しの百貨店ですニャア」


「ワールディアに百貨店なんてものがあるのか」


「王都の商会が最近始めましたニャア」


 ワールディアにもだんだんと新しいものが生まれてきているのだなあ。

 こうして徐々に文明化していくのかも知れない。

 俺が神様をやっていれば、そうして人が進歩していく様を見ていられるだろうか。


 感慨に浸りながら、屋根の上をポンポン飛びながら移動する。

 城が見えてきたが、ここは堀に囲まれている。

 門を倒して橋にする形式か。


「ここはジャンプすると目立ちますニャア」


「空を飛んでも見つかりますニャ!」


「うむ。だからお前らごと透明になって音を消しながら飛んで越える」


「力押しですニャア……!」


「力押しの百貨店とニャンスキーが言った通りだからな……! 行くぞ!」


 魔法で姿を消し、魔法で音を消し、そしてバビュンと飛ぶ。

 誰にも気づかれないまま、あっという間に城の堀を渡った。


「おや? 今何かが降りたような……」


「鋭い奴がいるな? お、こいつ、ちょっと魔法を目視できてやがる」


「うわあ! 何かが動いてこっちに」


「ていっ」


 勘が鋭い見張りの兵士を、チョップで気絶させる。

 だがこいつ、才能があるな。

 後でちょっと勧誘するか。


 姿を消した俺を目視できるなんて、天才の一種だぞ。

 ということで、アイテムボクースに放り込んでおいた。


「さらっと拉致しましたニャア」


「才能がある若者なんだから仕方ないだろ」


「勢いで正当化しようとしてますニャ!?」


 ええいうるさいケットシーたちめ。

 だが猫の言うことだ。

 気にしない気にしない。


 俺は城の外壁をトコトコ歩き、この辺りが城の中心かな? というところに落ち着いた。

 ここで、広域思考走査である。

 この間もフシナル公国のレジスタンスたちを無力化する時に使ったあれだな。


 最近では、千人単位を並列して思考走査して、任意の思考や信念をポイっとできるようになっている。

 精神操作系って敵側の能力だよな。

 だけどめちゃくちゃ便利なんだよなあ。


「おお、いたいた」


「あっという間に見つけましたニャ」


「村長を敵に回しては絶対にいけないというのがよく分かりますニャ!」


 相変わらず俺の肩に掴まっている猫たち。

 のんびりしながら好き勝手にトークを楽しんでいるのだ。


「おかしなことに、王城の奥側の部屋でな。ほれ、こうして透視魔法を使うだろ」


「さらっと詠唱も集中もなしに使いましたニャ今」


「そろそろ魔法の数が多すぎてな。自分でつけた名前を忘れてきている……。で、明らかにレジスタンスを焚き付けた連中の一派が、城の中のここ。謁見の間の後ろにある謎の空間にいるんだ」


「それは露骨に怪しいですニャ! 陰謀の香りですニャ!」


「うむ。ワルダーク王国が一枚岩となってハジメーノ王国と敵対しようとしているのでは無いかもな。だからひと目が無いところで密談しているのだ。よし、行くぞー」


「城の中に入るのですニャ」


「いや、物質透過して直で行く」


「力押しニャ!!」


「これ、長年掛かりそうな作業をたった一人で身も蓋もないようなやり方で高速クリアしていっていますニャア。全部村長でいいんじゃないですかニャア」


「何を言うんだ。俺がこれに掛かりきりになったら畑仕事ができなくなるだろう。俺はこう見えて、本当にめちゃくちゃに仕事が多いんだぞ?」


 留学生の相手もあるし、宇宙船村とのやり取りもあるし、何より村人たちが楽しく毎日を過ごせるよう、色々見て回ったりイベントを企画せねばならん。

 そしてマドカを立派に育てたり、次に生まれてくるうちの子を取り上げねばならない。


 こんな陰謀に関わっている場合ではないのだ。

 では、何故俺がこうして、全力で陰謀を粉砕するために動いているのか?


 トラッピアが育成しているスパイを効率的に働かせるべく、ワルダーク王国に橋頭堡を築こうとしているのである。

 そーれ、城を透過して隠し部屋みたいなところに降りてきたぞ。


「うわーっ!? なんだ貴様はー!!」


 俺が突然天井を透過して出現したので、そこにいた奴らは驚愕したようだ。


「問答無用! 思考走査! よし、お前たちが黒幕の一派だな! だがやはり、他に陰謀に関わっている連中を詳しくは知らないか。では、お前たちを利用させてもらう」


「ウグワーッ!!」


 響き渡る悲鳴!

 猫たちは完全に諦めてツッコミをしなくなっている。


「それで……結局どういうことだったんですかニャ」


「こいつらはこの国の大臣だ。ワルダークの王はお飾りでな。こいつらが政治をやってる。で、裏で外国と繋がってるのだが、それでも二国くらいしか情報が分からなかった。いちいち探すのも面倒なので、こいつらの精神をいじってな。スパイをこいつらの手で、二国に送り込むようにするんだ」


「悪のやり口ですニャ!」


「まさか敵側も俺がこんな手を使ってくるとは思うまい。まあこれ、魔王マドレノースのやり方を学んだ結果なんだがな。いやあ、これは強いわ。マドレノースを前に各国が無力なわけだよ」


「魔王の真似をする元勇者……!!」


 ニャンスキーとニャンバートが戦慄した。


「ところで、ワルダーク王国の名物はほぐし肉の瓶詰めらしい。猫にも好評らしいから買っていこうぜ」


「素晴らしいアイディアですニャア!」


「たくさん買っていきましょうニャ!!」


 ということで。

 スパイが働く土台を用意しつつ、俺たちはお土産を買ってから勇者村へ帰還するのだ。

 


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