第323話 暗躍しているやつの話
平和になったなあと思っていたが、良からぬ事を企むやつはいつでもいるものである。
フシナル公国に対する、なんちゃってレジスタンスをけしかけたのは、バックに何者かがついているらしい。
大本を辿れば、ハジメーノ王国に恨みを持った周辺国が浮かんでくるとは思うのだが……。
「まあ、こういう細かい仕事はトラッピアに丸投げだな」
そういうことにした。
シュンッを使って王都へ向かう。
「あっ、これはこれは勇者様! 一瞬でフシナル公国の騒動を鎮圧されたとか! あ、いい匂い」
「フレイバを浮かべたお風呂に入ってきたのだ……」
「いいなあ」
門番とちょっと雑談する。
「フシナル公国はもうこの国の衛星国だろ? 仲良くしておけばフレイバがガンガン輸入されるぞ。あの風呂は超リラックスできる」
「いいなあ……」
ということで、フレイバ湯の香りは門番たちに好評であった。
そのまま謁見の間までやって来る。
「俺だ」
「ショート、またアポイントなしで来ましたわね。まあ、それはつまり重要な案件ということでしょう?」
「ああ。周辺諸国がな。レジスタンスに手を貸してた」
「やはりそうだったのですわね。でも、直接確認を取ったわけではないのでしょう?」
「ああ。レジスタンスの脳を直接覗いただけだからな。物的証拠が無いから連中はしらを切るだろう」
「勇者だった頃のように、実力行使で解決とは参りませんものね」
「俺が戦争の火種になってしまうからな。叩き潰してもいいが、俺への恐怖で世界がまとまるのは、それはそれで嫌じゃないか? 後の時代に勇者村が滅ぼされそうだし」
「あら、お優しいこと。あなたならば何もかも全てを力で押し潰してしまうことだってできるでしょうに」
「俺が魔王になっちゃうでしょ」
平和に解決せねばな。
力で解決するのは容易だが、そっち方面は幸せになる人が少ないのでやらないことにしているのだ。
「悪巧みかい? 僕も混ぜてほしいな」
アレクスを抱いたハナメデルが、嬉々とした様子でやって来た。
それなりに伸びてきたヒゲを、アレクスにいじられているな。
「最近のハナメデルはずっとアレクスを抱っこしているな」
「いやあ、もう、可愛くて可愛くて。半分は乳母が担当してくれているのだけれどね。トラッピアが元気な間は、アレクスの教育をしたりするのも王配たる僕の役割だよ」
「仕事熱心だ! それはそうと、子どもが可愛いのは同意だな」
「ええ。アレクスは可愛い上に利発なのですわ。素晴らしい王になるよう、育てますわよ。ああ、それと、勇者村に留学する候補者が決まったのだけれど」
「話が早いなあ」
留学してくるものたちの選定と、それからハジメーノ王国に牙を剥こうと暗躍する連中への対策。
諸々の話し合いを行った。
「これはスパイを放つべきですわね」
「スパイか……。だとすると、パワースを呼び戻して訓練をつけてもらうのがいいかもな」
「異世界でお仕事があるのではなくて? あちらとこちらでは事情が違うのでしょう?」
「そっか」
海乃莉も怒っちゃうもんな……!
「じゃあスパイの訓練は俺がやるわ。あとついでに留学生も見繕う」
「お願いしますわ。ここまで器用な事ができるのはショートだけですもの」
「おう、村の平和と王国の未来のためだ。任せろ」
次期国王アレクスは、俺が名付けて祝福を与えた赤ちゃんだからな。
もう他人ではない。
……ハッ!?
まさかトラッピア、それを見越して俺に祝福させたんじゃないのか?
ありうるな。
そういうことで、スパイの人選は任せ、留学生の方は俺が決めることになった。
スローライフを維持するためには、こういった政治的な活動が必要なのだ。
世の中というのはとても大変である。
その代わり、村人たちには面白おかしく暮らしてもらうわけだ。
彼らの笑顔と繁栄のために、村長は今日も頑張るのだぞ。
城の人間に案内され、俺は留学生候補とやらを見に行くことになった。
ずらりと並んでいる。
ハジメーノ王国でも優秀らしい連中か。
ふむふむ。
貴族の息子や娘、あるいは大商人の子どもに、神殿の秘蔵っ子。
錚々たる経歴の連中ばかりだな。
だがここに、変なのが一人……いや一匹いた。
「なんでここにもねこがいるの」
「おや、これはお目が高いですニャン! 自分はケットシーのニャンバートと申しますニャン!! 城に潜り込んで城の人々に可愛がられつつ、何の義務も責任も果たさぬままに惰眠を貪っていたら女王陛下に捕らえられましたのニャン! おっそろしい方ですニャン!!」
「ケットシーってのはお前とかニャンスキーみたいなやつばっかりなのか!」
「おや、ニャンスキーをご存知で? 自分とニャンスキーは、ハジメーノ王国に存在する最後のケットシーですニャン! 怠惰でなかったケットシーは人を救うため戦いに身を投じ、魔王大戦で滅びてますニャン! つまり自分とニャンスキーは筋金入りの根性なしですニャン!!」
「凄い覇気で凄いこと言ってる。だけど面白いから採用な」
「光栄ですニャン!!」
あとは、貴族の末っ子だというヒョロヒョロしたヤシモという男を選んだ。
留学生はとりあえずこの二人だな。
すると、候補者たちから抗議の声が上がった。
「勇者様! なぜそのような怠惰な猫妖精とモヤシを選んだのですか!!」
「そうよ! 私たちは幼い頃から英才教育を受けて、貴族としての矜持を身に着けて育ってきたのよ!」
「高貴な者を優先するべきだ!」
そうだそうだ、と声が上がる。
「だが、お前らは勝手にいい教育を受けて、きちんと育ったんだろう? お前らが受けてきたのは、王国という組織の中で活躍するための教育だ。うちの村でやるのは違う。むしろあまり教育されてない、それでいて性格が良さそうなのがいいんだよ」
ニャンバートは趣味だがな。
それでも貴族の子女たちはぶうぶう言う。
仕方ないやつらだな。
「じゃあ、そこの商人の息子も連れて行くよ。こいつは不平不満を一言もこぼさなかったからな」
「あ、僕ですか! ありがとうございます!」
そんなわけで、二人と一匹の留学生を連れ、俺は勇者村へと戻ることになるのである。
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