第321話 紛争勃発と嗜好品の種
「おいショート! 朝っぱらから悪いが女王陛下からの依頼だ」
突然コルセンターが展開し、朝食時の俺に仕事の依頼が来たのである。
「なんだなんだ。緊急事態っぽいな」
「ああ。実は隣の国の跡を再開発中だっただろ」
「おおフシナル公国だろ? 公都は俺が破壊し尽くしたあと、再建され始めていると聞いたが」
「ああ。公爵の親戚がいてな。そいつが新しい指導者になって国を立て直すところだったんだが、主が不在の間にここに良からぬ輩が入り込んで変な組織を作っていたんだ」
「ははあ、レジスタンス的な? 戦う相手もいないのに」
「そういうこった。連中、公国へ不満を持っていた民を焚き付けて反乱を起こしやがってな。今、公都とレジスタンスが睨み合っている状態らしい。周辺住民はひでえ被害を被ってるって言うぜ。今朝方早馬で、公国の使いが来てその様子が分かったんだ」
「よし来た。解決に行こう」
そういうことになった。
俺は基本的に極めて話が早いのである。
「フシナル公国に行くの? 頑張ってねショート!」
「おう、頑張ってくる! 昼飯までには戻る」
フシナル公国は、カトリナとブルストが住んでいた場所でもある。
俺と彼らとの縁が生まれたところなんだよな。
「おとたん! がんばえー!」
「がんばるぞ」
俺はデレデレになった。
マドカのためにも早く帰ってこなくちゃな。
そして俺はシュンッを使い。
すぐにフシナル公国の門の前に出現した。
「うわっ! あ、あなたは勇者ショート!!」
「いきなり出てきた!」
「昨夜使いを出したばかりなのに速い!!」
「うむ。王国もこういう面倒な案件はさっさと片付けたい。俺は昼飯までには戻りたいし、平和も守りたい。ということですぐ来たぞ。相手はレジスタンスか。大方あれだろ。近隣の国の影が背後でちらついているだろ。ハジメーノ王国が隆盛を誇っているから、その衛星国家になりつつあるフシナル公国を手中に収めて、邪魔をしてやろうと言うんだ」
「よ、よくお分かりで」
「大体みんな考えることは同じなんだ。じゃあちょっと平定してくる」
俺は門を開いて外に出ていった。
門が開いたからと、ワーッとなだれ込んでこようとするレジスタンスどもを、デコピンでまとめて吹き飛ばす。
「ウグワーッ!?」
数百人単位でぶっ飛んだな。
怪我くらいはしてるだろうが、まあそこは必要な犠牲である。
俺は拡声魔法を使って宣言する。
『元勇者のショートだ。俺が公国につく。まだレジスタンス活動続けたいってのはかかってこい。そうじゃなきゃ解散して帰れ』
「ゆ、勇者ショート!?」
「ポリッコーレが呼び出した魔王すら一蹴した化け物じゃないか」
おや?
事情通が混じってるな。
俺は特定のキーワードに反応する検索魔法、ヤッホーググ(俺命名)を行使できるので、不穏なワードはすぐ分かるのだ。
「お前とお前とお前だな。そら念動魔法」
「ウグワーッ!?」
俺の念動魔法で持ち上げられたのは、レジスタンスの指導者らしき連中だった。
他に、何人かレジスタンスに混じっている、軍人上がりみたいなのがいるな。
「ちょっと脳内を読むね」
「や、やめウグワーッ!!」
ほうほう、共和国亡き後も、その遺志を継いだ連中とか、それにくっついて利益を得たい連中が暗躍しているらしい。
魔王を倒したらすぐ権力争い。
人間は愚かだな!
とりあえず彼らの脳内の悪いところをまっさらにしてから解放した。
「あっ、世界が輝いて見える!!」
「うむ、お前たちの中から陰謀とか悪心とか狂信的なのを全部取り除いてその辺りに捨てたからな」
レジスタンスは、中枢人物が全員、きれいな中枢になってしまったので戸惑ったようである。
だが、人々の勢いというのは止まらない。
何せ、集団になって気が大きくなっているのだ。
「俺たちは正義なんだ!」
「そうだそうだ! 公国の横暴を許すな!」
そんな事言いながら、近隣の村とか町から略奪して暴力を振るっているではないか。
ということで、話を聞くのも面倒なので、俺は彼らの脳内から悪いものをスポーンっと取り出して捨てた。
「あっ」
「あっ」
「世界が輝いて見える!!」
みんなきれいなレジスタンスになった。
ほい、紛争終わり。
俺が振り返ると、フシナル公国の新たなる公爵は、ポカーンと口を開けていた。
「な……何をしたんですか?」
「彼らから戦う理由とモチベーションを取り除いたのだ」
「なんという強大な力……!! 神にも匹敵します……!! 噂以上ですね、勇者ショート。恐ろしいお方だ」
「ああ。せっかくこの俺が平和にした世界を、すぐに乱されたんじゃ話にならんからな。穏便に片付けさせてもらった」
「これが穏便……!?」
公爵が目を剥いた。
派手に血が流れていないんだから穏便だろう。
俺は、恐らく千人前後のレジスタンスからモチベーションを奪い、明るくて公国再建に前向きな人に変えたのである。
レジスタンス活動をしていた頃の記憶は、彼らにとって、若い頃に掛かった過激思想だったみたいな黒歴史に変わっているのだ。
後は彼らの思考を操作して、悪さを働いてしまった町や村々に謝ったり、壊したものを直す手伝いをするように仕向ける。
これで万事解決というわけだ。
「じゃあ俺は帰るね。バイバイ」
「あ、少しだけお待ちを、勇者ショート! お礼に公国が最近生産を始めた嗜好品がありまして!!」
「なにっ、嗜好品!?」
「……レジスタンスはおざなりに片付けたのに、嗜好品でめちゃくちゃ反応したよこの人」
公国の人々は、驚き半分、呆れ半分で呟くのだった。
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