第317話 その名はライスバーガー

 そう言えば。

 昨年は米が豊作だった。

 めちゃくちゃ獲れた。


 宇宙船村にもけっこう輸出したのだが、それでもかなり残っている。


「普通に食ってもいいが、どうせなら楽しく消費したいもんだな」


 俺は考える。

 米を今までとは違った感じで、楽しく食べる方法……。

 そのまま食べてもいいんだが、パンに芋、最近フックとミーが育てているコーリャンと、主食は様々な種類がある。


 わざわざ米にこだわらなくてもいいのだ。

 ならば、米でなければいけない調理方法を使って、目先の変わる食べ方をしてみたい。

 そう思ったのである。


 ちょうど両親が揃って遊びに来ていた。


 マドカやサーラやバインと、仲良く遊んでいるではないか。


「本当に勇者村に来ると、命を洗濯しているようなもんだよ」


 父がふにゃふにゃになっているな。

 孫や孫の友達と遊ぶのは実に楽しいらしい。


 母がサーラと何やら話し込んでいるが、あれはたくさんお喋りしたいサーラの言葉を、聞いてあげているのだ。

 マドカやバインだと、話すよりまず体を動かすからな。


「あら翔人。何を難しい顔してるの」


「おとたんぽんぽんいたいたい?」


「そうじゃないぞー。心配してくれてありがとうな」


 マドカの頭をなでなでして、うちの母に相談することにする。


「米が豊作でな。どういう消費の仕方をしたらいいか考えてたんだ」


「まあ、幸せな悩みじゃない。そうねえ、お米は色々料理の仕方もあるけど……大体はお米の形のままで食べるわよね」


「うむ」


「最近じゃ、若い人はお米を食べなくなってるそうだし。だから形を変えて、目先を変えて、こっちでもお米の食べ方を色々やってるわよ」


「ほうほう」


「翔人、ライスバーガーはどうだ」


 ここで父の登場である。


「ライスバーガーか!」


「うちでも今、お米を楽しく食べようキャンペーンをしててな! 今の子はハンバーガーみたいな形の方が馴染みがあるだろ。だから美味しいお米で美味しいライスバーガーを作って食べようってやってるんだ。パワースくんも、これはお気に入りでな」


 いつの間にか父とパワースが仲良くなってるな!

 だが、異世界人であるパワースが気に入る米の食べ方。


 ライスバーガーか、

 ありだな。


「ありがとう! 試してみよう!」


 俺たちが美味しいご飯の話をしていることに感づいたマドカ。

 目をキラキラさせながら、


「おとたん、おいしいのつくる? まお、たべる!!」


 鼻息も荒く宣言した。


「よーし、マドカのために美味しいご飯を用意してやるからな!!」


 俺の気合も十分である。


 まずは米を炊く……。

 そしてバーガーっぽい形に成形して、クロロック謹製の醤油を塗る。

 そうそう! 味噌の次に醤油が完成しているのだ。


 ナイスなタイミングだったな。

 これを火で炙るのだ。

 醤油が焦げる匂いが、勇者村に流れていく。


 あちこちから、誘蛾灯に寄せられる虫のごとく、村人たちがふらふらと現れた。


「美味しい匂いがする……」


「また村長が新しい食べ物を作ってる……」


 うちの村人はよく訓練されているので、俺が用意した食べ物はなんでも食う。

 大体美味いと分かっているからだ。


 それに、食というのは田舎の大きな娯楽の一つだからな。

 これが多様な我が村は、素晴らしい娯楽に満ちているとも言える。


「なんか作ってるなショート! 俺にも手伝わせてくれ」


「お、ブルスト! じゃあ、バジリスクの肉をミンチにしてくれ。ハンバーグにする」


「よし」


「私は野菜刻んでおくね。お肉と混ぜて焼くでしょ?」


「さすがはカトリナ……!! 頼む!」


 ということで、うちの一家総出でライスバーガー作りに掛かるのだ。

 マドカとピアが並んでこの光景を見ており、よだれを垂らさんばかりの……いや、実際によだれを垂らしながら料理の完成を待っている。


 すぐにできあがるぞ!

 ミンチ肉に刻み野菜を混ぜて、しっかりと焼く。

 これを焦がし醤油の焼きおにぎりになったお米で挟む!


 試験版ライスバーガーの完成である。


「やったー!!」


 マドカとピアが声を揃えて飛び上がった。

 これは、最初に完成した試作品は、この二人に食べてもらわねばならない流れか……!?


 俺の試食もまだだというのに。

 いや、しかし、他の人間の意見こそを参考にするべきであろう。


 ピアとマドカに、2つに割ったライスバーガーを用意する。

 二人は食堂の席に並んで座り、むしゃあっとかぶりつくのだ。


 アツアツなのだが、グルメのためならば熱すら克服するマドカ。


「んむー!!」


 目をキラキラ輝かせて、もりもりとライスバーガーを食べる。

 隣のピアは既に食べ終わっていた。


「き、消えた! うちの食べ物があっという間に消えてしまったよ!!」


「二口で食べたな……! ご感想は?」


 俺の質問に、ピアが深く頷いた。


「めっちゃ美味しかったです。もっとたくさん作って!!」


 ざわざわする村人たち。

 一同の視線が俺に集まった。


「分かった!! これから全員分のライスバーガーを作る!!」


 俺の宣言の後、勇者村は大歓声に包まれるのだった。

 ちなみにみんなの腹がくちくなった後、俺も自分のライスバーガーを食ってみたのだが、焼けた醤油の味と米と肉の組み合わせはヤバいなという感想に落ち着いた。


「次はお醤油に砂糖を入れて、野菜はきんぴらにして挟んじゃった方がいいかもね」


「母!!」


 いきなりの母からのアドバイスである。

 まだまだ、やれることはたくさんあるということか。


 料理の道は果てしない。


「おとたん!! あのねー! おいしかったからねー、またつくってね!」


「よーし!! また作っちゃうぞー!!」


 果てしなかろうが、我が娘のためなら幾らだって歩めるのだ!!


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