第316話 ゴーレム、二等兵と遭遇する
『おや?』
『おや?』
『おや?』
『おや?』
『おや?』
休憩中らしいゴーレム五体。
奴らがお日様の下で天日干しになっているのを見ていたら、何やら動きがあったようである。
一斉にとある方向を見ている。
そっちからは、地球で言うお掃除ロボみたいな外見のお掃除ロボがやって来るではないか。
二等兵だ。
『太陽光が多くて充電が捗りますねー。おや?』
五体のゴーレムが立ち上がり、動き出す。
二等兵もまた、彼らの方へ向かっていった。
今……この土地で生まれた、なぜか意思があるへんてこなゴーレムと、遠い宇宙の彼方で誕生したお掃除ロボが遭遇した……!
『魔法の力で動いていない?』
『これは』
『不思議』
『ですね』
『。』
最後の一人にセリフを残しておいてやれよ。
『ワタクシは二等兵。誇り高きお掃除ロボです』
『ロボ!』
『知らない』
『種類の』
『ゴーレムですね』
『私にも台詞を残して下さい』
おっ、ゴーレム5が主張をしたぞ!
えらい。
『うおー!』
『うおわー!』
ここで、ゴーレム4と5が取っ組み合いの喧嘩を始めた。
こいつら、意思を一つにする存在かと思っていたが、別にそんなこともなかったんだな。
「待て待て。貴重な労働力が殴り合うのはよろしくない。二人とも、肥溜めをかき混ぜる大切な仲間ではないか」
『確かにそうです』
『一理あります』
「お前たちのどちらか、あるいは片方が破損したとするだろう。そうしたらニーゲルの負担が増えるのだ」
するとゴーレム二体は、ハッとした顔をした。
いや、表情は変わらないんだけどな。
雰囲気がそんな感じになった。
本当に感情表現豊かだなあ。
人間と変わらないじゃん。
『我々は分かり合うべきだったのかも知れません』
『ええ。最初は鉄板のギャグだと思って流していたのですが、4、あなたはちょっと喋るのが多すぎるのでは』
『ちょっと足りないくらいで止めるようにします』
『それがいいです』
話し合いで解決した。
文化的ゴーレムである。
下手な人間より頭いいじゃん。
すっかり話題に置いていかれた二等兵は、ウィンウィンと食堂の方に動いていった。
村の中を走っていても、特に掃除するものなどない。
というか、大自然は何がゴミで何がそうでないかなんか分からないからな。
二等兵は早々にお掃除を諦め、ただ村の中を適当に走り回るロボットになっている。
たまに雑草を抜いてくれるから、掃除みたいなことはしてくれる。
「二等兵は太陽光発電なのか」
『風も地熱も水力も電力に変えられますよ』
「すごいな!」
再生可能エネルギーコンプじゃん。
だが、基本的にはエーテルの流れを使って発電しているそうで、それが無い地上では他の力を代替として使っているだけらしい。
『村長。彼の名は二等兵と言うのですか。我々が眠っている間に新しい仲間が増えていたのですね』
ゴーレム1が代表してやって来た。
「ああ。お前らと二等兵、生まれは違うが、なんか異常に感情が豊かで人間的なんで、普通に話が合うと思う。科学と魔法が行き着いた先が、雑談できるゴーレムとロボってのはすごい話だよな」
ゴーレム1と二等兵が、雑談を始めた。
炭焼の様子とか、畑の見回りとか、仕事を見に来た子どもたちとか、上に赤ちゃんを乗せて走っただとか。
こいつらを見ていると、人かゴーレムかロボかなんて関係なく、みんなうちの村の住人なんだなあと納得するのである。
村の外では、人種だ国家だと、些細な違いで争っている。
しかし、ここではゴーレムとロボと赤ちゃんがこうして仲良くやっているではないか。
多分、損得が絡んでないから上手くいくんだな……。
赤ちゃん?
「あば!」
「バインじゃないか! 一人で来たのか!!」
「あばぶ!!」
力強く答えたバイン。
なんと俺の目の前で、ひょいっと立った。
「うわーっ!! バインが立った!!」
俺は飛び上がって驚く。
今まで微動だにしなかった、誰かに引っ張られてばかりだったバインが、自らの足で!
しかもめちゃくちゃしっかりした足取りで立っている!
こいつ、ずっと力を溜めていたのだな。
既に足はむちむちしていて、自重を支えるパワーを十分に持っているようだ。
どうやら食堂の奥の方で、二等兵がやって来たのを見て自ら会いに来ようと思ったらしい。
その時に、周囲に運んでいってくれるものはおらず、自分しかいない。
仕方ない、自ら動くかと決断し、彼は立ち上がって歩いたのである。
ハイハイすることなく、いきなり歩いたか……!
赤ちゃんの進化もいろいろである。
「あばーぶーぶー」
『バインさんがワタクシに乗りたがっていますね……! どうぞ!!』
「あぶぶ!!」
バインは二等兵の上に、どーんと鎮座した。
一歳児としてはめっちゃ大きいバイン。
二等兵が小さく見えるな。
俺の叫びを聞いて、パメラがすごい勢いで走ってくるのだが、彼女がやって来た時にはバインは遠ざかっている。
「ショートーっ!! バ、バインが立ったって!?」
「おう。いきなり立ち上がり、こっちに歩いてきて二等兵に乗って去っていった」
「情報量が多すぎるねえ……!!」
『おめでとうございますマダム』
『おめでとうございますマダム』
『おめでとうございますマダム』
『おめでとうございますマダム』
『おめでとうございますマダム』
ゴーレムたちがワーッと拍手をして、パメラを祝福した。
「あ、あたしが凄いんじゃなくて、バインを褒めておくれよ!」
おお、パメラが照れてる。
向こうでは、二等兵から降りたバインを、マドカやパメラやビンが囲んでワイワイきゃあきゃあ騒いでいるではないか。
これでバインも本格的に、勇者村ちびっこ軍団として動き回るのだな。
『どんどん新しい仲間が増えて参りますねえ』
「おう。にぎやかになっていくぞ。まだまだ」
ゴーレム1に、俺はちょっと嬉しくなりながら返すのだった。
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