第315話 ホームステイだよフォレストマン

 勇者村は安全なところだということで、フォレストマンの子どもが我が家に数日ホームステイすることになった。

 マドカより何歳かお姉ちゃんの、ポラポちゃん。

 なんと、マレマの娘らしい。


 フォレストマンはヤモリ人なので、鼻が突き出たトカゲっぽい風貌をしている。

 俺たちとは外見がかなり違うのだが……。


 マドカと二人で、きゃあきゃあ遊んでいるのを見ると、子どもはみんな子どもだなあと思うわけである。


「ぽら! まお、つえてってあげう!」


「マドカ、むらのなか、おしえてくれる? うれしい!」


 ということで、マドカとポラポが連れ立って外に遊びに行った。

 シュッと走ってくるトリマルである。

 さすが、マドカの兄貴分。


 二人の冒険を見守ってくれるつもりなのだ。

 俺も分身を飛ばしておくぞ。


 手をつないだ二人が、日陰をばたばた走っていく。

 向かったのは炭焼小屋だ。


『あーっ、朝露で湿った体が乾いていくようです』

『それは本当に乾いているのではありませんか』

『いけないひび割れて来ました。こんなこともあろうかと霧吹きですシュッシュッ』


 ゴーレムがたちが作業をしながら会話している。

 本当に個性的な連中だなこのゴーレム。


「お? 村長のところのガキとフォレストマンのガキか。あんまり窯に近づくなよ。危ないからな」


 ガンロックスがちらりと振り返った。

 そしてトリマルがいるのを見て安心したようである。


 我らがホロロッホー鳥軍団総大将トリマルは、既にガンロックスからも信頼されている。

 勇者村では俺に次ぐ実力者だからな。


 ビンが時々、メンタルとタイムの部屋でトリマルに挑んでは返り討ちにされている。


「トリマルつおいよねー。ぼく、ぜんぜんかてないや」


 ビンはこの時ばかりは悔しそうな顔を見せるので、やはり男の子である。

 まあ、トリマルはな。

 魔力砲の威力とコントロール、そして圧倒的な体術で頂点に立っている正統派の鳥だからな。


『ホロホロ』


 トリマルがガンロックスとゴーレムたちに挨拶をし、マドカたちの横をてくてく歩く。


「とりさんねーきれいねー」


 ポラポちゃんがトリマルの羽を撫でた。

 彼女はきれいなものが大好きらしくて、トリマルがお気に入りなのだ。


「のる?」


 マドカがとんでもないことを聞いてきたぞ。


「のれるの!?」


「のれうよー!」


 安請け合いしたな!

 だが、トリマルは問題ないよ、という風にホロホロ言う。

 そして、『ホロ!』と茂みに呼びかけた。


 しばらくすると、ガサガサと音がして、アリたろうが顔を出した。

 なるほど、ポラポちゃんはトリマルが乗せて、マドカはアリたろうが乗せるのか。


『お気をつけてー』

『どこに行くんですか』

『肥溜めは落っこちるから気をつけて』


 ゴーレムたちになんか心配されつつ、次なる目的地に走り出す、ちびっこ二人とどうぶつ二匹。


「わー!」


「わー!」


 ということで、ちびっこ二人は村の中を駆けていく。

 途中で、サーラの家にやって来たようだ。


 ここにもフォレストマンが二人ホームステイしている。


「まおー!」


 サーラが手を振り、フォレストマンのちびっこも二人手を振った。

 マドカとポラポは手を振り返しながら、トットコトットコとトリマルとアリたろうを走らせる。


 どこまで行く気だろうな。

 今度はビンの家に来た。


 こっちにもフォレストマンの男の子がホームステイしているのだ。

 ビンから念動魔法の手ほどきを受けている様子を見ながら、通過。


 おっ!?

 フォレストマンの男の子が何か、石ころを浮かせていたような。

 才能あるんじゃないか?


 一行がトテトテ走る。

 勇者村は住人こそ少ないが、田畑が多く、丘ヤシやサボテンガーなんかもいる。


 ほら、ホロロッホー鳥の鳥舎に来たぞ。


「ホロホロー!」


 ホロロッホー鳥たちが反応して、わいわいと寄ってくる。

 立ち止まったトリマルとアリたろう。


 マドカとポラポは降りて、鳥たちをもふもふして遊ぶのである。


「ねー。もふもふねー」


「やわらかいねえー」


 フォレストマンたちも、もふもふしたものを可愛がる文化があるのだなあ。

 鳥舎で存分にホロロッホー鳥をもふった後、再び旅立つ二人なのである。


 今度は肥溜めの方に。


『あっ、赤ちゃんたちが来ますよ』


『肥溜めガード!』


「危ない、危ない!」


 肥溜めの前で、ゴーレム二体とニーゲルが立ち塞がった。

 うむうむ、万一にも落ちないようにしてるのだな。


 俺は小型の分身を先に飛ばして、彼らに呼びかけた。


「すまんな! 俺が見守ってるから、いつもどおり仕事をしてくれ。この子たちの社会勉強みたいなもんだ」


「村長……! わ、わかった」


 ニーゲルはいつものように、肥溜めに素材を放り込み、ぐるぐるとかき混ぜ始めている。

 肥溜めが熱を持っているな。

 発酵しているのだ。


 こうして寄生虫や不要な菌などを殺して、栄養のある肥料にするわけだ。

 勇者村の肥溜めの数は合計で五つ。

 ニーゲル一人だとギリギリの作業だが、ゴーレム二体が加われば余裕を持って管理できる。


「なあにここー? くさーい」


「あのねー、ここねー、うんちをねー」


 おおっ!

 マドカが説明してあげている!!

 ついにマドカが、教える側に!!


 これは感動的だ。

 だが、まあそうは言ってもまだ二歳だからな。

 ボキャブラリーがなくて全然説明できなかった。


 ニーゲルが振り返って、うんこを発酵させて、野菜の栄養になるものにするのだ、という説明をしてくれた。

 彼はボキャブラリーがやはり乏しいが、だからこそ分かる単語だけで端的に述べる。


 マドカもポラポも、大変感心したようで、ふんふんと聞いていた。


「ふしぎねー。うんちねー」


「ふしぎだねー。そういえばね、ポラポのとこでもね、うんちをうめるのね」


「うんち!」


 おお、共通の話題で盛り上がっている!

 異文化交流である。


 これで、マドカとポラポちゃんはめちゃくちゃに仲良くなったようだな。

 まさか二人が心を一つにする場所が肥溜めだとは!


 その後、二人はニーゲルの家でポチーナに甘いお茶を出してもらったりしたようである。

 手をよく洗ってから飲むのだぞ……!



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