第313話 弟子来たる

「ここが勇者村ですかニャア」


「そうですニャア」


 突然ニャアと声を掛けられたので、俺もニャアと返事をしてしまった。

 振り返ると、直立した猫のようなものがいる。


 白色と青色のぶちの毛皮で、ふさふさしている。


「なんだね君は」


「私はニャンスキーと言いますニャア。即ちガンロックスさんのお弟子ですニャア」


「なんと、直立する猫が弟子だったとは。ああ、俺はショート。この村の村長だ」


「村長! 勇者村の村長ということは、即ち勇者様ですニャア!? これはこれはご拝謁の光栄に賜りうんちゃかぽんちゃか」


「丁寧語知らないんでしょ。無理しなくていいから」


「即ち見抜かれてしまいましたニャア。ああ、私はケットシーという種族で獣人とは違って、こっちにいついた妖精ですニャア」


「なるほどー。個性的なのが来たなあ」


 ということで、直立した猫みたいに見えるケットシー族の紳士、ニャンスキーを迎えたのである。


「おお、来たかニャンスキー! 燃えてしまったヒゲは生え揃ったか」


「おかげさまで即ち生え揃いましたニャア」


 ガンロックスと再会を喜び合っている。


 村に見知らぬ猫がやって来たので、子どもたちが興味津々で集まってくる。


「なんこれ!」


「ニャンスキーですニャア」


「おー」


「マドカ、お名前を言うのだ」


「あっ! えっと、まおか! 2ちゃい!」


「これはこれはご丁寧にですニャア」


 マドカとニャンスキーが握手している。


「サーラだよ。3さい!」


「これはこれはご丁寧にですニャア」


 サーラとニャンスキーが握手をした。

 なんだかサーラが嬉しそうだな。

 猫が好きそうだもんな。


 ニャンスキーは聞いたところ、妖精なので不老不死らしいのだが、だらけられるなら永遠にだらけてしまう猫的性分のために、ずっと生きているが特に凄いことはできないと言うことである。


「人の家に居着いてですニャ。寝床とご飯をいただいて、その人が寿命になったら看取って立ち去りますのニャ。そんな暮らしを千年ほど」


「悠久の時をフリーのイエネコとして暮らしてきたのか。ベテランだな」


「ですが私も、魔王大戦で、いつまでもイエネコを飼えるような余裕は人々にはないと即ち察しましたニャア」


「人柄がのんびりしてるのに、口癖が即ちなのか」


「行動を変えるために、言葉から入ってみようと思ってますニャア」


 こりゃあ凄い人材が……いや、猫材がやって来たものだ。

 彼は何かをできるようになろうということで、ガンロックスに弟子入りしたらしい。

 で、初っ端でヒゲを焦がしたので、休養の旅に出ていたと。


 まだなんにも教えてもらってないんじゃないか?


「俺もこいつと過ごしたのはまだ半日くらいだな」


「初日リタイアじゃねえか」


「不屈の精神で即ち戻ってきましたニャ」


「なんでそこまで情熱を抱いているのかよく分からん」


 そんなわけで、ニャンスキーを色々な仕事にチャレンジさせることにした。

 何が向いているか分からんからな。


「ではまず肥溜めの仕事を」


「うわーっ、これはきついですニャア。即ちリタイアですニャア」


「諦めが早いな!」


 だがニャンスキーの猫的体格では、肥溜めをかき混ぜるパワーが出せまい。

 確かに向いていない。


「では魚釣り」


「即ち釣った傍から食べてしまいそうですニャア」


「そう言えばそうだ」


 自分というものをよくわかっているなこの猫。


 さて、こいつは何ができるだろう?

 考えながら、猫を連れて歩き回る。


 俺の後ろに、直立したニャンスキーがとことこついてくるので、村の仲間は珍しがって集まってくるのだ。

 その度に、ニャンスキーと挨拶をしあって握手している。


 社交的なやつだな。


「長い間他人の家に居候しますからニャア。社交的であるべきところでは、即ち全身全霊で社交的になりますニャア。終わった瞬間怠惰になりますニャア」


「力の入れどころと抜きどころを理解しているんだな」


 だとすると、瞬間的に力を発揮するような部門に配置するのがいいんじゃないだろうか。

 それはつまり……。


「開拓部門だな」


 木を切り倒した後、切り株がたくさん残る。

 こいつを引っこ抜き、開拓できる地面に均す仕事だ。


「切り株は俺やブルストが引っこ抜いていたんだが、抱えている仕事も多くてな。できるか?」


「猫魔法でお茶の子さいさいですニャア」


「よく知らん魔法体系が出てきたぞ」


「ケットシーだけに伝わる、しっぽを使った魔法ですニャア。そーれ」


 ニャンスキーが、尻尾を切り株に向けた後、ぐーるぐると振り回した。

 すると……。


 切り株がムズムズムズッと震え、次の瞬間にはスッポーン!と抜けてくるではないか。

 そして踊りだす。


「なんだこれ!」


「猫魔法、むずむずダンスですニャア」


「本来は何に使う魔法なの」


「動かないものを踊らせますニャア。即ちそれだけですニャア」


「なんと使い所が見出しづらい魔法だ」


 しかし、こうして切り株を抜く役に立つ。

 これはどうやら雑草にも使えるらしく、深いところまで張られた根っこまで引きずり出してしまうそうである。

 これは強い。


「他、多種多様な猫魔法を使えますニャア」


「大したことはできないと言ってたのに、凄いことができるじゃないか」


「長生きしてるとサボってても何かは身につくモノですニャア。ですが勇者村では即ち、頑張ってもっと早めに何かを身に着けたいものですニャア」


 おお、猫の決心。

 その気持ちを応援してやろうではないか。



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