第312話 さらば女王陛下! 視察終わり!
「いけますわね」
「セミをばりばり食ってるな。強くなったなあ」
「そりゃあ女王ですし、母ですもの」
なんたる説得力か。
すっかり宇宙船村でもおなじみのスナックになりつつあるセミ焼きを食べ、畑を視察して、大満足で帰還する女王陛下である。
「他の昆虫もあるのかい? 食べられるんだねえ……」
「おいハナメデル、クロロックが関わってない虫は食わないほうがいいぞ」
「そうなのかい?」
「ウグワーッ!!」
おっと、よく分からん芋虫の焼き物を食ったやつが泡を吹いて倒れたぞ!
やっぱり宇宙船村、基本的に大雑把な連中ばかりだ。
なんでもかんでも焼けば食えると思うなよ!
「……なるほど。これは知識人の話を聞いておかなくちゃ、危なくて食べられないようだ」
ハナメデル、理解が早い。
とりあえず、ぶっ倒れた男から毒消し魔法ドクトールで毒を抜き去っておく。
「よし、では帰還!」
「はーい!」
「あーい!」
カトリナとマドカがいいお返事をした。
勇者村に戻ってきて、それからの女王陛下はのんびり過ごした。
日陰で魔本を読んだり、勇者村謹製のお茶を飲んだり、丘ヤシのスイーツに舌鼓を打ったり。
コルセンターはエンサーツの方に掛かってるから、雑務はあいつがどうにかしてるだろうしな。
エンサーツはブルストとともに、泊りがけで釣りに行っている。
焼き魚をしたりして食ってるんだろうなあ。
「おとたーん!!」
日陰でぼーっとするという贅沢な時間を味わっていた俺は、マドカによって現実に引き戻された。
「なんだいマドカー」
「あのねー! こえねー」
「その板に書かれた謎の紋様……!! もしやマドカが描いたのか!!」
「そだよー!」
「す、すごい、天才……! うまい!!」
なんだろうな、これ!
褒められてニコニコするマドカ。
これは、お絵かき用の木炭によって書かれていた。
最近は、家や地面、石なんかにも落書きがされているな。
子どもたちの創作意欲が膨らんでいっている。
頭の中で考えているだけよりも、こうして形にしていった方が世界が膨らんでいくものな。
「あらあら、大したものですわねえ。これ、絵本といいましたっけ? あれの模写ですわね? 凄いものですわねえ……」
「おや女王陛下」
「やめてくださいまし。わたくしはただのトラッピア。今はリフレッシュ中ですのよ! それにしても、こんな田舎に知恵や知識の源たる本がたくさんあるなんて。ブレインに色々見せてもらいましたけれども、こんな環境で育ったなら、とんでもない才能が生まれるかもしれませんわねえ」
「やはりそうか……! なんかそういう気がしてた」
「おー?」
「マドカはすごいなーって言ってたのだ」
「おー! まお、すおい!!」
「すごいすごい!」
マドカを高い高いする。
うーむ!
宇宙一可愛い。
「ふむ……アレクスが育った後も、優秀な臣下には困らなそうですわね……」
今からそんな野望を!?
これは、将来的には王国側からの影響をどうくぐり抜けるか対策を考えていかねばならんな……!
「それに……ショート。村は恐ろしい数の魔本を所有しているそうではありませんの」
「それもブレインに聞いたか……!」
「何でも話してくれましたわね……! 久しぶりに人間とお喋りしますよ、と言っていましたわ! 聞き役に回ったらたくさん教えてくれましたわよ」
「最近ブレイン、図書館にこもりっきりだったもんなあ。今度はたまに無理にでも連れ出さんとな」
反省する俺である。
この点を突かれて、我が村が世界トップクラスの魔本貯蔵庫であることがバレてしまった。
「まさかあれほど広大な空間が図書館の中に広がっているとは思いませんでしたわ。
数冊程度の魔本だとばかり思っていたものが、これほどとは。ですが……残念ながら、あれらを管理できるほどの実力者は、今の王国にはおりませんわね」
おや?
権力を使い、魔本を接収するなんて言うと思っていたが。
「ねえショート。わたくしから一つお願いがあるのですけれど」
「ひえっ、なんだその猫なで声は」
「おとたん?」
「マドカは教育に悪いからあっちに行っててな……。よし、お母さんにもマドカの絵がすごいところ見せてあげよう!」
「うん! おかたーん!!」
マドカがトテトテと走っていってしまった。
ふう。
トラッピアの謀略みたいなものを聞かせるのは、子どもの将来によくなさそうだからな!
「それでお願いってなんだよ」
「ええ。王国には、新たなる時代を築くための若き才能が集まってきていますわ。ですけれど、魔王大戦によって、優秀な魔法使いや賢者は死んでいましたの。大戦が始まった時に集中的に狙われましたから」
「あー、マドレノースはそういうところが狡猾なんだよなあ」
死んでからも株を上げ続ける魔王、マドレノース。
「ですけれども、ここならば自らの意思を持つ魔本がたくさんありますでしょう? 若い子たちはこちらに留学させてもよろしくって? もちろん、食料などは十分にもたせますわよ」
「そういうことかあ」
「ブレインは構いませんよって言ってましたわ」
あいつは言うだろうなあ。
知識が広まっていくことを愛する男だ。
「うちもな。日常的な仕事で忙しいからな。足を引っ張らないようにしてくれるなら、別に受け入れるのはやぶさかではない」
「良かった! では決まりですわね! 視察はこれで終了! 最後に大きな収穫を得ましたわ!」
トラッピアがパチンを手を打ち鳴らした。
すると、どこに隠れていたのか、エンサーツとギロスがやって来る。
「お帰りですか陛下」
「ええ。素晴らしい成果を得られましたわ。ハナメデルとアレクスは、もう少しゆっくりしてもいいのですけれど……」
そう言ったら、ホギャーと泣くアレクスを抱っこして、ハナメデルが走ってきた。
おっぱいが欲しい泣き声だ。
「ではショート! 留学生の件はお願いしましたわよー!」
「お願いされてしまった」
去りゆく女王陛下と、お連れたち。
やはり一筋縄ではいかない相手なのだった。
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