第311話 女王陛下、宇宙船村を視察する2

「ヒーット!」


「やりますわね! わたくしも!!」


 バリバリ、ブリブリ、トラクタービームが唸りをあげる!

 放たれたグニャグニャに曲がった光線が、その辺の小石や通行人に命中し、引き寄せるのである。


「ウグワー!?」


「おっと、通行人だった。すまんな」


「案外難しいですわね、これ。ぐにゃぐにゃしてるから命中させづらいですわよ」


「多分、宇宙空間だとまっすぐ飛ぶようにできてるんだろうな。ここは空気とか色々あるから曲がるんだ」


 宇宙はエーテルに満ち満ちている。

 惑星ワールディアが浮かぶのは、エーテル宇宙なのだな。

 トラクタービームは、エーテルの中で使用する時に最適な調整をされているようだ。


 しかしまあ、でたらめに飛ぶビームが面白い。

 そして景品は全く当たらない。

 射的が商売になるわけだ。


 撃ってるだけで楽しいもんな!


 結局、俺もトラッピアも、何一つ景品をゲットできずに終わった。


「任せてショート」


「では、女王陛下の仇をとろうかな」


 カトリナとハナメデルが出陣だ。

 アレクス王子は、トラッピアの腕の中に。


「あぶあぶ」


 何か赤ちゃん語を発している。

 マドカは無邪気に、「おかたんがんばえー!!」と応援中だ。


 ジャキーン、とトラクタービームを腰だめにするカトリナ。


「来たぞ、チャンピオンだ」


「チャンピオンに挑戦者か」


 なにっ!?

 うちの奥さん、チャンピオンなのか!?


「ココ最近で景品を2つ以上ゲットしたの、彼女だけだからな」


 射的屋の主人が唸る。

 そこまでの腕前だったのか。


 ハナメデルがトラクタービームの扱いに苦戦している横で、カトリナのビームがニョロニョロと伸びる。

 これがなんと、ニョロニョロの性質を完璧に理解している動きで操作される。


 見事、景品の一つ……。

 宇宙船の残骸で作った残骸人形に命中!


 ニョロニョロと引き寄せてくる。


「チャンピオンが腕を上げてる……!!」


「一発とかマジかよ……」


 カトリナはフッと笑うと、トラクタービーム発射装置を射的屋の主人に返すのだった。


「あんまり取っちゃうと商売にならないもんね」


「いやあ、チャンプには敵いません」


「おかたんやったー!」


「はい、マドカ。お人形さんだよー」


「おにんぎょたんやったー!」


 マドカが、明らかにロボット然とした残骸人形を掲げて喜ぶ。


「すごい。うちの奥さんのすごいところをまた一つ発見してしまった。すごい」


「うふふ、ありがとー。なんか照れる」


 カトリナが照れて、俺をペチペチする。

 ちなみにその横で、ハナメデルはトラクタービームの扱いをなんとなく把握したようだ。

 どうにか景品を一個手に入れて、周囲から拍手が起こっていた。


 トラッピアの仇はうてたようだな。


「いやあ、難しいねこれ。それなりの勢いで飛び出すけど、扱いは軽めで大丈夫。だけどこのグニャグニャしたのが言うことを聞いてくれない。カトリナはどうしてこれが得意なんだい?」


 ハナメデルからの質問に、カトリナが微笑んだ。


「ビームが行きたい方向があるから、そっちに向きを変えてあげるの。そうしたら、ビームはへそ曲がりだから、違う方に動くのね。そうやってると方向をちょっとは自由にできるようになるんだよ」


「すげえ」


 俺は感心してしまった。

 カトリナにそんな才能が……。


 そもそも、トラクタービームが曲がりたがっている方向というのはどっちなんだ。

 試しにびびびびび、と撃ってみたら俺の方に飛んできたので、慌てて回避した。


「ショート、何してますの? 行きますわよ!」


「おう。俺には何も分からん……!」


 射的の屋台を見学した俺たちは、そこから村長の居場所へ。

 村長たる鍛冶神は、宇宙船の真横にいた。


 ピカピカ光る男が、地面の上で直接あぐらをかいている。

 発掘されてくる宇宙船の外壁を、一つ一つ見てやっているらしい。


『これは質が良くないな。外国に流しても構わんだろう。こちらは上質だ。国に提出しろ。どうせこの村は税を納めていないのだろう』


「税金を納めるつもりですのね? 素晴らしい心がけですわ!」


 トラッピアが胸を張って、ずんずん歩いていった。

 神様相手だというのに物怖じしないな!


「あなた誰ですの? 村長? なんで透けて光ってますの?」


『神は鍛冶神であるからな』


「神様ですの!? どうして神様が村長に!?」


『色々あったが、宇宙船を採掘するとなれば鍛冶神の出番である。税が必要であろう』


「ええ。国防のために安定した税収が必要ですわ」


 地球だと、税金ってのは貧富の差を均すためのもので、国家の収入じゃないって話だったが、こっちだと違うんだな。

 俺が首を傾げていると、ハナメデルが説明してくれた。


「税は必ずしもお金ではないんだ。むしろそうでない場合が多いんだよ。誰もが税として納められるほどのお金を持っているわけではないからね。その土地の農作物や動物、毛皮などが多いかな。これらを使い、国家の備蓄にしたり、兵士たちの糧食にしたりする。毛皮や動物なら外国との取引をして武器やこの国で生産できないものを仕入れるんだ」


「ほうほう……」


 つまり、経済を回すためのもので、やっぱり国を維持するために税があるわけではないんだな。

 ふむむ、難しい……!

 そして俺は考えるのを辞めた。


 俺は村長なのでそんな難しいことは考えなくてもいいのだ!


 結局、女王陛下は宇宙船村の村長から、正式に税を納めてもらう約束を取り付けたらしい。


「最高の成果ですわ。この素材を使えば、我が国の軍隊は更に強くなるでしょう!」


「そうかそうか。どう? 満足した?」


「最後に村の中を一回り致しましょう」


 まだ行くのか!

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