第310話 女王陛下、宇宙船村を視察する

「宇宙船村を見に行きますわよ。ショート、ついてらっしゃい」


「ほう、そりゃまたどうして」


「堂々と脱税してる村じゃない。そんなの、わたくしが直接言ってガツンと言ってやりますわ。せっかく近くまで遊びに来たのですし」


 仕事熱心なことだ……と思いきや、トラッピアはちょっと楽しみそうである。

 視察にかこつけて、宇宙船村で軽く遊ぶつもりだな。


 俺とハナメデルとカトリナ、アレクス王子にマドカの六人で宇宙船村に行くことになった。


 勇者村から、宇宙船村は視認できるくらい近いところにある。

 そもそも、山のようにそびえ立つ宇宙船の残骸がはっきり見えるからな。

 毎日採掘されているだろうに、全く小さくなった気配がしない。


「あぶあぶ」


 アレクスが、道中の大自然に目を見開き、きょろきょろしながら赤ちゃん語を口走っている。

 これは刺激的であろうな。


「あれうー、ちっちゃねー」


 マドカは俺に肩車されつつ、ハナメデルに抱かれたアレクスをじーっと見ている。


「赤ちゃんだからな」


「あかちゃ! だりや?」


「そうそう。でもダリアより大きいだろ」


「おっきね! あかちゃ、おっきい?」


「そうそう。ぐんぐん育つんだ。バインだって赤ちゃんだけど、めちゃくちゃでかいだろ」


「ばいんおっきね! さーあ、ちっちゃねー」


「サーラは小柄だが、マドカとバインが特にでかいんだ」


「おー」


 なんか理解したらしい。


「マドカが凄く賢そうな顔をしてる」


「世界の真実に触れてしまったか」


 俺たちの会話を聞いていたトラッピア。


「マドカは本当によく喋りますわねえ。頭の回転が早そうですわ。うちの子もそうなるかしら」


 ちょっと心配げなことを口にした。


「らしくないな、弱気じゃないか」


「こればかりはわたくしの力でどうにかなるものではありませんもの。個人の資質でしょう?」


 冷静だなあ。


「俺が祝福をしたから、傑物になるのは間違いないと思う。あと、周囲にある色々なものに反応しているから、知的刺激をたくさん与えると凄いやつにはなりそうだぞ」


「ふむふむ……。ということは、たびたび勇者村に遊びに越させないといけませんわね」


 ほう、アレクス王子が頻繁に我が村に?

 それはそれで面白そうだ。


「その時には、僕がアレクスを連れて行くことになるね。いつも女王陛下が留守だったら困るだろう?」


「あら、ならわたくしと交代で行くべきですわ! だって、わたくしもたまには羽を伸ばしたいのですもの」


「なんだかトラッピアさん、前よりも柔らかい感じになったね」


「うむ。アレクスが生まれて、すくすく育ってて安心したんだろうな。この国の貴族たちも大半が入れ替わり、信頼できる連中に変わったし」


 亜人貴族のいいところは、利害関係さえしっかりやっておけば、その地位で満足して協力的になることだ。

 変な欲をかいたりしないんだな。

 ただ、名誉と面子を重んじるからそこだけはちゃんと対応してやらないといけない。すぐ反逆する。


 そんな話をしていたら、宇宙船村に到着だ。

 俺たちを見て、外で見張り担当だった村人がビシッと直立不動になった。


「勇者ショートさん! お通り下さい!」


「おう」


 そして俺とカトリナとマドカの後を、なんかロイヤルな格好の夫婦が通過するので首を傾げた。

 お忍びの視察だからな。

 格好が全く忍んでいないのだが、まさか女王と王配と王子が直々にここを訪れるなんて夢にも思わないだろうし。


 ちなみに見張りだが、見張りというほどのものでもない。

 野生動物やモンスターが現れたら、村に知らせる役割、程度の者なのだ。


 今のワールディアはかなり平和になっているからな。


「賑わっていますわねえ。これ、みんな宇宙船村の住人ですの? 勇者村の十倍くらいいるじゃない」


「もっといるかもしれん。そろそろ町だな」


 定住している村人はそこまで多くなく、大半は出稼ぎに来た連中だ。

 宇宙船の外装を掘って、こいつを持ち帰る。

 頑張って頑張って、それでちょっと外装が取れるくらいなので、なかなか宇宙船は小さくなって行かないのだ。


 世の中に流通する宇宙船の構造材も、そんな感じだからあまり増えていない。

 値崩れは当分起きないだろうな。


「最近ね、王都にも宇宙船というものの素材が流れてきているんだ。今は加工の方法があまり分からないらしくて、金持ちが客間に飾る珍しい石くらいの扱いだけれどね」


「宇宙船の外装が宝石扱いになってるのか」


 それは驚きだ。

 これが加工可能な素材になって、ワールディアに産業革命みたいなのを引き起こすのはまだまだ先であろう。


「おーい、勇者様! また遊んでかないか! 景品が増えたんだよ!」


「おっ! トラクタービーム射的の屋台!! ビーム発射台が増えてるな!」


 路地に並べられた景品を、トラクタービームで引き寄せる屋台である。

 この間、カトリナとマドカが遊んでたやつだな。


「これはなんですの?」


「物を引き寄せるビーム……魔法みたいなのを出す筒でな、あの景品を撃つんだ。命中すると景品が手元に近寄ってくるから、この筒を制御しながら景品を手でキャッチする。そういうい屋台だな」


「謎な遊びがありますわね……」


「うむ。トラクタービームは扱いが難しいらしくてな。ここの店主しか制御ができない。この店主、鍛冶神の弟子の一人でな」


 あれ?

 屋台なんかやってるが、ここの店主は世界で唯一、宇宙船の構造材を素材として扱える人物なんじゃないのか!?

 ……まあいいか。


「トラッピア、ちょっとやってみないか? こいつがなかなかエキサイティングなのだ」


「なるほど、面白そうですわね……。わたくしも訓練で武技を習ったりはしますわ。それがどこまで通用するか、試してみましょう……!」


 ということで、俺と女王陛下でトラクタービーム対決をするのである。



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