第309話 王太子アレクス、遊びに来る

「おうショート。ちょっとうちの女王陛下が休暇にな」


「王配と王太子を伴ってうちに来る? いいぞ。コルセンターごしに来い」


 ということで、これは王太子赤ちゃんのアレクス、初めての遠出である。


「ショート、久しぶりだね。見てくれアレクスを。どんどん元気に育っているよ」


「おお! でかくなってきてるなあ。目もしっかり開いているな。お、なんだなんだ、俺の手が気になるのか」


 アレクスがスーッと手を伸ばしてきたので、俺の指を差し出してみた。

 やわやわと握ってくる。


「成長早くない? もう外部のものに興味を持っているのか」


「色々触るらしいんだよね。頭がいいんだと思うよ」


 ハナメデルが嬉しそうだ。


 その横で、女王陛下はカトリナやヒロイナとぺちゃくちゃお喋りをし始めている。


「そちらはどうなの? 宇宙船村とやらが? へえ、大変なのですわねえ。ですけれどうちに税を収めてませんわね。まあここも収めてないけど、それに相当するだけの働きはしてもらっているし」


 そうか、俺がいなくなったら、勇者村もハジメーノ王国に税を収めることになるのだろうな。

 その辺の対策も今後は考えていかねばならない。


「あぶあぶあぶあぶあぶ」


「アレクス王子がなんか言ってるぞ。もう赤ちゃん語喋るのか。凄まじいな」


「乳母もびっくりしてたよ。こんなに早熟な赤ん坊は珍しいってさ」


「それはそうよ。ショートの祝福を受けているのですもの」


 そういや、名付け以外に、つわりを回復魔法で軽くした気がするな!

 あれも影響を与えている可能性が高い。


 アレクスは完全に、スーパービルド赤ちゃんになってしまっているようだ。

 ヒロイナが抱っこひもでくくりつけている、ダリアと比較すると、かなりしっかりしているアレクスなのである。


 ダリアはまだまだ赤ちゃんだもんなー。


「う」


 凄い目力で返されてしまった。

 ちなみに、女王一家の護衛なのか、エンサーツとトラッピア特戦隊のギロスもやってきた。


「ギロス!! めちゃくちゃ久しぶりだなあ! 元気だった!?」


「はっ! 実はあの後、お見合いをして結婚しまして!! 家庭のことで忙しかったのです!!」


「なんだと!! おめでとう!」


 俺はギロスの肩をバンバン叩いて祝福した。


「ところでエンサーツは」


「俺は仕事が恋人だな。っつーか、お前、女王陛下が革新的な政治をするから、国の金の相場がな、とんでもないことになってるんだよ。俺がコントロールしなけりゃ大惨事だ」


「そうか、とてもそんな暇無いわけだな。今日はせめて羽根を伸ばしていってくれ」


「ああ。のんびりさせてもらうぜ」


 すぐにやって来たブルストが、エンサーツに釣り竿を差し出した。

 どうやらおっさん二人で、釣りに出かけるらしい。

 いい事だ。


 俺はハナメデルとともに、赤ちゃんたちが集っている食堂にやって来た。

 マドカとサーラとバインがおままごとをしている。


 ここに、アレクスを投入だ。


「あぶ」


 アレクスは目を丸くして、くりくり動かした。

 突然、ちょっぴり年上なお兄さんとお姉さんたちが現れたのだ。

 きっと同年代を見たことが無かったであろうアレクス、大変びっくりしているな。


 ダリアは体の大半が抱っこひもに隠れてて見えなかったもんな。


「おとたん、なんこれー」


「アレクスだぞー」


「あれうー」


「あれうー」


 マドカとサーラが、舌足らずな感じでアレクスの名前を呼んで、キャッキャッと笑う。


「おー」


 バインは鷹揚な感じで、アレクスに手を振ってみせた。

 ようやく一歳になったばかりだというのに、大物感が漂っている。

 体格も大物だしな。


 アレクスはお兄さんとお姉さんたちの洗礼を受けて、ちょっと挙動不審だ。

 助けを求めるようにハナメデルの袖を掴んだ。


「はいはい。びっくりしたねえ。赤ちゃん仲間は初めてだもんね」


 随分体格が良くなり、髭も堂に入ってきたハナメデルが優しい声を出しているのは、なかなかギャップがあってよろしい。

 アレクスはお父さん子でもあるらしく、ハナメデルにしがみついて離れない。


「おとたんすきねー」


「そうだなー」


「まおといっしょいっしょね」


「そうだな! うひひ」


 マドカから間接的なお父さん大好き宣言をされて、思わず嬉しみに笑ってしまう俺である。

 そしてしばらくすると、アレクスも勇者村ちびっこ軍団には慣れてきたらしい。


 彼らが積み木をして遊んでるのを見て、口をぽかんと開いてよだれを垂らしたりしている。

 お城では見ることのできぬ光景であろう。

 さぞや、知的好奇心が刺激されているのではないか。


「あぶあぶあぶ」


 おっ、何か赤ちゃん語で喋り始めたぞ。

 本当に頭のいい赤ちゃんだな!


「あぶ。ふぎゃー!」


「泣き出した」


「ふんふん……おむつは大丈夫だね。じゃあお腹が減ったんだね」


「猛烈に頭脳を働かせただろうからな。さもありなん」


 アレクスを持って、トラッピアのところまで行くのである。

 トラッピアは、乳母を使ってはいるものの、授乳の半分は自分でやっているらしい。


 手慣れた手付きでおっぱいをあげ始めた。


「アレクスは食いしん坊で困りますわ」


「あら、うちのダリアだってちっちゃいのにたくさん飲むんだから」


 同年代赤ちゃん談義だ。

 ダリアは小さく産まれたが、その分を取り返そうとしているのか、なかなかたくさんおっぱいを飲む。

 成長ぶりも大したもので、今では未熟児として産まれたなんて全然わからないな。


「いつまでいるの?」


 俺が聞いたら、トラッピアがうーんと考えた。


「明日まではいますわ。コルセンターを通じて、わたくしの判断が必要な状況はすぐに伝わりますし」


 そのために、釣りが終わったらエンサーツは向こうに戻るんだそうだ。

 ご苦労さまである。

 その分、お給料はたっぷりもらっており、王都に豪邸を立てているらしいが。ちなみに滅多に帰れないそうだ。


「わたくしとハナメデルの骨休めと、それからアレクスの英才教育のためにゆっくりさせてもらいますわよ」


 賑やかな二日間になりそうである。

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