第308話 フォレストマンの傘
そう言えば、フォレストマンたちが乾季でも出歩ける装備を作ろうと思っていたのだった。
既に、大人用の綿花ボールは作成し、彼らに渡している。
森の中でバレー大会みたいなのが行われるようになり、フォレストマンはこの新たな娯楽に夢中らしい。
「森の中だけでも完結してるんだろうが、色々世話になってるから。勇者村にも遊びに来て欲しいよな」
うむむ、と唸る俺。
どういう物を作れば、彼らを強烈な日差しから守れるだろうか。
ここは、イモリ人であるパピュータに協力を願うことになった。
「自分ですか! ですか! ですけどクロロックさんはカエル人ですけど、日差しの下を平気で歩き回ってますよ! よ!」
「ほんとだ!」
パピュータは強烈な日差しは苦手なので、早朝か夕方からしか日向には出てこない。
だがクロロックはそういうの関係なく、普通に田んぼや畑にいる。
この違いは何なのか。
直接クロロックに聞いてみることにした。
発酵室から出てきたクロロックが、冷たい川の水を飲んでまったりしている。
「クロロック。君はなんで日差しの下でも割と平気そうなんだ」
「やあショートさん。そうですね。粘液が多いからでしょうか」
「粘液!」
「水草に粘りを出してくれるものがありまして。これを肌にたっぷりと塗ったりしてから日差しの下に出ています」
今明かされる、クロロックの秘密!
なるほど、これで肌にバリヤーを作ってから外に出ていたんだな……。
パピュータもどうやらこれは知っていたようだが。
「自分、とろっとしたのを肌にくっつけるのは苦手なので! なので!」
「好き嫌いがあったか。どれ、俺も試してみよう」
俺も両生人の気分になってみるのである。
水草、カワベリネバリソウというらしいこいつを、石ですり潰す。
するともりもりと粘液が出てくるので、これを顔とか手にたっぷり塗った。
「思い切りの良い塗りっぷりです。さすがはショートさんです」
「ハハハ、せっかく試すなら豪快に行きたいからな」
ということで、粘液パックをしたままで太陽の下に飛び出すのだ。
うお!
ひんやりした状態が持続している!!
粘液が気化する熱で、体が熱くなるのが防がれているらしい。
実験してみたら、だいたい一時間で効果が無くなった。
「旅先で使うときはピンポイントですね。通常は帽子や布を被ったりして防いでいます」
「使い分けか。だが、効果は絶大だな。これを粘液が苦手な人も使えるように工夫したいところだ」
とろりとした青い粘液を手に、俺は考える。
さて、こいつをどう加工したものか。
粘液はこのまま、完成されたものだ。
こいつに手を加える必要はない。
だとすると、必要なのはこれの入れ物ということになるか。
「形は帽子のような感じで……被る日傘と、粘液のあわせ技……」
俺の頭で、ふわんふわんと想像が形を成していく。
日傘タイプは大人用。
子どもは体に粘液をペタペタするほうが良かろう。
それでも、川遊びをすると剥がれてしまうだろうが……川なら体温も下がるし問題ない。
ということは、魚介類の革を使って粘液入れのポーチを作るのがいいのではないか。
俺はピンと来た。
湧き上がるイマジネーション!
そのためには魚を釣らねばなるまい。
魚釣りと言えば……。
「スーリヤ、君に決めた!」
「魚釣りですか? いつ行きます? 今からですか? では行きましょう」
声を掛けた瞬間、釣り人の目になるスーリヤ。
大変頼りになる。
釣りにかけては、勇者村第二位。ブルストに次ぐ腕前の彼女なのだ。
「お魚釣るんですか!? うちもいきます!!」
食い意地が張ったピアがついてきた。
ということで。
魚の皮をはぐための用意をし、そぎ取った肉を美味しく調理して食べるための用意もし、俺は女子たちがお魚を釣るのを待つのである。
俺が釣りに関わってしまうと、色々大変なことになってしまうからな……。
お湯を沸かして、持ってきた干し肉や干し野菜で出汁を取っていると。
「フィーッシュ!!」
スーリヤが吠えた。
でかい川魚が釣り上げられる。
お見事……!!
「うちもー!!」
ピアもほぼ同時に釣り上げた。
だが、ちょっとちっちゃい。
「あー。スーリヤさんには勝てないよー」
「ピアさんは食欲をあらわにし過ぎているのです。殺気を感じて魚が食いつかないんですよ。静かな水面のような心持ちで釣り竿に向かい、戦いは魚が針に食らいついた時だけだと考えるのです」
スーリヤが釣り道を極めてきているな……!!
思わぬ才能が目覚めてしまったかも知れん。
こうして女性陣が釣りを終えた後、俺は素早く魚から身を削ぎ落とした。
「やりますねショートさん」
「うむ。ブルストがイノシシから毛皮を剥ぎ取る技を見ていてな。メンタルとタイムの部屋で練習したものの応用だ」
魚の皮は、アイテムボークスに保管していたなめし液につけておく。
その間に、肉の方を料理である。
「魚の皮、美味しいんだけどなあ」
「今日は食べちゃダメだぞ」
ピアを警戒しつつ、お魚は焼き物と煮物になり、俺たちの胃袋に収まったのだった。
一部を、スーリヤがサーラとルアブのお土産にして持って帰ることになった。
お母さんである。
これを見てピアがつぶやく。
「うちは全部食べてしまう……!! うちはお母さんになれるんだろうか……!!」
「そこはなかなか由々しき問題だよな。だが、そういうことは一人で悩まず、諸先輩方に頼るのだ」
少女の悩みを見て、ピアも成長したなあ、なんて思う俺なのだった。
なお、フォレストマン用の傘と粘液ポーチはきちんと完成した。
早く村にお招きせねばな。
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