第307話 炭焼き職人の朝は早い……

 朝から外で、カッコンカッコン音がする。

 木を切ってるのか。


 目覚めの散歩がてら、見に行くことにした。

 カトリナはマドカと並んで夢の中なので、寝かせておく。


 村の外れでは、ゴーレム1から5が斧を振るっているところだった。

 切り倒された木を、ガンロックスが検分している。


「油が多いな。こいつは生木のまま燃やせるじゃねえか。だが、確かにこのままじゃあ効率が悪い。水分が含まれてるからな」


「お分かりになりますか」


「うわっ!? いつの間に後ろに立ちやがったんだ村長! いやな、こいつは便利な木だが、ちょいと乾燥させた方がより燃えやすくなるぜ。炭には不向きだな。油が多すぎて燃え尽きちまう」


「ほうほう」


「乾季はこいつを使い、雨季には炭、みたいな使い分けがいいだろうな」


「雨季はスコールが来るとみんなで外に出て体を洗ってたからな」


「豪快だな! だが体が冷えるだろう。たまには風呂に入れた方がいい。ってわけで、この辺りの植生を調べてんだ」


「真面目だなあ。ありがたい。朝飯はここに持ってきた方がいいか?」


「おう、そうしてくれると助かる」


 とことん職人である。

 だが、職人の中ではかなりコミュ力があるタイプに見えるな。

 弟子とかいるしな。


 その後、朝食のサンドイッチ(分厚いパンにイノシシ肉の燻製と野菜を挟んだハンバーガーのような代物)を届けてやった。

 ゴーレムの数が二体減っている。


「なんか数が少ないが?」


「ゴーレム4と5は肥溜めの手伝いがあるんだとよ。肥料づくりだろ? 大事な仕事だぜ」


「そうか。あいつら元々はそっちの仕事もしてたな」


 一年半くらい土の中に埋まってたらしいから、俺もすっかり奴らの仕事を忘れていた。

 神域の魔力を纏いつつある勇者村の土の中は、随分寝心地が良かったようだ。

 ゴーレムたちは大いにパワーアップして復活していた。


 バリバリ木を切っておる。

 もう今朝から二十本くらい行ったんじゃないか。

 切りすぎだろ。


「ストップ。そこでやめるんだ! ステイ!」


 俺が声を掛けたら、ゴーレムたちがハッとして振り返った。


『これはすみません』

『ついついハッスルして』

『熱帯雨林を切り尽くそうと』


「環境は大事にな……! めっちゃ木がたくさんあるが、まだいけるだろと思って切ってたら禿山になったりするからな……」


 地球の教科書とかでよく読んだぞ。

 こういう初期段階から環境意識を持っておくべきなのだ。


 一本切ったら一つ苗や種を植える……!!


 俺がそんなことを考えていたら、切った端から切り株ににゅっと芽のようなものがでて、ちょっとずつ伸びている。


「あれえ」


『勇者村の土って魔力が多いじゃないですか』

『この辺の木は再生能力も身につけてるんで』

『半年放っておくと再生しますよ』


「凄いことになってるなそれ。むしろ積極的に切っていかないと村が木に呑まれるやつじゃん」


『そうなり』

『ます』

『ね』


「おっ、久々に一つのセリフをみんなで分割して言うやつ! やっぱこれをやってくれると同型機って感じがするよなあ」


「何を言っとるんじゃおぬし」


 ガンロックスが呆れ顔をした。


「俺なりの異世界ジョークってやつだ。そういや、ガンロックスの弟子が来るって言ってたろ。そいつらも全員炭焼きなのか?」


「いや、わしが炭焼きを生業にしてるだけで、何やら師匠師匠と言ってついてきた連中じゃ。こっちに来たら好きに使ってやっていいぞ。ドワーフ以外にも獣人とかおるからな」


「ほうほう。人員問題が軽く解決できるかもしれないな」


 少なくとも、開拓と畑作を担当するメンバーは増えそうだ。

 後は俺が、人格面を審査しないとな。


 その後、俺も加わって木を切った。

 ざくざく刻んで木炭にするのにちょうどいい太さにして……。


 あれ?

 ちっちゃい木炭って絵を書いたりするのに使えるんじゃないか?


「いいところに気付いたの。どうやらこの村、教育にも熱心なようじゃ。わしが見てきたところでは、木炭の切れ端で字を書いたり絵を書いたりしておった。木の板にも書き込めるからの」


 落書きが終わった板は木炭にしてしまえばいい、とガンロックスが笑う。

 なーるほど。

 これは、子どもたちが落書きできるアイテムが爆誕したかも知れん。


 そろそろ朝食の時間なので、ガンロックスとともに食堂へ。


 飯を食いながら木炭についてかるく話をした。

 カールくんとルアブは、落書きができるアイテムと聞いて目を輝かせる。


 ビンとサーラとマドカは、きょとんとしているな。

 今まで落書きなどという概念とは無縁のまま育ってきたからなあ。


「カールくん、ルアブ、ちびっこたちに落書きというものを教えてやるのだ」


「はい、ししょう!!」


「おしえるぜ!」


 勇者村は落書きされて困るものなどない。

 なので、存分に落書きはするべきなのである。


 落書きをしていると、脳が活性化される感じがするからな。

 食事が終わった後、子どもたち用の木炭の切れっ端を用意する。


 カールくんとルアブは意気軒昂である。

 今まで、与えられ、教えられる側だった二人だ。


 自分が教える側になったということに興奮を隠せないでいるな。


「おとたん! なんこれー」


「マドカは家の中でお絵かきはしてたもんな。だが、こいつはな、もっとスケールのどでかいお絵かきだ。世界がお前のキャンパスだぞ」


「ショート、難しい難しい」


 カトリナに突っ込まれてしまった。

 かくして、ガンロックスから始まった炭焼の話は、子どもたちの落書き大会へと発展していくのである。

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