第306話 君に決めた!!

 木の棒に布を巻いたやつを立たせて、これを棒で叩かせる訓練をする。


「盗人め!! この盗人め! しねえ!!」


「いいぞいいぞ! 構えなんかどうでもいい! その一撃に熱い思いが乗ってるかどうかがキモだ! 終わったらみんなでセミ焼き食おうな!」


「セミはちょっと……」


「軟弱な」


 ということで、宇宙船村の畑作ボーイズ&ガールズと仲良くなった俺である。

 みんな最後には、俺を師匠師匠と慕ってくれた。


「次までに棒術をマスターしてみせます!」


 おや……? どっち方面の師匠なんだ……?

 その後、さんざん鍛えた後、泣いて嫌がるこいつらにセミ焼きを食わせた。

 俺も食った。


 すげえ、パリパリしてエビの味がする。

 美味い。


 俺の弟子たちも、手のひらをクルーッとして美味い美味い言い始めた。

 見た目が悪いが、食い慣れれば肉の代用品としていい感じだな。

 しかもクロロック曰く、栄養価もバッチリらしいし。


「ところでお前ら、うちの村で開拓を手伝ってくれるやつを探してるんだが」


「師匠の村ですか。あー、ちょっと行ってみたいっすね」


 若者の一人がうんうん頷いた。


「ちなみに貨幣経済ではないから、こっちにあるような娯楽はほとんど無いぞ。酒とか釣りとか動物と戯れたり、だべったり読書したりみたいな健全な娯楽しかない」


「酒はどうかと思いますけど、そいつはちょっと健康的な若者には刺激が少ないっすね……」


 だよなあ。

 特にこの村にいる連中は、一攫千金を狙ってやって来た者ばかりだ。

 即物的な欲にかけては何者にも負けないと言っていいだろう。


 うちの村とは根本的に相性が悪いのが多い。


「パピュータっていうイモリ人をうちの仲間にしたんだよ。ああいう訳ありな変わり者が欲しい」


「うーん、どうだ? なんか欲の無さそうなやつ知ってる?」


「うーん」


 みんな唸りだした。

 俺のために知恵を絞ってくれているわけで、これは実に嬉しいことだ。


「あ、一人知ってる。ひたすら炭焼きやりまくってるドワーフのじいさんがいてさ」


「なんだって」


 俄然興味が湧いてきた。

 その人物の名前と居場所を聞く。

 ガンロックスというらしい。


 かっこいい名前だな!


 かくして、ひと仕事終えたクロロックを連れてガンロックスの元へ。

 宇宙船村の外れに炭焼小屋があり、乾季だというのに周囲に倍するような温度になっていた。


「これはいけません。ワタシ、焼きガエルになってしまいます」


 クロロックがそう告げた後、口をカパッと開けてクロクロ喉を鳴らした。

 どうやら昆虫食を広められて、ごきげんだなクロロック。カエルジョークが冴え渡っているぜ。


「おーい、ガンロックス!」


 呼びかけてみたが、返事がない。

 よくある。

 頑固なじいさんなんだろう。


 声に魔力を込めて呼んだ。


「ガンロックス、出てきてくれ」


「ぬ、ぬおーっ!? なんじゃこの声は! わしの足が勝手にー!!」


 出てきた出てきた。


「ショートさん、言霊の魔法を使いましたね」


「うむ。新しい魔法を産み出したかもしれん。コトダーマと名付けよう。だが言葉で他人を操作できる魔法になったっぽいから、誰かに教えるのはやめておく」


 現れたガンロックスは、髪も髭も真っ白で、全身煤だらけのドワーフだった。


「なんじゃい、お主らは」


「勇者村の村長、ショートだ。お前さんをスカウトに来た」


「ショート……? ああ、魔王を倒したっちゅう……。今の声はお主の技か? 確かに勇者っちゅうのは間違い無さそうじゃ。なんか言葉でわしを操るみたいなの、明らかに悪の技じゃないか?」


「正義も悪も紙一重だゾ」


「言い切りおったこいつ!」


「まあまあ。だがなガンロックス。うちでは一芸に秀でたやつや、逆になんもできないけど何かをやりたいやつを求めてるんだ。村がまだまだ三年目でな。あんたが来てくれれば、切り出した木々を無駄にしないで済みそうだ。どうだ、うちで炭焼きしないか」


「ぬう!」


 ガンロックスが俺を睨む。


「本心から言っておるな。わしは長く生きたお陰で、相手の本心が分かるからな」


「ほう!! それは凄いな! じゃあ今の俺の本心が分かるか」


「ぬう!! わ、わしにセミを食わそうとしているな……!!」


「凄いな! 当たりだ!!」


 俺はガンロックスを気に入った。

 何が何でも勇者村に勧誘せねばならんと決意した。


「来い」


「お主なあ……。もっと言葉を飾るとかそういうのしないの? 村長としてどうなのその辺。わし、こういうこと言うキャラじゃないんじゃが、お主が心配」


「割と力で世の中を渡ってきた気がするぞ」


「そうか、お主、無双の力があるんじゃものなあ……」


 そんなこんなで、結局はOKをもらった。

 ガンロックスはここなら存分に炭を焼けるとやって来たのだが、村人たちは生木をそのまま燃やそうとするし、生で食って腹を壊したりするらしいし、ほとほと蛮人ばかりで呆れていたそうなのである。


「よし、わし、勇者村に行くことにする。弟子も連れて行くわ」


「弟子とな」


「ちょっと王都まで使いにやっているからの。ここらの連中に言伝させるから、そのうち来るじゃろう」


 そういうことになった。

 勇者村までやって来たガンロックス。


『乾季が来ましたね』

『我らゴーレムが湿気らないで暮らせる季節がやって来ました』

『おや、村長。半年ぶりにお見かけしたらなんですかそのご老人』


「久々だなあゴーレム軍団! そう言えば忘れてたわ。ニーゲルがずっと一人で肥料管理してたもんな」


『雨季は湿気って体から苔が生えるので』

『我々、土の中に埋まって乾季を待っていました』


「そんな弱点があったのか」


 ゴーレム1から5までと再会を喜び合う。

 半年ぶり……?

 もっと長い間会ってなかったような。こいつら一年半くらい埋まってなかった……?


「喋る土塊か! いいな! これなら火に強そうだ! おい村長! こいつらをわしに任せろ。炭焼きを伝授してやる。ああ、開拓もあるんだったか? いいだろう。ドワーフ仕込みの斧使いを見せてやる」


 ガンロックス、やって来て早々に馴染んだな。

 この後、ブルストに合わせて炭焼小屋を設計して……。


 やることはまだまだあるな!

 勇者村拡張計画、順調である。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る