第305話 宇宙船村、仕入れに来る
「どもどもー。宇宙船村ですー」
仕入れがやって来た。
元々はうちから食料を仕入れていたのだが、村の人口が増えすぎたため、周辺の村から買い入れる方向に変わったのである。
さらに、宇宙船村でもすぐに育つ系の野菜で畑を作っているとか。
「どうだ。芋は育った?」
「おかげさまで! あれ、水だけやっとけばいいんで楽ですねえ」
宇宙船村の仕入れ担当は、巨人族の若い衆である。
大きな荷車を引いてきて、そこにあちこちの農産物を積んで村に持っていく。
「ただ、肉が食えなくてですねえ……」
「あー、あの人数を肉で養うのはきついよな」
俺はうんうんと頷いた。
勇者村ですら、肉の確保のためにフォレストマンの助けを得ているのだ。
「そこで畑の肉だ」
「畑の肉!?」
俺は袋詰にした豆を手渡す。
「宇宙船村がいつまで持つかは分からんが、畑作はやっておくべきだ。だがあれだけ頭数がいるからな。絶対に盗みに来るやつがいる。盗みに来たら棒で殴れ。そして芋と豆を育てろ。肉が足りないなら虫だ、虫を食え」
「参考になります」
「まあ、俺は虫を食ったことが無いんでな……。今度調べておこう」
「うす! ありがとうございます勇者様!!」
このようなやり取りをしていたところ、我が村の賢者クロロックが興味を持ったようだ。
「おや皆さん、虫を食べるのですか? あなた方のようなヒト種、巨人種ではなかなか食べる機会がありませんから、抵抗があることと思いますが」
「カエルだ」
「カエルの人だ」
ざわつく仕入れ人たち。
「虫も食材です。美味しく調理しましょう。そして何よりも虫は、ちょっとの食料でたくさん増やすことができるのです。どれ、ワタシが宇宙船村についていってレクチャーしましょう」
「我が村の賢者の興が乗ったようだぞ。よし、俺も行く」
そういうことになった。
道行きつつ、クロロックは目玉をきょろきょろ動かし、何かを探している。
「どうしたんだクロロック」
「ちょうどいい虫がいるんですよ。ええと……ああ、ここにいました」
シュバッとクロロックが手を伸ばし、何かを捕まえた。
俺に見せてくれる。
「セミか」
「ええ。体内の大部分は空洞ですが、焼くだけでサクサクとしてなかなか食いでがあるのですよ。もっとも、ワタシは丸呑みですが」
クロロックがパカッと口を開けた。
カエルジョークだ!
「うおお、セミを食うんですかい」
巨人の若者が引いている。
「ええ。調理の仕方によりますよ。現地でやってみましょう。ああ、ショートさんは豆まきを指導してあげてください」
「ほいほい」
とは言え、俺も虫料理には興味がある。
髪の毛を一本引き抜き、フッと息を吹きかけて分身を作った。
「クロロックの料理を見てこい」
分身、頷く。
かくして、宇宙船村での畑作指導が始まった。
「畝を作って豆を撒け! 水をやりすぎると腐るからな。乾季だが、カラカラにならない程度でいい。ああ、そうだな、テントみたいなのを日中は掛けておいた方が良かろう」
「うす!」
「いい返事だ! よし、日よけを作るぞ! なに? 宇宙船の端材が余ってる? よし! 地面に突き刺せ! 日陰を作れ!!」
うおーっと雄叫びを上げながら、若者たちが駆け回る。
畑に宇宙船の端材を突き刺し、作物を強すぎる日差しから守るのである。
林の近くに作った芋畑は、立派に育っている。
うむうむ。
宇宙船村もじきに、最低限は自給自足ができるようになるだろう。
暇を見つけて、若者たちに棒を使った護身術を伝える。
「いいか! 盗人は棒で叩け! 容赦はいらん。お前らが心血注いで育てた野菜を奪おうとする不心得者だ! 棒で殴って畑の肥やしにしちまえ!! ああ、そうだ。糞尿は集めてるか? こいつを発酵させて肥料を作れ」
俺の説明を聞いて、若者たちがほえーっとため息をついた。
「なんでも知ってるなあ、勇者様は」
「すげえお人だぜ……」
「しかも盗人を棒で叩いて肥やしにしろだなんて、残虐さもすげえぜ……」
「ハハハ、そんなの褒めるな。俺はただ、育てた野菜を奪おうとするタダ乗り野郎が許せねえだけだ……!」
この三年、スローライフをやって、日々の糧を作るためにどれだけの苦労があるのかをよく理解したのだ。
タダ乗り野郎滅ぶべし。慈悲はない。
ということで、豆を植え、芋を植え、日陰でみんなで棒を振り回した。
「いいか、腕や足を狙ったら働けなくなる。腹か頭だ。死んだらまあ仕方ない。相手が反省したら労働させて野菜分返させろ」
「うす!!」
「良い返事だ! 芋を育てろ! 豆を育てろ! 盗人は棒で叩け! 復唱!」
「芋を育てろ! 豆を育てろ! 盗人は棒で叩け!」
うおーっと俺たちは盛り上がった。
そして盛り上がりついでに、クロロックを分身伝いに観察してみる。
おほー!
セミを焼いてる!!
塩をふりかけて、仕入れ人たちがセミを食い、「悪くねえな!」「案外いける」と評判である。
虫ならいくらでもいるからな。
毒がありそうなやつも多い気がするが、そこはクロロックが教えてくれるだろう。
クロロックは彼らを満足気に見つめながら、自分は生きたままのセミを口に放り込んで飲み込んだ。
「カエルの先生が生で食ったぞ」
「あの人、カエルだからなあ……」
おお、みんなクロロックへの理解が深まっているぞ。
さて、これで俺たちは宇宙船村とより深く関われるようになった。
この中から、村にスカウトできる人材を探さねばな。
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