第303話 男たちの決意
昼間から酒を飲むのだから、強い酒はアウトである。
この日差しと、そして昼から飲んでいるという背徳感が一番の肴になるわけだから、弱めの酒をやりながらなるべく長く酩酊感を味わいたいのだ。
ということで。
「丘ヤシ酒のお茶割りだ」
「いい香りだな!」
ブルストが相好を崩す。
俺たちは木の器で乾杯した後、酒をごくごくやりながらアムトが頑張る様を見守った。
あれ? 一人増えてる。
「俺とピアの間にできる子どものためにも、おもちゃは必要だからな! 加勢するぜアムト!!」
「フー! お互い頑張ろう!! 絶対にあの娘のハートをものにするぞ!!」
「おう!! 俺たちは同志だ!! 絶対にあの女の心をものにする!!」
おお……!
同じ境遇の二人が分かり合っている。
フーの方が幾分か年上だが、そんな些細な年齢差、関係は無いよな。
ピアは色恋にあまり興味がないように見えるが、実は夫婦というものが気になっていると俺は考えている。
赤ちゃんをたびたび抱っこさせてもらっているし、マドカやバインが猛烈に食べるさまを見て、今までとは違う笑顔を浮かべたりしているからな。
つまり、フーのアタックには勝算があるということだ。
がんばれよ、フー!
このままアタックし続ければ、年内には絶対にいける……!!
俺はグッと内心で彼にエールを送るのだ。
一方のアムトだが、既にリタとはかなり仲が良い。
というのも、同年代の男子は長らく彼しかいなかったからだ。
後から増えたフーはピアにぞっこんだし、パピュータは恋愛文化そのものが違うし種も離れすぎているし。
消去法と言ったらそれまでだが、アムトはなかなか悪い男ではないぞ。
特にこれと言った秀でた物を持ってはいないが、自分にできることをコツコツ努力する事ができる。
これは何気に、父親であるアキム譲りの性質だろう。
アキムはしみじみと凡人だが、それでもスーリヤのような、気が良くてお裁縫に料理に釣りと多芸ないい女と結婚したのだ。
男は真面目さ、実直さだ。
頑張れアムト。
俺が見るところ、お前も年内にゴールインできる!
「なあショート。俺はあの二人は年内に意中の二人を落とせると思ってるんだが」
「ブルストもか!! 同じことを考えているとは……」
「俺はお前の義理の親父だからな! 似たのかもしれねえな!」
「かも知れないな!」
二人で意気投合して、わっはっはっはっは、と笑う。
途中で半ば呆れ顔のカトリナがやって来て、
「お酒だけだと体に良くないよ。ほらおつまみ!」
と、豆を炒ったやつを置いていってくれた……いや、カトリナもここに居座った!
「私も頂いちゃおうかなー」
なんて言いながら、丘ヤシ酒のお茶割りを飲み始める。
この世界だと十五歳で成人なのだ!
「おやおや! 何してるんだい? あたしもご相伴に与ろうかね!」
バインを抱っこしたパメラまでやって来た。
バインはほぼ完全に乳離れしたので、パメラも安心して飲酒できるのである。
大人たちが集まっていることに気付き、マドカもトテトテ走ってきた。
俺に近づいた後、鼻をつまむマドカ。
「くちゃい!」
「ガーン!」
マドカに離れられてしまった。
「お父さんくちゃいくちゃいねー」
「くちゃい!」
「ガーン!」
カトリナもマドカに離れられているではないか。
マドカはお酒のにおいというか、酒飲みの体から発せられるにおいが嫌いなのだな!
気をつけねば……。
うちの可愛いお嬢さんは、そのままトコトコトコっとよそへ遊びに行ってしまった。
『ホロホロ』
「おお、トリマル、見ててくれるのか! 頼む!」
『ホロ!』
トリマルが、妹分であるマドカの護衛についてくれた。
これで安心だ。
また状況は落ち着き、ブルスト・パメラ夫婦と、俺とカトリナの夫婦で飲みながらだべる。
「今一番熱いのは、フーとピアでしょ。絶対すぐにくっつくよ」
カトリナが熱弁する。
「それほどか。ピアが凄くそっけない感じがするが」
「あの娘、そっち方面に全然疎いの。だから婦人会で教育中よ! ねえパメラ」
「そうだねえー。あの娘もよく食べたり元気だったりする男が比較的好きみたいだから、フーはバッチリじゃないかな」
「ほうほう……。あいつの熱烈なアタックがついに報われるのか」
「男はあれだけガツガツしてたほうがいいやな。あれこそ若さってもんだ」
ガハハハハ、と笑うブルスト。
そう言えば、俺もブルストも、自分がガツーッと行って今の奥さんをものしたのだった。
勝負どころでガツンと決めねばならんよな。
フーは常にガツンと行ってるから、数打てば当たる方式かも知れん。
「で、カトリナ的にはアムトはどうなんだ?」
「彼はねえ、ちょっと奥手な感じじゃないかなあ。影からこっそりリタを見てたりするけど」
むっつりか。
むっつりはこじらせるからいかんな!!
これは、男衆でやつを後押ししてやらねばならん。
「ブルスト、やるか」
「うむ、やるか」
「やろう」
「やろう」
そういうことになった。
100%酒の勢いである。
だが、田舎の惚れた腫れたなんて、酒の勢いがあってこそだ。
「取れた! 素材が取れたよ!」
「こいつでおもちゃを作るんだな! どうだ、俺たちの仕事ぶりは!」
おお、若者たちがやって来た。
二人とも汗だくだが、いい笑顔を浮かべている。
うんうん。
元気で頑張る若者は応援したくなってくるじゃあないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます