第302話 ダリアちゃんのおもちゃ
「う」
ダリアが俺をガン見している。
「どうしたんだ」
「う」
ひたすらガン見してくる。
まだちっちゃい赤ちゃんなので、そこに意図などはあるまい。
だが、目力が凄い。
俺は近くに座って魚を手掴みでむしゃむしゃしていたバインを抱え上げた。
「おー」
バインが目をくりくりさせて魚をぽーいと放り出す。
でかくてむちむちしてるなあ。
そしてバインをダリアと向き合わせてみた。
「う」
「おー」
抱えていると分かるが、バインがなんだかじっとり汗で湿ってくる。
「んあー!!」
バインがバタバタ暴れだした!
視線から逃れようとしているな。
「バイン、やっぱりダリアのガン見が苦手なのか」
膝の上に乗せると、バインが「おー」と言って、ぽいした魚をまた掴んでむしゃむしゃ食べ始めた。
歯が生えてきて、魚の小骨だろうがバリバリ噛み砕くというからワイルド赤ちゃんである。
「ダリア、バインに勝っちゃったじゃない。やるわねー」
ヒロイナがニヤニヤしている。
眼力勝負であったか。
「そうだ! ショート、ダリアにおもちゃ作ってくれるって話してたでしょ。ああ、ショートじゃなくてカトリナから聞いたんだけど」
「おう、そう言えば」
そんなことを考えていたな。
「じゃあ作っちまうか」
早朝の開拓と、午前中の野良仕事を終えた今。
昼飯を食い終わったら何をしようかと考えていたところだ。
今日はダリアのおもちゃ作りと行こう。
赤ちゃん用おもちゃを作れば、村のみんなでシェアできるしな。
「ブルスト、なんかレパートリーは無いか?」
「お前にアイディアがあれば作れるんだがな。ゼロから思いつくのはできんのだ」
オーガはそういうの苦手な種族だもんな。
ここは俺たちの常識外から知識を得よう。
「パピュータ! ポチーナ!」
「はいです! です!」
「はいです!」
「二人とも返事の仕方が同じだった!」
どうでもいいところにショックを受ける俺である。
それはそうとして、イモリ人の赤ちゃん用おもちゃについて尋ねてみた。
「オタマジャクシはですね、そのまま自由にさせてると共食いするくらいバカなんで、水をかき混ぜるおもちゃを入れとくんですよ! ですよ!」
「うわあ、肉食系オタマジャクシか」
「カエル人はもうちょっと平和的です! です! えっと、こんな感じでぐるぐるーっと風を受けて回るおもちゃがですね! こういう機構で風を増幅して……」
「風車でおもちゃを回すのか! 面白いな。それ採用だ」
「やりました! した!」
ガッツポーズをするパピュータ。
「私はですねー。犬人の里だと、ひたすらみんな走ってましたけどー」
「走れないうちの赤ちゃんはどうするの?」
「一週間くらいすると四つん這いで走るんですよー」
「育ち方とか肉体の構造が違うんだな……!」
ちなみに犬人を始めとする獣人は、人間よりも寿命が短いぶん、成熟が早いんだそうだ。
「いちおう、こういう紐がついた骨をですね、投げて、そこまでわーっと這っていって、そしたら戻して……って遊ぶです」
「なるほど、紐付きの骨か……。それもいいな、採用」
「やりましたー!」
ガッツポーズをするポチーナ。
なんか根本のところで似てるなキミら。
「ところでポチーナ、ニーゲルとはどう?」
「どうって、赤ちゃんですか? できそうな気がします!」
「おおーっ!!」
俺とブルストとパピュータがどよめいた。
家族計画は慎重に……なんて言っていたが、情熱は止められないからな!
できたらできたで世話を見るだけだ。
これにプラスして、スーッと話にクロロックが加わってきて、
「音が出るといいでしょうね。鳥よけの罠で風とともに音が鳴るものがありましてね。構造的にはこうです。内部を空洞にする必要がありますから、二つの部品を作って組み合わせるのですが、精度面はブルストさんにおまかせすれば完璧でしょう。では、ワタシはこれで」
スーッと去っていった。
残されたのはかなり完璧な図面である。
あのカエルの人、本当になんでもできるな!
三つのおもちゃを作成することになった。
材料のでかさ、赤ちゃんがつかめるようになったら、それなりに振り回せるサイズにすること、そして角を丸める……。
いろいろな基準が設けられ、まずは俺が素材を切り出すことになった。
「ショートさん、俺にやらせてくれよ!」
アムトがそんなことを言ってきた。
「どうしたどうした。いきなりだな」
「いやさ、俺も十六だろ? いつまでもみんなの世話になってるようじゃ、嫁さんも迎えられないからさ」
「リタ狙いか」
「そ、そ、そうだよ!? 悪いかよ!」
「いや、いいことだぞ。ルアブは悔しがるだろうが、あいつは生まれてきたタイミングが遅かったな。世の中そんなもんだ。間に合ったお前は、チャンスを逃さないために自分を追い込むんだな?」
「お、おう!!」
「よし、任せる!! サイズはこれな。失敗してもいいが、俺たちも他に仕事がある。いつまでも待ってないから、気合い入れてやれよ!」
「おう!!」
アムトが腹から声を出し、生木と向かい合う。
いっちょまえの男の顔になったなあ。
リタは実際、神聖魔法の才能もあるし寿ぎの歌を広げたという功績もある。
生半可な男では釣り合わない。
だが、どんなことでもまずはやってみないと、その生半可にすら届かない。
「頑張れよ」
それだけ声を掛けて、俺はブルストのもとに戻った。
「おう、なんだショート、ニヤニヤしやがって」
「なんつーかな、ブルストの気持ちが分かったわ。俺と会ったばかりのブルストもこんな気持だったんだろうなーって」
「なんだなんだ! そうかそうか、分かっちまったかあ。わっはっは! で、何が分かったんだ?」
「いいじゃないか。若者が素材を切り出してくるのを待とうぜ」
かくして大人たちは、昼間っから酒を飲んで若者の背中を肴に盛り上がるのだった。
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