第300話 雨季の終わり、再び乾季

 雨季が終わった。

 カンカン照りがやって来る!


 ガンガンに照って、まあまあ乾燥してる乾季だ。

 用水路を通って川の水が流れ込んでくる。


 雨季でたっぷり増えた川魚も一緒だ。

 スーリヤが道端に座り込み、用水路に釣り糸を垂らしていた。


「みんなのおやつを獲ろうと思っているんですよ。ほら」


 喋りながら、もう一匹釣った!


「すごい腕だ……」


「雨季の後のお魚は、数が増えていますからね。警戒心も薄くて簡単に釣れるんです。ほら」


 また一匹!!

 勇者村における釣りの技術では、ブルストに次ぐ腕前だろうなあ……。

 ちなみにスーリヤはブルストの釣りの弟子なのだ。


 俺もブルストから釣りを教えてもらったはずなのだが、未だに釣れぬ。

 釣りという概念から憎まれているのではないか。


 スーリヤを労い、俺は用水路脇を歩きながら川へ向かって遡る。

 すると、クロロックの家と醸造所が見えてくる。


 乾季でも常に日陰で、涼しい。

 ここで俺は、意外な人物を見かけた。


「あらまあ! クロロックさんのお味噌美味しいのね! びっくりしたわ」


「いえいえ、マダムが持ってきて下さった味噌のお陰です」


「味噌うまいです! です!」


 両生人コンビとうちの母が、味噌の瓶を囲んでわいわいやっているではないか。


「何やってるの」


「あらショート! あのね、クロロックさんがお味噌作るの成功したって言うから味見にね。今度このお味噌で味噌汁を作ろうと思って。だけどクロロックさんもパピュータくんも熱いの苦手なんでしょう? だったらいいのがあるわ! 冷や汁って言ってきゅうりとしそのお味噌汁でね……」


「ほう、大変興味深いです!」


「飲んでみたいです! です!」


 完全に仲良くなっている。

 味噌を増産し、宇宙船村に輸出する予定らしい。

 それでこちらに様々な資材を買い付け、パピュータの仲間が移住できる設備を整えるとか。


 クロロック、新たな目標が生まれたな。

 そして発酵室の横にある結界を抜けると、体についた発酵のための菌が洗い流される。

 ここからが醸造室。


「おう、ショートか! いい感じだぜ、今年の酒は」


 ブルストが、巨大な樽を上機嫌で叩いた。

 横合いには、カールくんの家の執事、オットーがいる。

 このじいさん、すっかり醸造室で働くのが日課になっているな。


「いやあ……酒を作るというのは楽しいものです。手をかければかけただけ応えてくれますが、温度や気候によっても味が大きく変わる。奥様も坊ちゃまも立派になられて、この老いぼれの仕事が無くなったかと思いましたが、どうしてどうして。まだまだ育てがいのあるものがありますな。この世は捨てたものではありません」


 はっはっは、と笑うオットー。

 生きがいになっているようで何よりだ。


「実際な、オットーの酒は俺とはまた違ってな。繊細で旨えんだ。今度飲んでみろ」


「なるほど……! 魚とかに合いそうだな」


「合いますねえ!」


 ということで、一杯引っ掛けてから醸造室を後にした。

 確かにうまい。


 ぶらぶらと向かったのは図書館だ。

 今日は、村の奥様方が集まって読書会の様子。


 ミーとカトリナを生徒に、シャルロッテが朗読をしている。

 読んだところを二人にまた読ませて、言葉の意味とか情景についての説明をするわけだ。

 いい先生だ。


 マドカとビンはカールくんに遊んでもらっているな。

 サーラもいる。


 ここは邪魔をしないように、そーっと離れよう。


 久々にやって来た肥溜め。

 ニーゲルが真面目な顔で、何かを放り込み、そしてぐるぐるかき混ぜている。

 精が出る。


 彼がいつも、肥料を管理してくれているお陰で、勇者村は安定した収穫を得ることができるのだ。

 ポチーナがいないということは、食事当番だろう。


 食堂に行ってみると、ヒロイナがダリアを抱っこして何やら歌っていた。

 ダリアはちょっとずつ目が開いてきて、じーっと母親の顔を見つめている。


 生まれたてのしわくちゃな感じが落ち着いてきて、つるんとしたダリアは結構な美人さんだ。

 ヒロイナとフォスのDNAを受け継いでいるわけだし、さもありなん。


「あらショート、どうしたのよ。仕事無いの?」


「おう。今日は一日村を見て回ることにした。みんな色々やってるなあと思ってな」


「それはそうよ。やることなんて幾らでもあるし、やりたいことだって幾らでもあるわ。あたしはもうちょっとしたら、ダリアの服を作るのに挑戦する」


「ヒロイナが裁縫を!?」


「何驚いてんのよ? カトリナだってスーリヤとミーから習ったんでしょ? あたしだってそうするわよ。やれることは多いほうがいいでしょ。そしたらダリアが大きくなったら、あたしが教えてやれるじゃない」


「確かに……。先々のことを考えてるなあ」


「あんたが作ったこの村が、そういうところじゃない。ずーっと命をつないでいくところなんでしょ?」


 よくおわかりで。

 すぐ横を、バインを抱っこ紐でくくりつけたパメラが歩いていく。


 軽く挨拶する。

 パメラの後ろには、ピアとフー。


 狩りにでも行くんだろうか。

 赤ちゃん連れで?

 赤ちゃん連れで行くんだろうな。


 勇者村は平和である。

 だが、平和とは維持しようとし続けない限り、必ず崩れてしまうものだ。


 当たり前ではない。

 みんなで作っていかねばな。


 そういう事を考えながら、真面目な顔をする俺。


「あらショートさん、お茶飲むです?」


 ポチーナが台所から顔を出して提案してきたので、俺は頷いたのだった。


「熱いやつを頼む……!」


 三年目が終わり、四年目が来る。

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