第299話 ちびっことフォレストマン
いよいよ雨が減り、季節は乾季になってきた。
もうそろそろ、俺がこの地に来てからの三年目が終わる。
今日はフォレストマンたちと物々交換する日だ。
「いよう!」
「楽しみして、来た。今日なにあるか」
フォレストマンの中で、特に俺と親しいのは、最初に接触したマレマという男だ。
彼らはヤモリ人とでも言うべき生態で、周囲の風景に合わせて肌の色を変えたりできるし、手の吸盤みたいなのを使ってどんな樹でもするする登ったりする。
「今日はな。道具だ。宇宙船から持ってきた道具でな……。と言っても概念が難しすぎて分からないよな」
「分からない」
フォレストマンは素直だ。
マレマもそれは変わらない。
分からないことは分からないと言うので、そこは美徳だよなー。
「じゃあこれ。水を探す棒」
「おお!!」
マレマが目を見開いた。
熱帯雨林では、水は豊富に手に入る。
だがそれは不純物の混じった水だ。
きれいな水は、例えば地下水などである。
地底を流れる冷たい水。
冷たいから微生物の繁殖は抑えられている。
この棒は、そんな地下水を探り当てられるのだ。
「助かる。素晴らしいものだ」
「喜んでもらえて何よりだ! じゃあ、そっちの収穫物をくれ。肉類はすっかりお前らに頼ってるからなあ」
ホロロッホー鳥をたまに食っているが、村人も増えてきたからな。
今回も、どっさりと肉をもらった。
「何の肉?」
「バジリスク。大発生した。肉、毒がある。腐らない。毒抜き仕方教える」
「おお、助かる!」
マレマと角を突き合わせて、いかにバジリスク肉の毒抜きをするかを聞く。
「へえ!? 水で晒してひたすら叩く? 紫色が抜けて赤くなったら食えるのか。分かりやすいなあ」
「森の動物、暗い中で生きている。赤分からない。赤分かる鳥、肉を叩けない」
「なるほど!」
お陰で、バジリスク肉は森の中ではアンタッチャブル。
フォレストマンの占有物になっていると。
とても食べ切れないくらい取れたので、俺たちにくれるということなのだ。
「水が分かる棒、これどころでは済まない。しばらく肉を持ってくる」
「ありがたい!」
水が分かる棒こと、SFダウジング棒。
こいつの使い方も実践してみせる。
いわば、地下水センサーだ。
水音、地殻の構造、周辺地形などなどから情報を集め、地下水の存在を高確率で認識すると、両手に持った棒が……こう、中心に寄る。
「最新鋭のすげえSF機械なんだが、導き出される結果が普通のダウジング棒と変わらないんだよな……」
オーバーロードも、これを使ってその土地で水を探っているのかも知れない。
俺がマレマとやり合っていたら、横合いが騒がしくなってきた。
今回は、マドカとサーラを連れてきたのだ。
マレマもフォレストマンの子どもたちを四人ほど連れてきていて、ちびっこたちが六人でわちゃわちゃと遊んでいるではないか。
他のフォレストマンたちは、微笑ましげにこれを見つめている。
俺もニコニコだな。
ちなみに遊ぶ道具は、ボールである。
ここはフォレストマンとの取引に使う館なのだが、ちびっこたちがボール遊びをできるくらいの広さはあるのだ。
ボールは綿花製。
表面だけを固くして、中身はふわっふわの綿花。
ちびっこパワーでも投げあって遊べるし、ぶつかっても全然痛くない。
あれはなんだ。
ちびっこバレーみたいなものか。
あ、落っこちてもアウトにならないのね。
フォレストマンの子一人と、マドカとサーラがチームになり、対するのはフォレストマンちびっこチーム。
わあわあ、きゃあきゃあ叫びながらボールを投げ合っている。
クロロックやパピュータの話では、両生人のちびっこはおたまじゃくしで、まだまだ動物同然。
育って初めて知性体になる。
だが、ヤモリ人であるフォレストマンたちは、子どももちゃんとヤモリ人の形をしており、知的。
ボール遊びの要領をすぐに掴み、マドカたちといい勝負をしている。
「あれ、欲しいな」
マレマが呟いた。
「いいだろう。あのボールも今度、頑丈なのを作って進呈する。フォレストマンにも新しい娯楽が増えるな」
「ああ。知らなかったこと、たくさんあった。ショートが教えてくれる。俺たち、豊かになる。いいこと」
ヤモリ人の表情は一見して分からないように見えるが、実は人間とそう感情表現が変わらない。
口角がちょっと上がっていて、マレマが笑っているのだと分かった。
「俺たち、肌が弱い。勇者村に行く、難しい。だが、いつかは、ショートの村に行きたい。大きくなっているだろう」
「ああ、そうだ。フォレストマンが乾季でも歩き回れるように、俺の方でも何か考えておくよ。こいつばかりは、村の技術じゃなくスペシャルなやつになりそうだが」
「期待している」
マレマはそう言うと、またちびっこたちが遊ぶ姿に目を移し、微笑むのだった。
その後、ちびっこたちは遊び疲れて床に突っ伏すようにして寝てしまった。
これを回収だ。
きっと目覚めたら、空腹を訴えることであろう。
フォレストマンのちびっこたちも同じようで、ちびっこのエネルギー切れとともに今回の交換会は終わりとなった。
館から、フォレストマンたちが引き上げていくのが見える。
さて、これから村のみんなを集めて、バジリスク肉の毒抜きをしなければな……!
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