第298話 赤ちゃんの服を子供服に!

 農作業を終えた昼。

 食器を片付けた後の勇者村婦人会が、何やら集まっているではないか。


「何をしているのだ」


 俺は興味をいだき、ニューっと首を突っ込んでみた。


「村長! これこれ」


 パメラが見せてくれたのは、ほどかれたバインのベビー服である。


「開きになっている。これをどうするんだ?」


「こいつをね、別の布と繋いででっかくなったバインのための服に、仕立て直すのさ。服が子どもの体を締め付けちゃいけないからね」


 なるほど。

 ここはどうやら、今ある服をサイズアップさせる集まりらしい。


「一度服になったものが、作り直されるのか……! そんなことができるんだなあ」


 感心してしまった。

 一同のリーダーは、スーリヤである。


 地元砂漠の王国で、服は全部手作りしていた本格系服飾女子の彼女。

 なんとここでは、糸は綿花から作っている。

 染色まで手掛けている。


「勇者村服飾部門のトップであったか」


「ショート村長が外で色々仕事している間にも、子どもたちは育っていくでしょう? 私たちの仕事は、そのために必要なものを準備し続けることですから」


 彼女はにっこり微笑んだ。

 傍らでは、サーラがすうすう寝ている。

 マドカなんて寝てると、鼻提灯でぷうぷう言うのにな。


 アキムはいい奥さんをもらった。

 そしてスーリヤに師事し、めきめき腕を上げているのがカトリナだった。


「見てショート! これ、マドカの服!」


「おおっ! 基本は貫頭衣の形だが、飾りが増えてる! 結構大きくなったなあ」


「マドカもどんどん大きくなってるからねえ。あの子、ものすごく動くでしょ。だからゆったりしてて、それでもできるだけ嵩張らないようにしないといけないの!」


「なるほど……!」


「あと、あちこち布地を厚くしてるから、転んでも怪我をしないわ!」


「すごい!」


 マドカはバタバタ走り回り、転んだり転がったりするが、あまり怪我をしない。

 皮膚が頑丈なのだと思うが、それと同時にカトリナがこうして、対策を施していたのだ。


「ビンはねえ、最近どんどん大きくなるの。もうすぐ三歳でしょ? 服もそれ用に作り変えないとだから大変」


 ミーが笑いながら。

 ちなみに新しい服ばかりではなく、古い服も修繕し、次に生まれてくる子どもたちのために取っておくのだそうだ。

 俺とカトリナの家の地下室がそのために使われている。


 あそこは一年中温度が安定していて、なぜか湿気が少なめだからな。


「そうだ! 修繕した服を仕舞いに行くから、ショートさんも付き合ってよ!」


 ミーに言われて、ついていくことにした。

 と言っても我が家だがな。


 地下室なんてここしばらく覗いて無かったなあ……と思ったら、蓋を開けてびっくりした。

 地下にはずらりと棚が並び、そこには服やら下着やらが収められているではないか。


「男たちは昼間、畑で働いてるでしょ。その間、あたしたちはこうやってみんなが暮らすための準備をしてたわけ。もっとも、棚はブルストさんに作ってもらったけど」


「ブルスト、マメだなあ」


「嫌な顔一つしないで引き受けてくれるしね。ショートさんがいなかったら、あの人が村長だっただろうねえ」


「違いないな。俺としても、いろいろな意味で世話になってる男だ」


 地下室の広さは、俺の家とちょうど同じくらい。

 つまり結構な広さがある。


 暗いのだが、ミーは懐から何かを取り出した。


「それは?」


「この間フォレストマンからもらったの。光る虫。これをちっちゃいカゴに入れて持ち歩いてるの。あ、夜は家の中で自由にさせてるよ?」


 見せてもらったら、芋虫みたいなやつだった。

 お尻がピカピカ光っている。

 こいつは人と同じ、パンとか野菜とかを食うらしい。


 どうやら我が村に、そんな感じの住人が増えていたらしい……!

 俺が知らないことって結構あるんじゃないだろうか?


 虫は俺を見上げると、『ピー』と鳴いた。


「この子のお陰であたしも地下室を歩き回れるわけ。その前は、暗視ができるパメラとカトリナにお願いしてたんだけど」


「あの二人、暗視ができたのか」


「ミノタウロスは昔は穴蔵生活だったから、闇を見通せるんだって。オーガはどうだったかな? カトリナはなんだか、暗くてもなんとなく分かるって言ってた。声が壁にあたって戻ってくるのを、角で分かるとか」


「角のある種族にエコロケーション能力が!」


 三年くらい一緒に暮らしてて、初めて知る真実である。

 だがカトリナ、普通に森の中とかは暗いと見えていない風だったので、こういう閉鎖環境でなければ役立たないタイプのエコロケーションかもしれない。


 棚はそれぞれの家ごとに分かれており、そこに雑多に物が積まれていた。

 ほうほう、我が家のはこれか。


「あっ、マドカが生まれたばかりの頃にくるまれていた布! あの頃は服を着て無くて布で覆ってたな。懐かしい~!」


「勇者村はあったかいから、赤ちゃんが体を冷やす心配がなくていいもんねえ。それだけでもここって過ごしやすいよー。あ、でも今はカトリナ、ちゃーんと服を作れるからね?」


「うむ……。彼女の進化には驚くばかりだ」


 日々研鑽を積むカトリナなのである。

 マドカの服ばかりでなく、次に生まれてくる子の服もバリバリっと見事に作ってしまうことだろう。

 心から応援したい!


 と、感慨にふけっていたら。


「おとたーん! どーこー!」


 上から声がした。

 マドカである。


「どうしたどうした」


 俺が床下からニューっと顔を出すと、マドカがびっくりして飛び跳ねた。


「おとたん、でた!! あのねー。まおねー、さーあねー、あのねー」


「そうかそうか、サーラが寝ちゃって暇になったか。マドカはもう一暴れしてからお昼寝だな!」


「うん!」


「よーし、お父さんと遊ぶかー!」


 そういうことになった。

 外では、ビンやルアブやカールくんが遊んでいる。

 マドカも混ぜてもらうとしようではないか!

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