第297話 二人目!!
「ショート」
「なんだい」
マドカを寝かせつけた後である。
まだちょっと寝るには早い時間。
普通の開拓地では、明かりがもったいないのですぐに寝てしまうのだが……。
ここは俺の無尽蔵の魔力で光を灯せるし、この辺りの樹木が油を含んでいるので、すぐ燃えて明かりになるんだよな。
カトリナが何か言いたげだ。
によによしている。
ニヤニヤではない。カワイイからによによなのだ。
「日々の私たちの頑張りが、ついに実りました!」
「頑張りが……?」
勇者村はまだ発展途上。
俺は毎日、楽しく頑張っているつもりである。
だが、カトリナと一緒に頑張っていること?
ふむ……?
「それはつまりどういう」
「夜に頑張っていたでしょ」
「アッー」
俺はピンと来た。
「まさか……まさかカトリナーっ」
「そうです! お腹の中に、二人目の赤ちゃんがいます!」
「うおー!」
「んおー」
寝室からマドカの声が聞こえてきた。
いかんいかん!
起きちゃう起きちゃう。
カトリナと二人、顔を見合わせ、声を小さくする。
「やったな! そうか、二人目かあ。すごいなあ、うれしいなあ。カトリナえらい」
俺はカトリナをぎゅっと抱きしめる。
彼女もすごいパワーで抱き返してきた。
「うんうん。これでマドカもお姉ちゃんだねえ」
「うむ……。だが、二人目ができたとなると、お姉ちゃんやお兄ちゃんになった子は愛情を取られるのではないかと嫉妬したりもすると聞く……」
「えー。子どもが増えたら増えただけ、愛情も増えるでしょ」
「な、なんだって! 俺は今、カトリナが女神に見える……」
「神様になりかけてるのはショートの方でしょー」
なんかこのやり取りが面白くて、二人でこやつめーハハハハハと笑った。
「実際のところ、うちの村は、子どもは村全体の子どもみたいなもんだからな。あまり心配はいらんかも知れない。それにしても凄いニュースだ。我が村に増える新しい次の仲間がうちの子だったか」
男の子でも女の子でもいい。
早く会いたいものだ。
カトリナのお腹に触れてみると、中で多分三ヶ月か四ヶ月目くらいの命がいるのが分かる。
半年くらいで出てくるな。
カトリナはめちゃくちゃにつわりが軽いので、分からなかったらしい。
それが、この間、勇者村婦人会でお茶会をしていたらヒロイナに指摘されたそうなんである。
「カトリナ、お腹の中にまた一人いるじゃない」
これで、婦人会はお祝いパーティになったとか。
ヒロイナには、マドカの時といい、世話になりっぱなしである。
今度、お礼にダリアちゃんのおもちゃでも作ってやらねばな。
最近すっかり目を見開くダリアちゃんは、出会うもの出会うもの、全てをじーっとガン見するのだ。
とりあえず、目が大きい子だな。
豪胆なバインすらたじろがせる、乳幼児ダリアちゃんのガン見。
赤ちゃんのうちから個性的でよろしい。
「次の子はどんなになるんだろうねえ。楽しみだねえ」
カトリナが微笑んだ。
俺もニッコリする。
「男の子でも女の子でもいいが、とにかく元気なのがいいな」
「マドカだってすごく元気なのに?」
「元気な子は何人いてもいい」
「そっかー。ショートが好きなのは元気な子なのねえ。この間、村に連れてきた新しい人も元気な人だったし」
「うむ、カトリナだって元気な女の子だったので好きになったのだ」
「あらまあ!」
カトリナがちょっと赤くなった。
ということで盛り上がってしまい、盛り上がった。
さて、朝である。
朝食の席にて、村のみんなに「二人目がな」と伝える。
すると、ウオーッと盛り上がり、お祭りのような勢いになった。
「そんなにみんなで沸き上がらんでもいいだろう」
「村の娯楽は人間関係だからな。何かおめでたいことがあったら、みんなでめちゃめちゃに喜んでお祝いするのが楽しいんだ。素直に祝福を受け取っておけ」
これはブルストからのありがたい言葉。
確かに。
最近めっきり、祝福を与えるばかりでもらうことが少なかった。
あちこちからおめでとうコールがあるが、大変照れくさいな。
むしゃむしゃと朝ごはんを食べていたマドカが、俺とカトリナを交互に見てきょとんとする。
「お?」
「マドカはな、お姉ちゃんになるんだぞ」
「お?」
「まだ難しくてわかんないねー。そうだ、今日は図書館で、お姉ちゃんになるご本を読もうねー」
「ごほんすき!」
マドカがニコニコした。
かくして、朝食の席は俺たちへの祝福のうちに終わるかと思われたのだが……。
「ふっふっふっふっふ」
ミーが不敵に笑う。
フックもニヤニヤしている。
なんだなんだ。
「あたしたちからも報告があるよ。ねえフック」
「おう! うちもな、二人目ができた!!」
おおおおおおお、とどよめく勇者村。
まさか、カトリナとミーが同時に!!
これは完全に同い年の赤ちゃんが誕生してしまうのではないか?
勇者村にベビーラッシュ、来ているな……!
このベビーラッシュはなかなか難しい問題があり、育てる人の数的限界があり、農作業を行う人員をあまり育てる側に回すと収穫方面が落ちるである。
朝食を片付けた後、一転して場の空気がシリアスになり、
「ビンがもうちょっと育って畑仕事を手伝えるようになるまで、子どもを作るのは消極的で行こう」
そういうことになった。
別に営みをやめろというのではない。
家族計画を村ぐるみでやっていこうというのである。
農村は常に、労働力を必要とするのだ。
だが、生まれた命が労働力になるまでには、長い年月が掛かるのである……!
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