第296話 両生人チーム結成
イモリ人のパピュータを連れて勇者村に帰ってきたら、新しいのが来た、と村人たちが集まってきた。
パピュータを紹介し、村人たちの自己紹介がある。
「なるほど、両生人ですか。ではワタシと近い種族ですね」
「押忍! カエル人と自分たちイモリ人は子どもも作れるくらい種が近いですね!」
「ワタシもあなたも雄ですが」
「そうですね! ですね!」
クロロックがカパッと口を開き、パピュータが目を見開いてぎょろぎょろさせた。
こ、これは両生人ジョーク!!
どうも二人のこれは、ジョークを言った後の決め顔らしい。
ちなみにこのジョークで、虎人親子が大いに受けた。
あっ、二等兵までプルプル震えて笑ってやがる。
どこに笑いのツボがあるんだろうな……。
「ジョークはともかくとしてよ。村に来たからには、農作業全般と一緒に何かやってもらわなくちゃならん」
さすがはブルスト。
この場の緩んだ雰囲気を一言で引き締めた。
勇者村は全員が村の運営に携わる共同体。
必死に仕事をする必要なんて全く無いが、誇りを持って何か一個やってほしい。
そんなところだ。
「押忍! 自分、クロロックさんが同種族で親しみを持てるので、一緒に働くのがいいと思います! ます!」
「ふむ、ちょうど醸造所の助手が欲しかったところです。魔本たちはブレインさんとの研究を始めていて、今は発酵関係は一人ですからね」
「ブルストは酒で手一杯だもんな。よし、じゃあ頼むぞパピュータ!」
「押忍! がんばります! ます!」
大変元気である。
ぬるっとしたイモリなのに、口から出てくる言葉はどれも覇気に満ちているのが面白い。
とりあえず、パピュータの住まいはクロロック邸への同居ということになった。
クロロックの家は勇者村の外れ。
小川をまたいだ橋の形をしている。
さらに周囲は木々で覆われ、日差しもあまり差し込んでこない。
日差しを必要とする人種だと、いちいち外に出て日光浴せねばならない場所なのである。
だが、両生人同士ならば安心だ。
「しっとりしてて涼しくて、いいところですね! ですね!」
パピュータが嬉しそうである。
「将来的に自分、世界に散った仲間たちを見つけて、勇者村に連れて来たいです! そのために、自分、生活の基盤を作らなきゃって思ってます! ます!」
「立派な心がけです。ワタシが生きていくための技能として、発酵技術のなんたるかを伝授しましょう。ただ、ワタシもまた道の半ば……。また今度、ショートさんの世界に連れて行って下さい。今度はビール工場とやらを見学したいです」
「いいぞ。ブルストも連れて行くか!」
思わぬ予定が立ってしまった。
ブルストとクロロックを連れて、ビール工場見学か!
ビール酵母とか買えるかな……?
話は戻って醸造所。
ここはクロロックの家の隣にある。
鍛冶神が作り上げた建造物であり、一見すると丸太で組まれた素朴な大型ログハウス。
だが、そこは木々の性質を完璧に理解した上で作られており、内部の環境は雨季でも乾季でも一定の温度、湿度を保つ。
ある意味、発酵食品のための神殿だな。
そしてクロロックの発酵室と、ブルストの醸造室は完全に隔てられており、菌が行き交うことはありえない。
これ、結界みたいなのすら施されてるんじゃないか?
「ここいいですね! じめっとしてて! してて!」
パピュータが発酵室の空気に触れて、喜びを感じている。
両生人は湿気が高いのが好きだからな。
川べりに住まいを作っているのもそういう意味があるし。
発酵室は長時間いると、他の人種では慣れないとなかなか大変だ。
だが、湿気に対して極めて強い耐性というか適性がある両生人は、むしろ我が家のように安らいで感じるようだ。
一通り発酵室を体験した後、パピュータを畑作にも連れ出してみた。
「うちの村でのベーシックな労働が畑作な。水気が多い方が良ければ稲作に行くことになる。両生人だと日差しがきつかったりするかもだから、うちの婦人会に依頼して専用の帽子を作ったりもしている」
「うおー!! いたれりつくせりですねえ!! ねえ!」
パピュータは感激した後、もうすぐ苗を植える予定の田んぼをぺちぺちと歩いた。
「ここが水で満たされるんですね? ですね?」
「そうなるな。そしてうちのホロロッホー鳥軍団が、魚や虫や雑草を食べるために解き放たれる」
「おおー! ホロロッホー鳥農法! 自分がお手伝いしてきた農村でも聞いたことがあります! ます!」
外でもやってるのか。
いや、ホロロッホー鳥を育てながら雑草と害虫駆除もできる、合理的な農法だしな。
どこでも思いついたらやるだろう。
途中で、ルアブとカールくんと出会った。
二人は、見覚えのない両生人に興味津々。
「きゅうばんさわっていい?」
「おはださわっていいですか!」
「いいよ! よ!」
パピュータは心が広いらしい。
子どもたちにペタペタされて、ニコニコしている。
「人間の子どもは体温が高いですね! ほっかほかです! です!」
「そうか、両生人の体温はちょっと低いんだよな」
体温が低いから、水の中で生活してもなんともない。
だが、直射日光に長時間当たると命が危ない。
フォレストマンと一緒なんだな。
彼らはヤモリ人みたいな感じだが。
「ともだちにしょうかいするぜ! ついてこいよ!」
「かんげいします!」
二人に両手を引っ張られて、パピュータがこっちに首をくるんと向けた。
「行ってくるといい。うちの村はいいやつばっかりだぞ」
「押忍! お言葉に甘えます!! ます!! 紹介してくれ! くれ!」
パピュータは完全にうちの村に受け入れられたようだ。
貴重な戦力でもあり、村を一段と賑やかにしてくれる新たな仲間だぞ。
そしてもうすぐ雨季が終わり、乾季がやって来ようとしている。
勇者村はだんだん大きくなりながら、四年目に向かっていくのだ。
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