第295話 宇宙食! 宇宙服!

「一歩下がれパピュータ。防衛システムだ。こいつはな、こうだ!」


 俺がパンチで、横合いからレーザーを放つシステムを壊す。

 小さな爆発が起きた。


「押忍! 実戦での対処方法! 勉強になります!! ます!!」


「いいぞいいぞパピュータ! お前、なんであんな欲の都みたいな宇宙船村に来てたんだ。こんな気持ちのいいやつなのに」


「押忍! 魔王大戦で、自分の一族が住んでた沼地が干上がったんです! なので、みんな暮らせなくなって散り散りになりました! 自分は一番若くて力があったので、こうして遠くまでこれました! した!!」


「ほう……ではお前の仲間たちは」


「年寄りはでかくなりすぎてて移動できず、干からびて死にました……! ガキどもはオタマジャクシなんで、育ちきれずに死にました! 自分は金を稼いで、故郷を再興したいんです! です!」


「重いバックグラウンド!! それにめげずに一族の再興を目指すなんて。なんていい若者だ」


『よくできた男だ』


 俺も鍛冶神も、感心してしまった。


「パピュータ、うちに来なさい。あ、いや、だがうちでは金を稼げないなあ……」


「押忍! うちって勇者様の村ですか!? ですか!? うおぉーっ! 光栄です!! です!! 行きます!!」


「よし来い!」


 そういう事になった。

 こんなところで新たな村人をスカウトしてしまったぞ……。


 こうして、パピュータを連れてもりもりと宇宙船内を行く俺たちである。

 扉にぐっと手を掛けると、鍛冶神がその辺りの破片を一瞬で剣に鍛え直し、隙間に差し込んだ。

 テコの原理で、パッカーンと扉を開ける。


 まだ生きている防衛システムがちょこちょこあるので、こいつをチェックだな。

 宇宙船村の連中、外壁を破って中に入ってこれるようになったら、このシステムと戦わなきゃならなくなるからな。

 少しでも情報があった方がいいだろう。


『ほう、面白い服があるな』


 鍛冶神が銀色のものを取り出してきた。


「こいつぁ、宇宙服じゃないか」


 一見して、体にフィットする感じの伸縮自在なボディスーツ。

 こいつはカトリナくらいの体格から、ブルストまで自由に装着できるな。


「……村では使い物にならんなあ……。ビンが成長したらこれを着せて宇宙に連れて行ってやるか」


 ひとまず、回収ということにする。

 アイテムボクースにポイッと。


「食い物の匂いはしないっすねえ!」


 パピュータが部屋の中にペタペタ入り込み、天井を這い回りながらあちこち探っている。


「全然匂いがしないっす!」


「宇宙食だろうからな。パックに詰め込まれてて隙間も何もねえだろうな」


 それっぽい棚を物色する。

 おうおう、出てきた出てきた。

 銀色のパックに真空になって収められている。


 こいつをビリっと裂くと、中からふんわりと食い物の匂いが漂ってきた。


「押忍! 旨そうな匂いです!! です!」


「そうだな! 甘い香りだ。菓子かな?」


 出てきた平たいものは、ウェハースみたいに見える。

 一口食ってみると、なるほど、サクサクするけど口の中でドロっと溶ける。

 味は甘いが、後味は肉だな、これ。


「パピュータ、これやる!」


「押忍! 光栄です! です!」


 俺が放り投げた肉ウェハースを、パピュータがパクっとキャッチした。


「あっ! なんか食べたこと無い味ですよこれ! 美味しい! しい!」


「パピュータは元気だから俺も元気になっちゃうな」


 俺はちょっと笑いながら、ボタンがついた銀色のボードを手にした。

 ポチッとな。


 おっ! 湯気が吹き出してきた。

 ワンタッチで温めが完了するやつか。


 ボードを開けると、中身はギュウギュウに詰まったペーストだった。

 そいつがぐらぐらと煮立ったかと思うと、あっという間にスープになる。

 中からは、プカプカとパイプみたいなのが浮かんできた。


 どーれ。


「おっ、これはでかいマカロニみたいな見た目なのに、食感がサクサクのスナックだ。全然スープを吸ってねえ! なんだこれ? 味は……うーん、ポテチのコンソメ味だな」


 不思議なものばかりあるぞ。

 その他、一見するとジュースの粉なんだが、空気に触れた瞬間にスティック状に成形されるチョコバーみたいなものを食ってみたり。


 散々楽しんだので、幾つか回収して立ち去ることにした。

 後は、宇宙船村の連中の楽しみに取っておこう。


「チョコバーを二本、マドカとカトリナ用に確保したし。さあ、行くぞ」


『神もなかなか楽しいものを手に入れた。見よ。自ら考えて動く鍛冶の助手だ』


「ロボットアームか! 動力は?」


『神が力を与えれば動く』


「神力製ねえ」


『お前たちがつまみ食いをしている間に、少しばかりいじった』


「鍛冶神はハイテクにも通じてるのか?」


『全ての鍛冶を司る神だ。そこに時代は関係ない。既に同じものならば作れるようになったぞ』


 やりおる。

 神々というものは、人類が産み出した技術も知識も、すぐさま吸収して自分のものにしてしまえる。

 基本的なスペックが違うんだな。


 こいつは魔王も一緒。

 多分、神も魔王も本質的には同じ存在なのかも知れないなあ。


「ショートー!」


「おとたん!」


 宇宙船の外壁を降りてきた辺りで、カトリナとマドカのお出迎えだ。


「お待たせ! 楽しんだか? よし、帰ろう!」


「なあに、その銀色の袋……うわー、開けてみたら棒みたいになった!」


「うまー!」


 マドカが早速チョコバーに噛み付いて、ニコニコする。

 甘味は宇宙を越えるな。


「ああ、それから、彼は村の新しい仲間のパピュータ。気持ちのいい若者だぞ」


「押忍! 押忍!」


「おっす!」


 いかん、マドカが真似し始めた!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る