第294話 宇宙船村の鋼材産業

「おーい鍛冶神!」


『ショートか。よく来たな』


 宇宙船村の村長をやっている鍛冶神に会いに来た。

 神なのに村長とはこれいかに。

 だが、実際にそうなのだから仕方ない。


 俺が見るところ、数年は宇宙船村は続くだろう。

 その後にここが残るかどうかは微妙だ。


 それでも数年間は隣近所として付き合うことになる。

 そこのボスが俺と親しい鍛冶神ならば、何よりも安心できるというものだ。


『一人か』


「嫁と娘は射的場で遊んでる」


『あれか! どうやら船に積まれていた、撃ったものを取り寄せる装置らしいのだが、安全に遊べるのでああやって遊戯用に配置している』


「トラクタービーム発射装置だったか……!」


 オーバーロードの宇宙船、大変にSFである。


「それでどんな感じなんだ、宇宙船の解体は」


『流石に大きいものだからな。神が一柱で掛かれば半年ほどであろうが、ここは人に任せて指導だけをしようと思ってな。お前を見習ったのだ、ショート。人がそれだけでも生きていける力を持たせねばならん。それで、ざっと十年は掛かる』


「思ったよりも長いなあ! それだと、ここに産業が産まれるかもな。すぐに消えちまう村だと思っていたが、案外残るかもしれん」


 それどころか、宇宙船村が町になる可能性だってある。

 勇者村の隣に町が!

 貨幣経済が襲ってくるぞ!


 対策を考えねばな……。


 ちなみに今現在、宇宙船村はうちから食材を買い付けたいようなのだが、金が通用しないのでめちゃくちゃ困っているらしい。

 物々交換だし、大概のものは村が自給自足で作ってしまうからな!


 ……待てよ。

 勇者村が宇宙船村から、有用な人材を引き抜いて拡大してしまえばいいのではないか?


 貨幣経済何するものぞ。

 こちとら、社会の持続性に全てを割り振った農耕生活の村なのだ。


「それで、宇宙船村からはうちで使えそうなものある?」


『無いな。生活を便利にするためのものは作れるが、それで職を失う者が出てくるだろう。お前の暮らしていた場所の話を聞くと、不便さがむしろ様々な者を受け入れる余地となるように思える』


「俺の世界だろ? だよなあ。パソコン導入されたら、仕事の密度が死ぬほど上がったとか休みも関係なくメールで拘束されるとか聞くからなあ」


 休みは休み!

 人間の力を尽くしたら、あとは寝て過ごして天命を待つ!!

 これが勇者村のスタンスである。


 人間、無理せず、ほどよく働いて飯食って酒呑んで仲間と騒ぎ、夜はしっかり寝ていれば幸せなのだ。

 娯楽はその都度、作ったり見つけたりしていく。


 生き物の嗜好はエスカレートしやすいので、同じ娯楽は長く続けないようにする……とか。

 俺は色々考えているのだ!


『では、今日も装甲を剥がしに行こう』


 鍛冶神に連れられて、宇宙船のところへ。

 真っ二つになった宇宙船が、村の中央に鎮座している。

 そこには、大量の村人が群がっており、カッツンカッツンと装甲につるはしを突き立てているではないか。


「あれで掘れるのか? 明らかに強度が違わないか?」


『あれでは掘れないが、衝撃を与え続けるとどこかが少し緩む。そこに棒を差し込んでテコの原理で剥がしていく』


「ははあ。衝撃には強いが、曲げられる力には弱いんだな」


 鍛冶神が発見した、宇宙船の構造材の特徴だ。

 こうして、ちょっぴりずつ宇宙船は解体されていっている。


「村長!」


「村長が来たぞ!」


「隣の村長もいる!」


「ダブル村長だ!」


 ざーっと人波が分かれた。


「すっかり俺も顔が知れ渡ってしまっているな……」


『お前、世界中であれだけやらかしてきて知れ渡らないはずがないだろう。世界を救った勇者なのだぞ』


「そう言えばそうだった」


 宇宙船村は、世界中から集った人々である。

 そして勇者村は、世界から俺が集めた感じの人々である。

 宇宙船村は欲で繋がり、勇者村は縁で繋がっている。


 うーん!

 宇宙船村、世間の集合体みたいなところだ!


 俺たちがどういう作業をするのか、一同興味津々だ。

 いや……こいつら……。

 俺たちが作業をしたら、その余波で宇宙船の一部が崩れて、おこぼれを得られるのではないかとついてきているのではないか?


 汚い!

 流石世間の集合体汚い!


 俺はこういうのが嫌で勇者村を作ったのだ。


「さっさと作業を終えて帰ろうと思う」


『世俗の風を浴びて嫌気が差した顔をしているな。いつもきれいなものしか無いところにいるからだぞ』


「肥溜めとかあるぞ」


『物理的な話ではなくてだな』


 鍛冶神とそんな話をしながら、宇宙船の壁を垂直に登っていく。

 さすがに村人も、これにはついてこれない。

 いや! なんか手足についた吸盤で登ってくるツワモノがいる!


 お前はついてきてよし!


「押忍! 自分、両生人のイモリ人、パピュータと申します! 光栄です! です!」


「おっ! 元気なやつだなあ!」


 俺は元気なやつは大好きなので、このイモリ人を気に入ってしまった。

 ということで、俺と鍛冶神とパピュータで宇宙船の中へ。


 基本的に、宇宙船村から見えているのは船の外壁側。

 この船は地球で言う、超豪華客船くらいのサイズがある。

 とにかくでかいのと、村側からは入り込める場所が極端に少なく、まだ船内の捜索は進んでいないのだそうだ。


 俺たちも、二等兵を掘り出してそれで満足していたからな。

 まだまだ船内スペースはあることだろう。


「よしパピュータ! なんか欲しい物はあるか!」


「押忍! 自分、外の世界から来た船と聞いて、外の世界の食べ物が食いたいです!です!」


「ほう、イモリ人は丸呑みじゃないの?」


「ちょっと歯があります!」


「おおー!」


 パピュータの歯を見せてもらったりした。

 うはー、生臭い。


『ショート、お前、そういう変わったのとはすぐに仲良しになるな』


「俺は個性的なやつは大好きだ……。よし、今日は宇宙食を探そう!」


 そういうことになったのだった。

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