第293話 盛況なり、宇宙船村

 どんどんと大きくなる宇宙船村。

 宇宙船からは、見たこともない鋼材がどんどん採掘され、これが村を通じて世の中に出回っていくわけだ。


 まだ、何に使える素材となるのかは分からない。

 だがここに、新しいビジネスのにおいを嗅ぎつけて、商人やら貴族やらが集まってくる。

 さらに一発当てたい人々や、村を出て夢を追う若者たちもやってきて、新たな村は大変な賑わいだ。


「ショートさん、俺も見に行ってみたいな」


「俺も興味あるなあ」


「フックとアキムもか。そうだなあー。勇者村は貨幣経済じゃないから、そういう世界から来ると宇宙船村の景気の良さが懐かしいかもな。もうすぐ乾季だから、それまでには戻れよ」


「分かった!」


「色々面白いネタを仕入れてくるよ!」


 ということで、村の男二人が宇宙船村へ出稼ぎ……という名目の観光に向かっていった。

 フックとミーの子のビンは全然手がかからないし、アキムの家は長男のアムトがもう成人しそうだしな。

 父親が遊びに行ってても問題ないだろう。


 誰が抜けても大丈夫なように、勇者村の仕事のローテーションは、常に余裕を持って回しているのだ!

 なので俺がちょくちょく抜けて、他のところにちょっかいを掛けに行けるのだ。


「ショートさん、俺らも見に行きたいなあ」


「なんだって」


 アムトやリタも興味津々だと!?


「一度に抜けるのは良くないなあ。毎日の野良仕事のローテーションがある。二日くらいしたら俺がフックとアキムを連れ戻してくるから、そうしたら交代な。あと、お前らはまだ未成年だから、保護者をつける」


 保護者はクロロックにお願いした。

 彼はいつものように、クロクロと喉を鳴らして快諾してくれたのである。


「雨季の研究も大方終わりましたからね。味噌が完成しました」


「そうかそうか。……な、なにぃーっ!? 今、さらっととんでもないことを言ったな!?」


「ええ。ショートさんのお母さんが持ってきた味噌を、ワタシなりに研究しまして。構造を把握したので、大豆を用いて味噌を作ってみたのです。味の深みがまだまだ足りませんが、これは日にちをかけて熟成させたものと見えますな。だが、発酵に掛けては任せて下さい。肥溜めからのフィードバックが生きていますよ」


「味噌を作る時に肥溜めをイメージするのはなんだか抵抗があるなあ!」


 ということで、二日くらいしたところで、フックとアキムを連れ戻してきた。

 二人とも、もっと居たーい! と駄々をこねたが。


「子どもをほったらかしにして自分だけ遊ぶやつがあるか」


 と叱っておいたのである。

 そして、アムトとリタとクロロックが、交代で宇宙船村に遊びに行くことになる。

 三人を見送った後、フックとアキムから詳しい話を聞くことにした。


「で、どうだったんだ?」


「いやあ、あれはちっちゃい町だよ、もう。なんでもある」


「きれいなお姉さんと遊べるお店とか、怪しい薬を売っている店もあったよ」


「ほうほう……。人が集まるところ、金が産まれる。金があるところには、それを消費させる娯楽が産まれるもんだな。うんうん。子どもの教育にはよろしくないな」


 そこはクロロックが上手くやってくれるだろう。

 とりあえず、フックとアキムには、きれいなお姉さんと遊べるお店の話は死ぬまで腹の中に収めておくように言い聞かせた。

 夫婦間戦争になるからな……!! しかも否がある旦那の方が滅多打ちになるやつだ。


「待ってくれショートさん。俺はいかがわしい店は外から眺めるだけで入らなかった……! 妻を愛しているからな!!」


「な、なにぃ! アキムがかっこいいことを!」


「あー、俺もこう、あそこで遊んだらビンにも顔向けできねえなって」


「フックー!! すまん、二人とも。俺はお前らの男気を見くびっていた……。自分の汚れた心が恥ずかしい」


「何を言うんだショートさん! ショートさんは村のことをいつも一番に考えてるから心配してくれたんだろ!」


「俺たちはショートさんに感謝してるんだ! 迷惑かけることなんてしないよ!」


 その割には、宇宙船村から連れ戻す時に駄々をこねたな……!

 二人がいかに宇宙船村が楽しかったかを伝えてくるので、俺も興味が沸いてきた。


 だが、俺は有名人である。

 見る人が見ると、一発で元勇者のショートだと知れてしまう。

 これは、日本人的な風貌がこの辺りにはいないからだな。


 ということで、俺は変装をすることにした。

 作業着っぽいのを着て、頭にはヘルメットを被る。


「面白そう! 私も行くね!」


 カトリナも俺の真似をして、作業着を身に着けて頭にはほっかむりをする。

 なるほど、角がちょっと目立たなくなる!


「んおー! おかたんそれなに! まおも! まおも!」


 マドカがほっかむりを見て大興奮する。

 どこで興奮するかツボが分からんな!


 ちびっこサイズの作務衣みたいなのを着せて、ほっかむりをさせたら、マドカはニッコニコだ。

 こうして宇宙船村へ遊びに行くことにした。


 せっかくなので、ミーやスーリヤも誘ったのだが……。


「あたしはいいや。なんか行ったら戻ってこれなくなりそうな気がする。刺激的なものは避けるようにしてるんだよね」


「私はそこまで、新しいもの好きでもありませんし。むしろそろそろ、釣りができる季節になるので仕込みをしておかないと」


 とのお話である。

 みんなスタンスは色々なのだ。


 では、カトリナはどうして俺と?


「私? 私はねえ、ショートとマドカと、遊びに出かけたかったの」


 彼女がニッコリ微笑んだので、俺もニコニコになった。


「よしよし! じゃあ三人で宇宙船村に遊びに行ってみるか!」


 村のすぐ近くに観光地ができたようなものだ。

 カトリナ謹製のお弁当を準備。


 さあ、観光に出発だ。


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