第292話 宇宙船を解体しよう

『ほう、宇宙船』

 

 鍛冶神が興味を示したようだ。


『よく知らぬ金属の気配があると思ったら』


 どうやら彼は、宇宙船が降りてきたのを感じ取っていたらしい。


『どんな金属なのだ? ほう、柔らかい? 合金か。興味があるな』


「いじってみるか」


『いじってみようではないか』


 ということで、鍛冶神と連れ立って宇宙船へ向かうことになった。

 後ろを、二等兵とその上に乗ったマドカがついてくる。


「きゃきゃきゃ!」


『ピピー! 落ちないように掴まっていてください! 飛ばしますよー!』


 二等兵が速度を上げた。

 小走りするくらいの速さだな。


「マドカー! ご本の時間でしょ! 遊ぶのはあーと!」


「やー!! おとたんとー!」


 おっ、カトリナがやってきて、マドカを回収していった。

 マドカがのけぞったりジタバタしたり暴れているが、カトリナのパワーには抗えないぞ。


 彼女と出会ったばかりの頃、女の子なのでパワフルなことは苦手なんだなあと思っていたが、高レベルの俺やオーガなおっさんのブルストに比べたら非力なだけだった。

 人間と比べると遥かにパワフルだな!

 マドカの力ではびくともしないぞ。


 マドカよ、世の中には抗えぬ力というものが存在することを知るがいい。

 強く、賢く育てよ……!


『もう良いか?』


「済まんな……!」


『お前は半神半人みたいなものだからな。まだまだ情を捨てられまい。捨てる必要もあるまい』


「神様っぽいこと言うなあ」


『神をやって長いからな』


『体が軽くなりました』


 かくして、俺、鍛冶神、二等兵で宇宙船まで来る。

 俺のチョップで真っ二つになった宇宙船は、その巨体をずどーんと晒している。


『よし、解体していくとするか』


 鍛冶神が、どこからかノミと槌を取り出し、宇宙船の装甲板をカツーンとやる。

 すると、その部分がボロっと剥がれた。


「きれいに剥がれたな!」


『これが神の権能の一つである。神は素材となるものを掘ることができる。あらゆる素材は神の手によって回収されるのだ』


 神の権能というやつは、ものによっては物理法則を無視する。

 そういう概念として機能して、例えば鍛冶神ならば、どんな頑丈な装甲板であろうとも素材に戻してしまうことができるのだ。


『面白い素材だな。だが、勇者村ではとても使い切れまい』


 装甲板の欠片を手にして、すかしたり叩いたり伸ばしたりしていた鍛冶神。

 思いもよらぬことを言い出した。


『幸い、船は大きい。人を集め、皆に回収させよう。これを素材として人の世界で活用してみようではないか』


「一大イベントになるな……! だが面白そうだ。このまま宇宙船を埋めて終わりにしようかと思っていたのだが、みんなでバラして活用できるなら無駄にならないもんな」


 ということで。

 ハジメーノ王国で一大キャンペーンを展開することになった。

 勇者村にある宇宙船を解体し、未知の素材をゲットしよう! というものである。


 トラッピアに協力を仰ぎ、素材の半分は王国に寄付することを約束したら、広報をやってくれることになった。

 徐々に人が集まってくるようになる。


 勇者村の横合いにある荒れ地に宇宙船を置いておいたのだが、そこに人が集まると、森や林が切り開かれ、たくさんのテントが立ち並ぶようになる。

 次に、ここで宇宙船を解体する人々をあてにした商店が展開し始めた。


 最初は簡単な食べ物屋である。

 素材の類は、勇者村まではるばる持ってくるのが大変なので、うちから商人たちが買い取ることになった。

 代価は素材を使った料理。


 勇者村の仲間たちは、珍しい屋台料理的なものを楽しんでいるようである。


 やがて、宇宙船の周囲にはログハウスが立ち並ぶようになり、村になった。

 ここまで二週間くらいだ。

 早い!!


 未知の素材を求めて、とにかく人が集まってくる。

 思った以上の規模である。


 俺はこれを、宇宙船村と呼ぶことにした。


「人がたくさんいますねえ」


 今日はブレインと一緒に宇宙船村を見に来た。

 村長の役割を担っているのは、なんと鍛冶神である。


 彼が宇宙船から素材を引っ剥がす権能を一手に引き受けているわけだし、さもありなん。

 鍛冶神がやらねば、誰も宇宙船を解体できないのだ。


「俺の世界には昔、ゴールドラッシュっていうのがあってな」


「ゴールドラッシュ……? 金ですか」


「ああ。金がたくさん出たんだ。んで、みんなで金を掘りに来た。一番儲かったやつは、金を掘るための道具を売ったやつだってネタがあってな」


「ああ、それは確かに! 勇者村も貨幣経済なら、同じような理由で豊かになったでしょうけれども」


「物々交換だからな。宇宙船村の好景気とは無関係だわな。だが、それでいい」


「それはまたどうしてですか?」


「こういう宇宙船解体ブームみたいなのも、遠からず終わる。そうなりゃ、宇宙船村は終了だ。そんな一過性の好景気に浸って楽をすることを覚えてたら、ブームが過ぎ去ってから地獄だぞ。人ってのは一旦楽をしたり、生活のレベルを上げてしまうと、元に戻すのが大変になるんだ。不幸を感じやすくなるしな……」


「ショートは修行者のような事を言いますよねえ。まあ、私も同じ気持ちです。魔本がたっぷりと読める今の環境は、既に理想郷ですし。何より、持続性があると言うか、さらに魔本が増えていく可能性があるというのが素晴らしい」


「つくづく、ブレインは変わってるなあ……」


「ええ。ですから王都ではやっていけなかったんです」


 そんな世捨て人みたいなのが集まった勇者村。

 隣に物欲の権化みたいな宇宙船村が誕生しているけれども、特に暮らしは変わっていかないだろうな、という予感が俺にはあるのだった。


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