第290話 ヤツの名はポンコツ二等兵

 雨季が終わりに近づき、晴れ間が長くなってきた。

 ということで、俺がオーバーロードとやらから回収してきた、この宇宙船を色々調べてみることにする。


「一緒に調べたい人」


「はい」


 ブレインがノータイムで挙手した。

 その後、アムトとルアブとカールくんも挙手。


 こういうの大好きな男の子チームで乗り込むのである。


「なんだろう。なんかワクワクするよな」


「だよなー! ぜんぶてつでできてるのか!?」


「ししょう! これはなんなんでしょう! やわらかいのにかたいです!」


 男の子チームがワイワイはしゃいでいる。

 宇宙船の動力みたいなのは、俺がチョップで真っ二つにしたので働いてはいない。

 そこまでの危険はあるまいということで、彼らを自由にさせているのだ。


 ただし、宇宙船の奥になるとどうなっているか分からない。

 今回はあくまで、表層に近い比較的安全そうなところだけだ。


「多分そいつはプラスチックみたいなもんだな。プラスチックっていうのは、石油から取れる固くて柔らかいものみたいなもんだ。俺もよく知らない」


「樹脂ですね。よくわかります」


 ブレインの方が詳しかった。

 彼がカールくんに説明している間に、俺はアムトとルアブを率いて奥へ奥へ。


 宇宙船の形はまんまる。

 大きさはでかい。とにかくでかくて、ハジメーノの王城よりもずっと大きい。


 中にある部屋はそれぞれ、十畳間くらい。

 なので部屋がたくさんある。


 次々に部屋を、腕力でこじ開けて行く。


「光ってるぞ!」


 アムトが驚いて叫んだ。

 おっと、まだ動力が生きてやがったか。


 男の子たちを下がらせ、俺は身構えた。

 部屋の中央部に柱があり、それがあちこちから光を放っているのだ。

 太さは一抱えもある。


 一部がガラスパーツみたいになっていて、そこから一番強い光が漏れている。

 これは……何かのポッドではあるまいか?


 そして、それは俺たちの侵入を感知したのか、プシューッと音を立てて開いていく。

 なんだなんだ。


『侵入者を感知。起動します……。ピピー』


 ゆっくりと、そいつは姿を現す。

 ウィーンという起動音。

 柱の中から、丸くて平べったいものが出現する……。


 ……。

 お掃除ロボ?


『お掃除の邪魔なので出ていってください。ピピー』


「お掃除も何も、この船はもう壊れているので掃除をする意味はないぞ」


『えっ』


 凄く人間的な返答をしたな。

 お掃除ロボはちょっと静かになる。


『返答ノ意味ガワカリマセン』


「急にロボみたいに喋りだした。いいか。船は俺が破壊して落とした。だからもう機能していないのだ。めぼしいものを入手したら、このまま消してしまおうと考えている」


『アワワワワ……お助けぇ』


 お掃除ロボがガタガタ震えだした。

 なんという感情表現に溢れたロボだろう。


「ショートさん、こいつ怖がってるよ」


「助けてやろうよ!」


 アムトとルアブの提案である。

 俺は彼らの優しさを尊重する気になった。


「よし。ではお前はなんか悪いやつではなさそうだし、勇者村に迎え入れてやろう。そこの柱みたいなのが動力源なの? エネルギーは何から変換しているの?」


『星の光とかです』


 曖昧だなあ。


「じゃあ外に持ってきて、宇宙船の太陽パネルみたいなのも上に載せればいいか」


 そういうことになった。

 その後、宇宙船の中をさらい、色々使えそうなものを接収する。

 この辺だと、工具とかメーターみたいなのばっかりだな。


 武器のたぐいは全部ポイだ。

 オーバーロードってのは宇宙人だったんだなあ。

 凄く科学的だぞ。


「ところでお掃除ロボ。お前の名前は何ていうんだ?」


『ワタクシの名前は2TO-HALOです』


「にとぅーへいろー? 二等兵だな」


『何故か馴染むお名前です』


 ということで、宇宙船からやって来た二等兵が村の仲間になった。


 普段の外見は、地球で言うお掃除ロボそのものだ。

 平たい円盤みたいなのが、ウィンウィン言いながら走る。


 これが流暢にお喋りをするのだ。

 そして、ちょっとやそっとの障害物は、根性で乗り越える。

 乗り越えられそうな段差は、ニュッと下から足が生えてきて、普通に歩いて乗り越える。


「にとうへい! くんれんにつきあって!」


『いいでしょう』


 カールくんが、村を散歩していた二等兵を誘いに来た。


『もが!?』


 これに反応したのはアリたろうである。

 最近、赤ちゃんたちが大きくなり、上に乗せて走り回りづらくなってきたアリたろう。

 まだまだサーラは載せられるのだが、あの子はマドカとのおままごとに夢中である。


 ということで、やることを無くしていたアリたろうなのだ。

 新たにやって来た二等兵に興味を持つのは自然と言えよう。


 俺が眺めていると、アリたろうが何やら二等兵とおしゃべりをしている。

 どうやらタッグを組んで、カールくんの訓練相手をすることになったらしい。


『アリたろうさん、ワタクシは飛び道具で牽制します。アリたろうさんは直接攻撃を』


『もが!』


 ぐわーっとカールくんに襲いかかる一匹と一台。


「とわーっ!!」


 カールくんは勇ましい掛け声とともに、バビュンの魔法で飛び上がりつつ、直接威力の無い光の弾みたいなので迎撃する。

 あれは見たこと無いな。

 カールくんのオリジナル魔法ではないか。


「どうだ!」


『あれでは届きません! こうなればワタクシの飛び道具で……』


 二等兵がちょっと起き上がり、射角をつけて狙いを定める。

 こいつの飛び道具は、ちっちゃい軽石をポンポン打ち出すやつだ。

 角を取って丸くしているので当たっても痛くないぞ。


『もがー!』


『ヌワーッ!! ワ、ワタクシを踏み台にーっ!!』


 おっ、二等兵を踏んでアリたろうが高らかにジャンプしたぞ。

 カールくんと空中戦をしているな。

 これは楽しい。


 俺は彼らの成長を楽しみつつ、踏み台にされてひっくり返った二等兵を助けに行くのだった。


『ピガーッ! やっぱりワタクシは戦闘はやめます! お掃除だけして暮らしていきます!』


 勇者村の新たな仲間、お掃除ロボの二等兵はそう決意するのだった。

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