第289話 こんにちは、侵略者です!

 無事に王子の名前もつけたし、大体の仕事が終わったなあと思って勇者村へ帰還である。


 雨季はもりもりと雨が降り、水が大好きな生き物や植物がわんさかわんさか繁栄する。

 これを乾季になったら俺たちが刈り取ったりご飯にしたりするわけだ。

 大いに育てよ、生き物たち。


 雨が降っていると野良仕事ができないので、みんなまったりと食堂で過ごしたり、おしゃべりをしたり、図書館に入り浸ったりしている。

 すると、俺の第六感というか第七感というか、とにかく魔力を感じるようなセンサーに反応があった。


 何がまた、どでかいものがワールディアに近づいている。

 魔王かな?

 魔王にしても、それなりに育った感じのやつかな?


「あらショート、お出かけ?」


 カトリナに聞かれたので、


「昼飯には戻るよ!」


 と伝えて飛び立つ俺だった。

 一瞬で雨雲を超えて、成層圏を抜けて宇宙へ。

 おお、久々の、宇宙を満たすエーテルの海よ。


 そして眼前には、今まさにワールディアへ向かおうとしていた光の塊があった。

 隕石みたいだけど、ところどころが人工物めいているな。


「誰だ」


 俺が誰何すると、隕石は止まらず、俺に激突してきた。


「実力行使とはいい度胸ではないか! ツアーッ!」


 俺はこれをチョップで迎え撃つ。

 俺が気合とともに発したチョップである。

 ただの隕石では耐えられまい。


 だが、こいつはただの隕石ではなかった。

 光をチョップで断ち割った下に見えたのは、見たこともない魔法的な金属で作られた宇宙船だったのである。

 これが俺のチョップを真っ向から受け止め、抗う……!!


 だがまあ、普通に真っ二つになった。

 別にただの隕石でなくても耐えられないのである。


「ウグワーッ!?」


 宇宙空間に投げ出される乗組員。

 なんか強大な魔力っぽいのを放っている。


「わ、わしの侵略船を破壊するとは、恐るべき技よ……! 貴様がこの星の主神か!」


「そうではないのだが、成り行きで世界を守っている者だ」


 強大な魔力っぽいのを放つやつ、侵略船とか口にしたので、侵略者と名付けよう。

 侵略者は、白いオーラみたいなのを纏い、ゆったりしたローブっぽいもので身を包んだ、肌の青い宇宙人的な容姿のサムシングだった。


「わしがこの惑星にて手に入れた端末からの返信が途絶えていたから、怪しいと思って見に来たのだ。もしやお前がわしの端末を排除したのではないか?」


「あっ、セントラル帝国のあれか! ドンドン教のドンドン! おう、なんかつついたら消えたぞ」


「ぐわーっ! やはりお前か! お前がわしの侵略の邪魔をしていたのか! おのれ……。魔王マドレノースに侵食され、ボロボロになっていると聞いたから、売却用惑星に改造しようと思ってやって来たのに……」


「えっ、宇宙人にはそういう市場があるの?」


「宇宙人ではない! 我らは個別に進化を遂げ、星を渡る超越者となったオーバーロードである!!」


「ほうほう」


「お前適当に聞き流しているな!? というか先程の強さ! そして平然とエーテルの中で動き回る能力! お前だってオーバーロードに達しているではないか!」


「えっ、俺オーバーロードとかいうものだったの!?」


 初耳である。


「だが、それはそれとして、この星は俺が守るのでお前は帰りなさい。しっしっ」


 俺が追い払う仕草をしたら、侵略者は「むきーっ!!」と怒った。


「新参者のオーバーロードが、一億年を生きたこのわしに向かってなんたる無礼だ! 力の差というものを分からせてくれよう!! ぬおおおお! 星系破壊ガントレット! この手を打ち鳴らした瞬間、この世界は半分消滅する!」


「なんだとぉ」


 侵略者が色とりどりのガントレットを装着し、拍手の態勢に入る。

 これは大変よろしくないので、俺も拍手の態勢に入った。


「速攻でカウンターするぞ。さあ手を打ち鳴らせ」


「何をする気だ! 行くぞ! 消滅しろ世界! 星系破壊、拍手ーっ!!」


 ぱちーん!と打ち鳴らされるガントレット!

 その瞬間、俺は理解した。

 これ、事象とかに介入してランダムでそこに存在するものを分解する、強大な魔法みたいなやつである。


 だが、それがワールディアに到達する前に大体解析し終えた。


「そりゃ! 星系破壊返し魔法、オカエリクダサイ(俺命名)!!」


 俺も拍手を返す。

 すると、そこから発した魔力の波が、星系破壊の拍手を打ち消す。

 あと、俺の方がパワーが上なので、そのまま侵略者を飲み込んだ。


「ば、馬鹿なー!! ウグワーッ!?」


 なんか一億年生きたらしい侵略者が、俺の星系破壊返し魔法に弾き飛ばされ、どこまでもどこまでも飛んでいく。

 ついに全く見えなくなった。


 平和になった。

 俺は、真っ二つに切り裂いた宇宙船だけ持って帰還することにする。

 カトリナが出迎えてくれた。


「ショート、お帰り! 何持って帰ってきたの?」


「宇宙にけしからんやつがいてな。ちょっとこらしめてきたんだ」


 そして宇宙船をその辺に置く。


「危ないから近寄らないようにな、みんな。後で調べるから」


 宇宙船から、何かいいものが見つかるといいな。

 お掃除用品とか、宇宙食とか。


 だが、そんなことよりも今は昼飯である。

 その日の昼食は、山羊のヨーグルトで煮込まれた、濃厚なスープなのだった。


 一仕事終えた後の飯は、格別なのである。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る