第288話 名付けよ、新たなる王を2

 晩餐会が始まり、俺たち勇者パーティは大変な注目を浴びた。

 ブレイン以外みんなパートナー連れてるからな。

 さもありなん。


 なので、フリーに見えるブレインが貴族やお嬢様方からの熱い視線を浴びている。

 その男はそっち方面に興味が無いぞ……!


 マドカは二回目のパーティーともなると慣れたものなのか、衆人環視を気にすることもなく、むしゃむしゃむしゃむしゃーっと料理を食べている。


「さすがは勇者様のお嬢様だ。なんという健啖」


「子どもはあれくらい食べないとね」


 なんだか前回の舞踏会というか晩餐館と比べて、マドカを見る目が優しいな。

 ああ、貴族の大部分が亜人か若い貴族になっているじゃないか。


 古参貴族も、物分りがいい感じのおじさんやおばさんばかりだ。

 プライドが大変高い感じの古参はみんなやられたか。

 何をやられたかって、粛清だよ……!


 カトリナももりもり食べているが、よく食うのはうちの一家ばかりではない。

 ウェアウルフ貴族のガオルンも猛烈に食っているし、亜人貴族は誰もがマナーなどそっちのけで食うわ食うわ。


「マナー関係とかどうなってんの? 一応ちゃんとしとかないとマナーが失われたりしない?」


「あれは人間のルールですからね。人間たちはもちろんマナーを守りますよ」


 若き貴族たちのまとめ役であるグーシエル伯爵が、何杯目か分からないワインを口にしながら教えてくれる。


「大体、マナーは人間が自分たちに都合がいいように作り上げたものです。それに亜人貴族たちが付き合わねばならぬ理由はありますまい」


「そりゃそうだ」


「ちなみにショート様はマナーがきちんとできているようで……。あちらの妹君も」


「おう。親の教育が良かった」


 パーティは立食形式だし、手掴みメインなのだが、フィンガーボウルが用意されていて指先を洗いながら飯を食うわけだ。

 海乃莉はめちゃくちゃに注目を浴びていて、大変恐縮している。


 そりゃあ初お披露目である勇者の妹だからな。

 注目されるだろう。

 だが、そこはパワースがきちんと海乃莉への質問やなんかを取り仕切り、代理で答えたりしている。


 よしよし。

 海乃莉をしっかり守っているな……!


 以前のパーティーよりも、ずっと砕けた感じになっており、貴族たちから投げかけられる質問も微笑ましいものばかりだ。


「勇者様。二人目はどうなんですかな」


「そこら辺りは授かりものだからなあ」


 実はその気になればいつでも作れる。

 なんかそういう権能を持っている気がする俺である。

 だが! ここは! そんな力は使わず! 天に任せる……。


「マドカー、お父さんが遠い目をしてるよー」


「とよいめ?」


 顔をソースでベタベタにしたマドカが首を傾げた。

 かーわいい。

 俺の娘は宇宙一カワイイな。


 そんな時、傍らでなんか気にならない程度の音楽を演奏してくれていた楽団が、高らかにファンファーレを奏でた。

 来たか来たか。


 女王と王配、そして王子が入場してくる。

 女王がめちゃくちゃに元気そうだったので、外国から招かれていた賓客がちょっとがっかりしたのが分かった。

 

 この世界、出産によるダメージとか馬鹿にならないからな。

 安産な人はめちゃくちゃたくさん産むが、それもまた才能。

 苦手な人は産後がきつかったりするのだ。


 だが、トラッピアは全くダメージがない。

 そりゃあそうだ、俺が癒やした。

 あれはもう健康そのものである。


「今宵は我が子のために集まってくれて嬉しく思う! 見よ! これが次なるハジメーノ王国の王である!」


 おおーっとどよめきが上がる。 

 赤ちゃんは今、ハナメデルに抱っこされて、スーンとなっている。


 まだ権力とか公の場とか、分からないもんなー。


 トラッピアの腹の中にいた時、あの子からは覇王っぽい気配を感じた。

 このまま育っても、すごい傑物になるだろうが……。

 俺が名付けていいのか?


「勇者ショート!」


 トラッピアが俺を呼ぶ。

 俺は人々の輪の中から出て、女王の前に立った。


「新たなる王となる者に、名を!」


 おおーっとどよめきが上がる。

 魔王大戦が終わった後、最初に生まれた王族であり、そして魔王大戦を終わらせた勇者から名を与えられる特別な存在ということを内外にアピールするわけだ。

 効果は抜群と言えよう。


「ほんとにいいのか?」


 俺は小声でトラッピアに聞いた。


「マジで祝福されるぞ。今のままでも、この子はすげえ覇王になるんだぞ」


「構いませんわ。むしろやってくださいな!」


 知らんぞー!


「では、俺の世界でかつて、イケメンとして名を馳せた男にあやかったのと、トラッピアを合わせてブラッピア……」


 ギロッ!!とトラッピアが睨んできた。

 こえー!!

 分かった分かった。オリジナリティは捨てる……!!


「ではなくて、俺の世界をかつて平らげようとした英雄の名にあやかって……アレクスと名付ける!」


 こっちの方の名前は、海乃莉と相談して決めたやつだ。

 半分は海乃莉のアイデアだから、祝福みたいなのが弱まらないかなーと期待している。

 だけど、覇王の器を持つ子に、アレクサンダー大王の名前をつけていいわけ?


 ま、いいか!


「アレクス! 新たなる王の名は、アレクス!」


 トラッピアが宣言し、ハナメデルが赤ちゃんを掲げた。

 うおっ!

 赤ちゃん、ちょっと光を纏い始めているな!


 やっぱり祝福されちゃったかー。

 だが、当の本人は目をぎゅーっと瞑ったまま、「ウー」とか唸っている。


 俺には分かる。

 そろそろ腹が減ってきて、おっぱいが欲しくなったころだな。


 アレクスはスウーッと息を吸った後、ほぎゃーっと泣き出した。

 ハラヘリ宣言だ。


 だが、泣き出したタイミングが実に完璧だったので、この場にいた人々は完全に新たなる王が祝福され、ハジメーノ王国の時代が始まると確信したらしい。


「乾杯!」


「新たなる王の誕生に乾杯!」


「アレクス様に乾杯!」


「乾杯!」


 あちこちで声が上がる。

 ま、俺が祝福した程度ならアリたろうやガラドンと互角くらいだ。

 そこまで問題じゃないだろう。


 俺が自ら取り上げたビンとか、血を分けたマドカとか、俺の魔力を存分に受けまくって生まれたトリマルとか、うちの村の一番やばいのとは違うからな。

 成長して何か起きても、どうとでもなるのだ。


「おとたん! おーしーのきたー!」


 ケーキが登場し、ハイテンションになったマドカの声。


「よーし、じゃあお父さんもケーキ食べちゃおうかな!」


 今は王子の誕生を祝いつつ、将来のことは将来に棚上げしておくのである。


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