第287話 名付けよ、新たなる王を1
「はいはい、どいたどいたー! よーしみんな、ここで力を抜いてゆっくり着地な。せーの……ほいっ」
見上げる群衆をどかせた後、王都の広場に着陸する俺たちである。
すぐに兵士たちが迎えにやって来た。
「勇者御一行様ですね! お待ちしておりました!」
「こちらへどうぞ!」
案内されて、群衆が見守り、歓声を上げる中を歩いていくわけだ。
最初に王都を飛び出した時と比べると、大違いだな。
今は俺は完全に、王都にとっての大切なお客様なのだ。
まあこの間も寿ぎの歌を広めるためにやって来たからな!
「うたのおにいさんだ!」
「おうたうたおう!」
子どもたちがわーっと手を振って、寿ぎの歌を合唱してくれる。
こりゃあいい。
気がつくと、周りの群衆もみんなめいめいに歌っている。
ぬうっ。
なんだか俺の中に魔力が満ちてくる感覚があるぞ。
これ、本格的に俺は神様になってきているな?
寿ぎの歌でエネルギーが充填されてしまっている。
俺は実は、常時魔力が高速回復するので寿ぎの歌による支援は必要ないのだ。
どうやらこれ、勇者という俺のクラスに付属する性能らしいんだよな。
勇者はレベルキャップを突破して俺くらいまで強くなることを想定されて無かったようで、今や無限大に近い魔力を持つ俺は、割合ごとに回復するこの性能はオーバースペックに過ぎるのだ。
あふれる、あふれる。
溢れ出る魔力を発散してやろう。
俺はワールディア外部に向けて、惑星規模の花火を打ち上げた。
今作った。
花火魔法タマヤー(俺、今命名)である。
これの消費魔力だけで、デッドエンドインフェルノが十発くらい打てる。
空に(正しくは宇宙に)花火が打ち上がったので群衆がうわーっと盛り上がった。
「王子誕生おめでとう! 俺からの祝いだ!!」
兵士たちも感嘆して空を見上げている。
カトリナは冷静で、スーッと俺の横に寄り添って……。
「ショート、あれって夜にやったほうが綺麗だったんじゃないかなあ」
「ほんとだ……!!」
ハッとする俺である。
「夜もやればいいよね!」
「そうするか!」
一発目の感動は薄れるだろうが仕方ない。
夜も同じことをやる……!
「きゃー!」
マドカは空を見て大喜びしてるからな!
何もかもこれで良かった気がするな!
海乃莉が空を見つめながら呆然として、その後、俺を見た。
「ショートくんがやってるのあれ? 本当にとんでもないことになってるんだねえ……。日本にいたら持て余してたよね」
「うむ。遠からず日本がファンタジー日本になっていただろうな。何気に仲間の神々は平和的な侵略を狙ってる気がするが」
それは横に置いておこう。
海乃莉はパワースもいるし、突然日本にダンジョンが発生して、そこからモンスターのスタンピードが起きたとしても無事であろうからな。
王都中の人間が集まったんじゃないかという群衆は、ついに王城の門までついてきた。
俺たちが振り返って手を振ったら、みんながうわーっと沸いて手を振り返す。
まるで世界的なアイドルか何かだな!
ちなみに、他にも他国の貴族たちが到着していたりしたのだが、すっかり俺たちの凱旋によって印象が薄くなってしまっている。
彼らは唖然としながら、我ら元勇者パーティ一行を見つめた。
中には、俺が止めた戦場で見たことがあるような奴らもいるな。
敵対していた国々にも、新たなる王子の誕生を知らしめるための人選であろう。
「来たようですわね!」
城の大広間で、トラッピアの出迎えを受けた。
「女王なんだからホイホイ迎えに来るなよ」
「何を言ってますの? あなたは今宵、ハジメーノ王国次期国王たるこの子に名前を付け、祝福を与える役割ですのよ!? つまり、役割としては神! 女王たるわたくしが唯一上に頂く存在なのですから、迎えに来てもいいのですわ!」
「ハイテンションねえ……。だけど赤ちゃんはうちのダリアの方が可愛いけど」
「は? どこかのヒロイナがおかしなことを言いましたわねえ……」
「まあまあ二人とも。赤ちゃん産まれるとテンション上がっちゃうからねえ」
にらみ合うトラッピアとヒロイナを、カトリナが宥めている。
この三人が勢揃いするのは久々だなあ。
「あかちゃ、いっぱいねー」
マドカが、ダリアと王子を指差してニコニコした。
勇者村では、バインくらいしか年下がいないマドカ。
なんと今は二人も年下がいるので、自分がお姉さんになったような心地なのであろう。
実際そのとおりではあるのだが。
マドカの微笑ましい様子に、奥様方は毒気が抜けたらしい。
「マドカさんに免じて許しますわ。今日はめでたい日でもありますものね。皆様、専用であつらえたドレスや礼服は用意してありますわよ。夜までゆっくりなさって下さいな」
トラッピアはそう告げると、颯爽と去っていった。
その後、スタスタスタっとハナメデルがやって来て、俺と談笑したりなどした。
「マドカちゃんは、ショートに似ているねえ。見た目はカトリナさんみたいだけれど、纏っている雰囲気とか隠せない覇気みたいなのがショートだねえ」
「嫌なところが俺似だな……!」
「こちらが妹さんかい? 初めまして。ショートの親友のハナメデルです」
「あ、よろしくお願いします……!」
海乃莉がハナメデルと握手した後、俺に囁いた。
「ハリウッド映画でよく見る感じのイケメンさんだね。まあ、私のパワースの方がかっこいいけど」
パワースが咳払いしている。
お、俺の目の前でのろけるなあ。
「おとたん! まおね! たんけん!」
おっと、俺は負の感情に飲み込まれている場合ではなくなってしまった。
マドカに手を引かれ、お城探検をしなければならんらしい。
こうして、夜の晩餐会が行われるまでの間、俺は城のあちこちを歩いて回ることになるのだった。
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