第286話 ベビーお披露目式開催のお知らせ

「えっ、うちのダリアと同時期に王子様が生まれてたわけ!?」


 赤ちゃんにおっぱいをあげていたヒロイナが目を丸くした。

 そういう名前にしたのね。


「それはそうと、ちょっと胸が大きくなっていい気分だわ」


「赤ちゃんできると大きくなるって言うもんなあ」


「ショートは仮にも気になっていた女のおっぱいを見て何も感じないわけ?」


「俺はカトリナ一筋だからなあ」


「まあご立派」


 ダリアちゃんは生後三日くらいなのだが、ごくごくおっぱいを飲んでいる。

 ちっちゃいがパワフルだ。

 きっとヒロイナのようないろいろな意味で力強い女性に育つことであろう。


 それはそうと、王子の話だ。


「王子のお披露目式をやるそうでな。俺たちにも出席して欲しいそうだ」


「そりゃあ、私たちは勇者パーティだけど。パワースは一度投獄されてたし、まずいんじゃない?」


「そこは恩赦ですべての罪を許されてるから、問題ないそうだ。むしろ未だにケチを付けてくるやつがいたら、女王の采配に異議を持つ反逆者として投獄する予定らしいぞ」


「パワースへの反応を試金石にして反乱分子をあぶり出すの!? えげつないわねえ、あの人……」


 諫言をしてくる部下など必要ないからな。

 すぐ隣に、理性的で有能な相方がいるし。


「なんだなんだ」


 噂をすればパワースだ。

 隣に海乃莉もいるぞ。


「えっ、王子のお披露目式!? 俺も行くの!?」


「おう。夫婦ならそれで参加して欲しいらしいから、海乃莉も王都デビューだな」


「私も!? うひょー! ファンタジー世界の町って見てみたかったんだよね! 勇者村はいいところだけど、やっぱり田舎だし……」


「あえて理想的な田舎として俺がデザインしたのに……」


「ショートがショック受けてるわね。海乃莉ちゃん、あたしがエスコートしてあげるから安心なさい。王都はいけすかない司祭とか貴族とかいるけど」


 ヒロイナが何やら過去の出来事に怒りを燃やしているな。


「大丈夫、今はトラッピアによる改革が行われてな。貴族の六割は亜人貴族に入れ替わったし、司祭の半分も亜人になったぞ」


「なにそれ凄い大改革じゃない」


「暗闘でめっちゃくちゃ血が流れたらしいな。旧体制派が相当数粛清されたから、今の王都はなかなか風通しがいいぞ。あ、俺はカトリナとマドカを連れてくから」


 そういうことになり、勇者村からは、俺、カトリナ、マドカの家族。

 ヒロイナとフォスとダリアの家族。

 パワースと海乃莉。

 あと、ブレインと彼の相棒となっている魔本目録カタローグが参加することになった。


 ブレイン、本が恋人か……!!

 筋金入りである。


 この中では、海乃莉が完全に王都初心者。

 というか異世界初心者であるので、パワースにしっかりエスコートしてくれるよう頼む。

 ヒロイナは、ダリアのことで手一杯だろうからな。


 メンバーを確認した後、王都へと移動することに……。

 いやいやいや。

 この人数はシュンッでは無理だ。


「よーし、久々にやるか、あれ」


「あれか。いいな」


「よーし、やったるか! 母の力を思い知らせてやるわよ」


「いいでしょう。やりましょう」


 連れて行く家族をすぐ近くに置いて、俺たち元勇者パーティの四人は輪を作り、中央で腕を交差させた。


「行くぞ! パーティ飛翔魔法、ダンガンバビュン!(マイルド版)」


 俺たち四人と家族たちが光の膜に包まれ、ふわっと浮き上がる。

 勇者村の仲間に見送られながら、王都目指して飛び立つのだ。


 マイルド版なので、王都までは片道二時間くらい。

 馬なら一週間近く掛かるわけで、マイルドでも移動速度は凄まじいものなのである。


「あかちゃ! ねてるー?」


「ダリアはまだ目が開かないのよー」


 ヒロイナも、マドカ相手には優しい。

 ダリアの顔がよく見えるよう、しゃがみ込んでくれた。


「おー」


 マドカはダリアをじーっと見て、感嘆の声をあげている。


「ちっちゃねー」


「そうねえ。ダリアは特別小さいかも。だけど、人は大きさで価値が決まるわけじゃないわ。本当の大きさはハートの勝負よ! うちのフォスだって背はちっちゃいけど、一人前の男だもの」


「いやあ、照れます」


 フォスが照れてるぞ。

 ヒロイナもいっちょ前にのろけるようになりやがって。


「男には肉体のでかさも必要だと思うがな……。なあ海乃莉」


「えっ、なに?」


 パワースが話を振ったが、海乃莉は外の風景に夢中である。


「なんかね、もうね、足元をファンタジーな街道とか、村とかが流れていくでしょ! 凄いってこれ! 観光するための魔法なの?」


「そういうものではない。本来は俺たち勇者パーティが戦地へ高速移動するための魔法だったのだが……今は使い道がなくなってなあ」


 俺は途中で説明を切り上げる。

 海乃莉が風景を楽しむ邪魔であろう。


 目の前では、ヒロイナがカトリナと一緒に座り込んでおしゃべりをしている。


「もうね、経験者だからね、なんでも聞いてね!」


「ええ、存分に世話になるわよ先輩! マドカちゃんめちゃくちゃ元気に育ってるじゃない。そのコツを教えてもらわなくちゃいけないからね……!」


「お? まおのこと?」


 マドカが二人の間できょろきょろしている。


「マドカマドカ、こっちにおいでー」


「おとたん!」


 走ってきた走ってきた。

 ぴょんと跳ねたマドカをキャッチして、ぐるぐるして、お喋りをして……。

 そしてマドカが熟睡した。


 二時間は長いもんなー。


 見渡せば、この空飛ぶ結界の中、誰もが座り込んでのんびりしている。

 これほどゆるゆるとしたダンガンバビュンは初めてだな。

 平和平和。


 あとは、考えるべきは……。

 王都のどこに着地すれば騒ぎにならないか、なのであった。


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