第285話 王宮のベビー

 ヒロイナの子が生まれてすぐに、王都からも赤ちゃん誕生す! のお知らせが届いた。

 トラッピアが出産したのだ。

 まさか同日に誕生していたとは……。


「ショート、お前も祝いに来い」


「こっちはヒロイナの子どもで忙しいんだが、そっちは国の一大事だしな。いいだろう」


 ということで、エンサーツに招かれた俺は、王宮を訪れることになったのである。


「当然私も行くわ」


「まおも!」


 親子三人揃って、王家の新しい赤ちゃんを見に行くぞ。

 シュンッで一瞬にして王宮に到着。


「おお、久々だなショート!」


「エンサーツ、相変わらず剃ってるなあ」


「一度スキンヘッドの気持ちよさに慣れると、戻れんな」


 エンサーツと再開を喜び合う。


「マドカちゃん、でかくなったな! もう赤ちゃんとは言えないな」


「うむ。どこにでもついてきて、いっぱしに意見を言うのだ」


「ほー! 大したもんだ」


「おー? まお、なんすーの?」


 物怖じしないマドカが、でかいエンサーツの足元にトコトコと歩み寄る。

 ブルストで慣れてるからな。

 でかい男が怖くないのだ。


「マドカがね、大きくなってて凄いなーって言ってるんだよ」


「おー! まお、すおい!」


 マドカがむんっとガッツポーズをした。

 俺たちもエンサーツも、ドッと沸く。


「お生まれになった殿下も、マドカちゃんみたいに利発な子に育ってほしいぜ」


「何、生まれたのは王子なのか」


「ああ。国は大騒ぎだぜ」


 エンサーツは俺たちを率いて女王と王配の暮らす場へ。

 トラッピアはぐったりして寝ているそうで、ハナメデルと乳母が抱っこしたちっちゃいのが出迎えてくれた。

 おお、あのちっこいのが王子か!


「ハナメデル!」


「ショート!」


 再会を喜び合う俺たち。

 ハナメデルはヒゲを伸ばし、体格も以前より大きくなって、グンジツヨイ帝国の遺伝子が見事に仕事をしている。

 優しい目つきだけは昔のハナメデルのままだな。


 そして、今回のメインである王子様。

 ギューッと目をつぶっており、乳母に抱かれて静かにしている。


 俺はじっと、この赤ちゃんを見た。

 ふーむ……。


 今はまだ、完全に普通の赤ちゃんだ。

 だが、纏っている王としての資質みたいなものが俺には感じられる。

 これは凄いぞ。


 軽度の神気みたいなものなんだが、この子は生まれながらにして王の器なのだ。

 トラッピアの血と、グンジツヨイ帝国の遺伝子が混ざり合い、とんでもないのが誕生したと言えよう。


「これは、世が世なら覇王になる器だな」


「ええっ!? そんな次元なのかい!? 僕は我が子には、平和に国を治める王になってくれればいいんだけれど」


「望めば平和に生きられるだろうがな。覇王の器を持って生まれてきたら、まあただの平和では済まんだろうな。あれだ。小さい頃からうちの村の子どもたちと関わらせておいたほうがいいだろう。自分の器というものを冷静に見られるようになる」


「なるほど……。ショートの村の子どもたちは、規格外の子が多いものね」


 そういう話になった。

 なお、カトリナは乳母から王子を手渡され、むぎゅっと抱きしめたりしている。

 王子はうちの嫁の柔らかな胸に包まれ、ご満悦だ。


「あかちゃ!」


 マドカが触りたがっている。 

 いいの? とハナメデルに確認をしたら、笑顔で頷いた。

 マドカを抱き上げ、赤ちゃんに触らせる。


「ちっちゃ!」


 赤ちゃんの手をつんつんして、マドカが目を丸くしながら振り返った。


「そうだなー。ちっちゃいなー。マドカも生まれたばかりの頃はちっちゃかったんだぞー」


「まおちっちゃ?」


「今はでっかいな」


「でっか!」


 マドカがニコニコした。

 そうやって赤ちゃんを囲んでいたら、侍女が俺たちを呼びに来る。


「陛下がお会いになるそうです」


「そうかそうか」


 ということで、トラッピアのところへ。

 彼女は椅子に深く腰掛けた姿勢で、俺たちを出迎えた。


「よく来ましたわね。どう? わたくしの子は」


「覇王の器だな。お前とハナメデルの血を受け継いで、その強いところが表に出ている。奔放に育てたら危ういな」


「ズケズケと言いますのね。各国が魔王大戦の傷跡から立ち上がれぬ今、より広い地域は強い力を持つ王によって束ねられねばならない、とわたくしは考えていますのよ」


「そうかそうか」


 俺はうんうん頷いた。

 ちなみにマドカを抱っこしたままなので、うちの子は難しい話が分からず、「んー?」と首を傾げた。


 トラッピアがマドカを見て、ちょっと口元を綻ばせる。


「安心なさいな。勇者村に敵対することは絶対にありませんわ。というか、あなたがたを敵に回したら、どんな大国だろうと持ちませんわね。それを我が子にはしっかりと教え込みますわよ。それはそうと、ショート」


「おう。あれだな。子どもを産んで体力を消耗して、なかなか調子が上がらないんだろう」


「よく分かってますわね」


「そりゃあな。じゃあ回復させとくから」


 俺はトラッピアのダメージとスタミナを一気に全快させた。

 すると、女王がカッと目を見開き、勢いよく立ち上がる。


「完全復活!! ハナメデル! あの子を連れてきて! わたくしがこの手で抱きますから!」


「分かったよ! やあ、トラッピアが元気になって良かった! ショート、ありがとう!」


 赤ちゃんを受け取ったトラッピアは、我が子を愛でつつ俺を見た。


「名付けについてですわ。王の名は、重要な意味を持ちますの。それこそ、神が名を与えるような出来事があれば、この子に箔が付きますわね。わたくしたちは節穴ではないわ。あなたが神の位階に達していることくらい、調べがついていますのよ」


「ほう……。つまり……俺が名前をつけてもいいと……!?」


「変な名前は却下しますわよ! ちゃんと考えて!」


「へい」


「ショート、責任重大だねー」


 カトリナが俺の脇腹をつんつんした。

 こうして、俺はハジメーノ王国に誕生した、第一王子の名付けを任されるのだった。


 祝福が欲しいところってのはあるもんだなあ。


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