第283話 新たなる赤ちゃん

 ヒロイナが産気づいた。

 ちょっと早いかなーと思ったが、まあ若干の誤差はあるだろう。


 ということで、助産にはピアが関わっている。


「産まれるとか食べるとかはうちにまかせてください!!」


「心強い! なんか容態が急変したら俺を呼ぶんだ。赤ちゃんがやたら祝福されてしまう副作用があるが、母子ともに助かるからな」


「はい!」


 ピアの助手はリタ。

 村に来た頃はちびっこだった二人が、立派になってなあ……。

 しみじみと思う。


 そして、パーティの仲間だったヒロイナが出産とは。

 感慨深いものがある。


 地球で仕事を始めていたパワースが、今日は休みを取って駆けつけてきた。


「ヒロイナが子どもを産むそうじゃないか。仲間の一大事だからな」


「そうですね。我々にできることはありませんが、無事に生まれてくることを祈りましょう」


「俺が関わると大変なことになるから、関わらないで済むくらい安産が嬉しい」


 口にするとフラグになるなーと思いつつも、言わずにはいられない俺だった。


 フォスは青い顔をして、オロオロ歩き回っている。

 この間のブルストみたいだな。

 この間って、もう一年前か!!


 すると、バインも一歳になるんだなあ。


 視界の端で、トトトトっと駆けてきたカトリナが、フォスの背中をパーンと叩いて気合を入れたりしているのを眺めつつ。

 向こうで赤ちゃん席に座り、どっしりと構えるバインに目をやる。


「あー」


 まだ、ハイハイもしないし、喋る気もないバイン。

 赤ちゃんごとに自分のペースというものがあるので、それはいい。


 あれは、大人や子どもたちのおしゃべりに聞き耳を立てているし、手足は自ら動き出しそうにむっちりしているから、力を溜めているところなのだ。

 ある日突然立ち上がり、ぺちゃくちゃ喋りだすぞ。


 オーガとミノタウロスの子どもにして、勇者村の環境で刺激を受けながら育った赤ちゃんだ。

 革命的な巨人族の子どもになるに違いない。


 おっと、今はヒロイナが重要なのだった。

 まあ大丈夫だろう。

 あいつは回復魔法も使えるし、リタだってそれは使える。


 ピアは最近、アリたろうと一緒に山野を駆け回り、動物の出産を手伝ったりして修練を積んでいるらしいし。

 いや、それは一体何をやっているんだ。

 今度聞いてみよう。


「ばいん! なーしてるのー」


「うーあー」


 おっ、マドカとバインがお喋りしている。

 マドカも同年代の子の中では結構大きい方だが、バインは輪をかけてでかい。

 一歳年上のマドカと、恐らく立ち上がればさほど身長が変わらないはずだ。


「あそぼ!」


「あー!」


 バインがバタバタした。

 そして、むちむちした腕でむんずっと椅子を掴むと、そこからつるりと落ちるように降りる。

 ポテンと尻餅をついた。


 だが動じないバイン。

 それをマドカが後ろから掴んで、引っ張っていく。


「さーあー!」


「まお! ばいんきたのー?」


「うーあー」


 サーラを交えて遊び始める。

 最近、マドカとサーラは絵本で仕入れた知識で、おままごとをやっている。

 いや、正確にはお店屋さんか。


 子どもの吸収力は凄いものだ。

 バインをお客さんに見立てて、「あにたべうー?」とか言っている。


「あー」


「やきにくだって!」


「やきにくつくってないです!」


「やきにくないよー」


「うー」


 会話になってるのか……?

 だがバインが何か考え込んでいる。

 あれは理解しているんだろうか。


 喋らないだけで、実は深遠な思考をしているとかないだろうな。

 ということで、フォスを励ましつつ、赤ちゃん軍団のおままごとを眺めたりしていると、その時がやって来た。


 赤ちゃんの泣き声である。


「産まれたか!!」


「ヒロイナーっ!!」


 フォスはいてもたってもいられず、彼女の寝室に飛び込んでいった。

 俺とパワース、ブレインも続く。


 汗だくになったヒロイナが、ベッドの上で不敵な笑みを浮かべていた。


「どーよ……」


「良かった!! 子どもは! 女の子なんだね! ヒロイナも子どもも無事で良かった!」


 きちんと確認作業をするフォス、偉いぞ。

 そして俺が見るに、赤ちゃんはちょっと未熟児みたいだな。


 体を洗われて、ほぎゃほぎゃ泣いている。

 これを覗きに、赤ちゃん軍団もやって来た。


「おー」


「あかちゃんだよ!」


「ないてうねー」


 そして登場する、赤ちゃん軍団のお兄さんであるビン。


「あかちゃんね、なくのおしごとなんだよ」


「へえー」


 マドカとサーラが感心する。

 赤ちゃん社会というのがちゃんとあるのだなあ。

 バインは、お姉さんたちの注目が自分からビンに移ったので不満げである。


 歓心を惹くために、ほわほわと泣きそうになりだした。

 ……あれ?

 歩いたりハイハイしたりできないバインがどうしてここに?


 ああ、マドカが引っ張ってきたのか。

 カトリナ譲りの豪腕だな。


 とにかく、ちっちゃいとは言えど、ヒロイナとフォスの子は無事に誕生した。

 俺がこの村にいる間はボーナス期間なので、未熟児だろうと立派に育つよう手助けしてみせよう。


 勇者村の新たな仲間よ、歓迎するぞ……!!


 だがここで、俺がカッとなって名付けたり祝福したりすると大変なことになる。

 俺はそーっと見守りつつ、トリマルの卵を温めた保育器魔法を赤ちゃん用にチューニングして、可能な限り俺の祝福みたいなのを差し引いて使うことにするのだ。


 ちなみに、すぐにヒロイナが赤ちゃんにおっぱいをあげはじめたので、フォスを除く男たちは退散した。

 ここは家族だけにしてやるべきであろう。


 リタとピアも、助産というおお仕事を終えてホッと一息。

 勇者村婦人会から差し入れられた冷茶とおやつを食べながら、赤ちゃんについて談義をしている。


 二人にとっても、身近に迫った話でもあるしな。

 存分に話し合って欲しい。


 その話に加えて欲しそうに、アムトとルアブが見つめている。

 男ならガーンと突っ込まねばならんぞ。


「ピア! ついに俺の子を生む時ではないか!!」


 ほら見ろ!

 虎人のフーがデリカシーなんか蹴っ飛ばして参戦していったぞ!!


「早い! まだ早い!」


 ということで、俺がフーを止めることになるのだった。

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