第282話 かくして歌は広まれり2

 王都は商業地区、そこの広場を使って、手前村の子どもたちを展開させる。


 周辺には、人だかり。

 何が始まるんだと、誰もが野次馬になって立ち止まる。


 魔王大戦以降、すっかり娯楽が減った世の中だ。

 過去に行われていたお祭りやイベントのほとんどは廃止され、やられないうちに誰もがやり方を忘れてしまっていた。


 だから、ちょっと変わったことが起きそうなら、みんな娯楽のにおいを感じ取ってやってくる。


「こんにちは!!」


 俺が群衆に呼びかけると、群衆がハッとした。

 あれ?

 自分たちは見てるだけの観客ではないの? という空気だな。


 ふはは、お前らも巻き込んでこのイベントは行われるのだ。


「こーんにーちはー!!」


 拡声魔法によって拡大された俺の声は、商業地区の隅々まで響いた。


「こ、こんにちはー!!」


 観衆から返答があった。

 よしよし。


「今日は、みんなに素晴らしいものをプレゼントしに来たぞ!! それは何か! 歌だ! 歌くらいどこにでもあるって? そうだな! だが、ちゃんとした文化的な歌の数はまだまだ少ないし、お前たち一般国民のところにはなかなか降りてこない! 大衆的な歌でもいい! だけど、まだまだどこか世界は活気がないだろう! 楽しく歌う気分にもなれない!」


 人々は俺の言葉に、うんうんと頷いている。


「何故か!!」


 なんでだろう、とみんな首を傾げた。


「それは神様が元気が無いからだ!!」


 斜め上の返答が来たらしく、みんな逆方向に首を傾げた。


「まずショッキングな話をすると、魔王が神のほとんどを滅ぼしているので、この世界に残っている神様の数はめちゃくちゃ減っている! ユイーツ神も実は二代目になっている!!」


 愕然とする民衆。


「そしてお祭りや歌が廃止されたので、ちょこちょこ復活してきてはいるのだが、神に捧げるための文化が圧倒的に足りない! よって神様は元気が出ない! 神が元気がなければ世界も元気がない! どうすればいいか!!」


 俺の問いかけに、みんながうーんと唸った。

 その中で、群衆に混じっていたちびっこが「はいっ!!」と挙手した。


「はい、そこの子ども!! 一番早かった!」


「はいっ! かみさまをげんきにすればいいとおもいます!!」


「正解!!」


 俺は拍手した。

 群衆も「オー」「なるほど」「確かに」とか言いながら拍手する。


「ということで!! 神様を元気にして、みんなも適当に口ずさめる感じの寿ぎの歌を作ってきた!! これから披露します!! みんなも歌ってみてくれよな!!」


 俺はそこまで宣言すると、聖歌隊となった子どもたちの周囲に拡声魔法を掛けて、「さん、はい」と合図した。

 歌が始まる。


 めちゃくちゃ練習を重ねてきた、手前村の子どもたちである。

 天使自らのレッスンまで受けており、これが大変歌が上手い。


 最初、ぽかんとしていた群衆は、すぐに聞き惚れてうっとりとなった。

 静かな序盤から、変調して、そして盛り上がりのサビへ。


 群衆が肩を揺らしている。

 なんかこう、天使とかにラブソングを送る的な映画風のだな。

 地球の賛美歌とは明らかに違うからな。


 歌がポップスに近い。

 なので、娯楽として盛り上がれるようにできてるのだ。


 もしかしたらそのうち、飽きられてしまうかも知れない。

 だがこれは、とにかく歌ってる人も聞いている人もアガって、思わず覚えてしまうような歌を目指して作られたのだ。


 その目的は果たされつつあった。


 聴衆たちは肩を揺さぶり、リズムを取り、歌が二周目に入ったらうろ覚えの歌詞を口ずさみ始める。

 三周目では大合唱になった。

 王都を揺るがす、アゲアゲの寿ぎの歌大合唱。


 なんだなんだと人が集まってきて、歌の輪に加わる。

 歌うだけでは飽き足らず、みんな踊り始めた。


 踊る阿呆に見る阿呆、同じアホなら踊らにゃ損損、である。

 俺の指示は、歌は三周まで。


 合唱が終わると、周囲はちょっとしたどよめきの後、うわーっと猛烈な拍手が巻き起こった。

 子どもたちはびっくりして目を丸くし、次にははにかんだような笑みを浮かべた。


「手を振り返すのだ!」


「は、はい!」


 子どもたちが手を振ると、歓声と拍手が大きくなる。


「これが! 神と人とを繋ぐ新しい寿ぎの歌だ! みんなで口ずさんだり歌ったりすることで、世界がどんどん再生していく! なのでみんなガンガン歌ってほしい!」


 俺の呼びかけに、聴衆はわーっと盛り上がって返答した。

 何よりの肯定の返事だな。


 こうして、王都には寿ぎの歌が広まった。

 その後、ある程度の学のある連中が俺たちに教えを請いに来たので、手前村まで連れて行って徹底的にレッスンした。


 寿ぎの歌をマスターしたそいつらが、ハジメーノ王国中を回って寿ぎの歌の伝道師をやることになる。

 いつしか、歌は王国全土へと広まっていくことになった。


 各国の天使たちも、同じような感じだったらしい。

 だが、俺みたいなのがいないので、広まるにはかなり時間が掛かりそうだということだった。


『最近、祈りがどんどん届いてくるので、調子がいいんですよ』


 ユイーツ神が、勇者村のお茶を飲みながら近況報告してくる。


「寿ぎの歌は祈りと同じだからな。これで神々がちょっとは力を付けたら、小神から大神まで上ってくるのが出てくるかもしれないぞ」


『そうなったら私は、地位を押し付けて隠居したいですね! まだユイーツ神三年目ですけど』


 神の本音であろう。

 まあ、気持ちは分かる。


「それじゃあ後進を育成しないとな。とりあえず、進捗が遅れてる地方に、うちの王国で育てた伝道師を派遣するか!」


『いいですね! それぞれの国に合わせてローカライズしているので、まずはこれをマスターしてもらう形になりますが……』


「基礎ができてるからいけるだろ。それじゃあ……」


 世界再生は、村の食堂からこうして広まっていくのである。



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