第278話 勇者村神様会議

『作詞チームが集まりましたか』


『うむ、砂漠にいた夜話の神と、東方から来た詩仙だぞ。神もこれから出来上がる詞が楽しみでならん』


『うわっ、ユイーツ神様までおる』


『なんなんですかこの村』


「なんなんですかと言われても俺の村だとしか答えようがない。おっ、茶とお茶請けが出たぞ。食え食え。お供え物みたいなもんだ」


 ということで、神様たちとともに茶を飲み、茶菓子を食いつつ作詞作業に入る俺である。

 寿ぎの歌を生み出すプロジェクトだからして、各国風にアレンジできるよう考えておかねばならない。


 最初は恐縮していた小神二柱だが、こと話題が専門分野の詩や物語であるので、すぐに活発に意見を口にしはじめた。


『これが完成品というわけじゃないんですよね? でしたらエピソードは代表的なものに留めて、それを歌うのに特化すべきだと思います』


『あえて語らぬということも大事です。わしはたくさんの言葉を用意して、削っていくやり方を提案します』


『おお、さすがは専門家だ』


 鍛冶神が感心している。

 物語の神や詩の神というものは、戦乱時はあまり役に立たぬのではないかと思われる。

 だが、人というのは緊急時こそ心を休める娯楽を求めるものだし、平時ならば連続する日常の中で麻痺する感性を刺激するため、娯楽を必要とするものだ。


 つまり、こういう創作の神は常に必要なのだ。

 人は肉体の栄養だけで生きるにあらず。

 創作物という心の栄養もあって始めて、人たりえるのだ。


『ところでショートさんの意見はありませんか』


「俺は作り手に回ったこともないし、回る気も無いから。ただし、作られたものを『すげー』『最高』『エモい』と褒める準備はできている」


『受け手の鑑……!!』


 ナイティアとリーフェイが目をキラキラさせた。


 俺がこの場にいるのは、最初の読者で、最初の聞き手としているのであり、創作者としてではない。

 さらに言えば、人員が揃った時点で俺の仕事は半分終わっている。


 必要なスキルを持ったメンバーを集め、作業できる場所を用意し、彼らのモチベーションを保つ。

 これこそが俺の役割である。

 俺は裏方でいいのだ……。


『では皆さん、歌詞の内容ですが、勇者ショートが魔王を倒し、世界に光を取り戻すものにしましょう』


「なんだと」


 ユイーツ神の提案は寝耳に水だった。


「俺は裏方ではなかったのか!! そもそもなんで寿ぎの歌に俺が必要になるのだ……」


『そりゃあもちろん。ショートさんが魔王を倒し、滅びゆくはずだったワールディアはその時から再生を始めたからです。新たなる時代の始まりを告げた方があなたなんですよ』


 ユイーツ神は真面目そのものだった。

 鍛冶神はウンウンと頷き、ナイティアは『ドラマチック』とか感慨深げに呟いている。リーフェイは『そんな凄いことをしておったのか……』なんて言ってるので、お前は俺が元勇者だと知ってたはずでは、などと思った。


『では皆さん、勇者ショートが世界の始まりをもたらす歌にすることに賛成の方。挙手を願います』


 四柱の神々が挙手した。

 なんということだー!


「やめて恥ずかしい」


『何を言うんです。世界の始まりから語らねば始まらないでしょう。それに一番がショートさんの内容と言うだけで、それ以降は各地域でアレンジして自国の歌にしてもらうんですよ』


「なんだ、そうだったのか。てっきりひたすら俺を褒め称える歌かと……」


『唯一神の元に世界を統一すると、その中に色々派閥ができてかえって面倒くさくなったりするんですよ。始まりの神を一柱にして、そこから神話が分岐するほうが棲み分けができていいのです』


「ユイーツ神が見てきたようなことを言う」


 実際に見てきたんだろう。

 つまりワールディアは、かつてたった一柱の神が治める状態だったと。

 だけどそれで内部分裂が起きて、同じ神を崇める者同士が争い始めた。


 神様はそれを悲しんで、たくさんの神に分かれたと。


「そういうことか」


『そういうことです。我々古き神々は、元は一つの神でした。誰もが忘れている古い古い時代の話です。小神たちは元は人であったり、人々の間に語り継がれる逸話や物語であったものが神格を得たものです。ショートさんの小さいバージョンですね』


「小さい言うな」


『世界は魔王マドレノースによって破壊されて、勇者ショートによって生まれ変わった。だから、ただ一つの神は新たに語られるべきなのですよ。ショートさん、だって歴史の影に消えるつもりだったでしょう』


「うむ。家族とか村とかあるからな。このコミュニティだけ守れたらそれでいい。だが世界が争乱の中にあると、うちの村がピンチになるだろ。だから世界平和を維持している」


『そうやってあちこちに顔を出し、口出しをするから、勇者ショートの伝説は今もなお世界で広がり続けてるわけですよ。もうこれは神話ですからね』


「なんだとお……」


 どうやら自業自得だったらしい。

 神々は張り切って作詞作業を進めていき、三日三晩が過ぎ……。

 ついに、寿ぎの歌の歌詞が完成したのであった。


『ふう、疲れました! これにて完成です!』


「お疲れ様ー」


 カトリナたち、勇者村婦人会が運んでくるお茶を、神々が旨そうに飲む。

 おっ、酒仙の器にはちょっとお酒入れてるのか。

 分かってるなー。


『よし、では作曲の海の神にこれを渡すとするか。あちらは世界中の海の小神を集めているらしいぞ』


 鍛冶神が次なる作業工程について話し始める。

 だが、こちらはどうやら、俺の出番は無さそうだ。


 作曲の過程を聞きに、家族で遊びに行ってみるかな。


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