第276話 セントラル帝国の詩神は飲んだくれ

 ナイティアを仲間にした!

 ……がすぐに帰るわけではなく、彼女を連れてセントラル帝国まで足を伸ばしてみるのである。


 マドカはこんなに遠くまで来たのが初めてだったので、キャッキャッと喜んでいる。


『はわわわ……どうして私がこんな遠方の地まで……! 私は一応砂漠の国の神なので、これは領域侵犯に当たりまして』


「セントラル帝国の主神勢もみんな滅ぼされてるから問題はないのだ」


 悲しき無問題ではあるがな。

 ハッとするナイティア。


『私が引きこもっている間に、世界はとんでもないことになっていたのですね……』


「引きこもりで魔王の魔手を逃れたのは本当に凄いと思うけどな。……ということは、こういう引きこもってる系の神なら残っている可能性があるのか」


 ナイティアの話から、思わぬ気付きを得たぞ。

 俺はセントラル帝国の山々を見て回ることにする。


 山間の村とか、高いところにある都市とか、この国の風景は見てて飽きないんだ。

 そしてどこにでも小神未満の地方神的なのがいる。


 俺とマドカとナイティアが通過すると、彼らは気づいて手を振ってくれたりした。

 ついでに情報も収集だ。


「この国に、詩とか物語の神様っていない?」


『いますよ』


 河伯とかいう神様らしき彼は、どこかしらカエルに似ていてクロロックっぽい。


「いるのか!」


『いますね。だけどいつもお酒を飲んでぐでんぐでんです。魔王大戦でお酒が奉納されなくなってきてからしょぼくれて、どこかの洞の中でふて寝してるんじゃないでしょうか』


 広義の引きこもり神みたいなものだな。


『お供えがなくてモチベーションが上がらない……。分かります。物語を綴るにも、心の栄養は必要ですもの』


 うんうん、とナイティアが頷いた。


「おなかすいてるの?」


『お腹が空いたらお話を語れないのです』


 マドカの素朴な疑問に、ちゃんと答えるナイティア。

 いい神様である。


「おなかすくのやー」


『いやですねえ』


「なるほど、それだ」


 二人のやり取りを聞いてピンと来たぞ。

 俺はシュンッを使って、二人と一緒に勇者村に戻る。


「おうショート、お帰り……何だ横の女の人は。えらい美人さんだな」


 ブルストが目を丸くする。

 ちょうどいいところで出会った。


「ちょっとな。酒が好きな神を迎えに行くんで、酒をくれ」


「酒が好きな神と来たか! ついに俺の酒が奉納されるんだな。いいぞ!」


 ブルストが酒造所に走り、すぐに戻ってきた。


「うちオリジナルの丘ヤシ酒だ! こいつを飲ませてやれ! クロロックが発見した酵母を使って発酵させたらな、丘ヤシの甘い香りが残ったまま甘みを酒気に変えることに成功したんだ。旨いぞ!」


「ついにやったか! ナイスタイミング、助かるぜ!」


 ということで勇者村のオリジナルのお酒を受け取り、再びセントラル帝国の山奥へ。


『あのー。私さっき村に残ってれば良かったんじゃないんですか』


「知らない人と神ばっかりのところにいるのは辛くない?」


『うっ……、辛いです』


 ということで、ナイティアは同行してもらう。

 マドカは当たり前みたいな顔してついてきてるしな。

 うちの娘はバイタリティがあるぞ。


「マドカ、気をつけるのよ」


「あい!」


 カトリナにいいお返事をして、マドカは俺の横をトテトテ歩く。

 おお、抱っこをせがまない!


『人の子は可愛いですねえ』


 ナイティアがニコニコした。


「赤ちゃんには人見知りしないか」


『それはそうです。ねー』


「おー?」


 マドカがきょとんとした。

 うちの子の可愛さはとびっきりだからな。

 神様だってメロメロであろう。


 そういうことで、到着したセントラル帝国の山奥。


『絵になる場所ですね。私の住んでいた砂漠の国もなかなかだとは思いますが。特に夜景が素晴らしいんですよ。砂丘の彼方に月が沈んでいく様子とか……』


「ほうほう。それも良さそうだなあ。こっちはこっちで、まるで剣みたいに鋭い山々が連なる間を川が枝分かれして流れてるからな。面白い光景だ」


 仮に剣連峰と呼んでおくが、なんとこいつらの間に無数の吊り橋が掛けられている。

 そして刃のような山にへばりつくように、家々が立ち並ぶではないか。


「すげえところに住んでるな」


『けっこう栄えているみたいですね』


「おおー」


 道を行く人々。

 竿に桶をぶら下げて、川魚を売る商人。

 山肌を畑にして、おそらくは蕎麦みたいなものを育てている人。


 どこにでも人は住んでいるんだなあ。


「おーい」


 商人への聞き込みはナイティアに任せて、蕎麦畑の人に話を聞いた。


「酒飲みで詩を読む神様がいるんだろ、ここ?」


「あれ珍しい! 平地の人だね? そうさ、ここは酒仙リーフェイの住まう山だよ」


 酒仙リーフェイが、酒飲み神の名前なのか。

 地球にもなんか、似たやつがいた気がするなあ……。


「リーフェイはねえ、仙郷のマウント合戦に呆れて、この剣山連峰に引きこもったんだよ。今はちょこちょこ、酒を飲みながら歌を詠み合う会みたいなのを開いててね。最後はみんな酒でぐでんぐでんになってお開きになるね」


「楽しそうだなあ」


「酒のんで寝ている間に、仙郷の仙人たちがあらかた魔王に滅ぼされてねえ」


「やっぱり生き残ってる神々はそのパターンだよな。俺らはよそ者だが、旨い酒でも持っていきゃ会ってくれるか? 事を荒立てる気はなくってな」


「お酒をあげれば喜んで会ってくれるよ。ここだけの話、引きこもったはいいけど人恋しいらしくてね」


「人間的な神様だなあ」


 俺も人のことは言えんか。

 さて、商人を前にしてフリーズしているナイティアを連れて、リーフェイへ会いに行こう。


 ああ、でもお酒が出てくるからな。

 マドカはどうしよう。

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