第275話 生まれろ、神々の歌

 鍛冶神が作詞業務に掛かり始めたので、勇者村はちょっと忙しくなった。

 今まで神の手を借りてたのがおかしかったので、これが本来のペース言ったほうが良かろう。


 鍛冶神は村の中をうろうろしては、行き当たった村人に歌詞を読み聞かせ、反応を聞いている。


「ちょっと分かりづらいですね」


 フックが首を傾げたので、鍛冶神が『ウーム』と唸った。


「語呂はこっちのほうがいいんじゃないですか」


 ミーから意見をもらったりしている。

 神様が日常的にうろうろしているので、うちの村人たちもすっかり慣れっこだな。


 ちなみに、たまーに聖職者が我が村に布教のため訪れて、鍛冶神と接触すると「ウグワーッ!?」とか叫んでぶっ倒れたりひれ伏したまま動かなくなったりする。

 ちょっとでも神官とか司祭の才能があると、神々しさに耐えられなくなるらしい。


 うちの村人が慣れてるのがおかしいのか?


「鍛冶神、もっと文才があるタイプのやつに聞かないのか? クロロックとかブレインとか」


『専門家は読み取る能力がある故に、神が書いた難文でも理解してしまう。そもそも作詞が神であるからして、受け入れられてしまうかも知れないのだ。だが寿ぎの歌は世界各地に遍く広がるからして、作詞者不明の歌となって歌い継がれるだろう。そうであれば、もっと分かりやすい方がよい』


「なるほどなあ……! さすがは古い神だ。含蓄がある」


『以前には詩神や歌神がいたのだが、彼らは芸術から神々の間のパワーゲームに興じるようになり、結果として魔王に無防備を晒して滅ぼされてしまった』


「専門家が滅びてるのかあ。そりゃ頭が痛いな。だが、どこかの小神はもしかしたら、こういう作詞とか得意かもしれないだろ」


『ありうる。言葉を司る次元の専門家の協力を仰ぎたい』


「よっしゃ、ちょっと午後になったら探してくる」


 そう言う事になった。

 魔王マドレノースはかなり徹底して物事をやり込むタイプで、鍛冶神と豊穣神と海神以外の古い神……いわゆるメジャーゴッドはことごとく滅ぼした。


 今現在この世界で、人間を広く守護できる神は、先に挙げた三柱以外に存在しないのだ。

 地方神みたいな小さい神ならちょこちょこ残っているが、彼らは英雄クラスの人間に毛が生えたくらいの権能しかない。

 人口千人未満の地域を守護するのがやっとなのだ。


 だが、権能の強さと、専門分野への造詣の深さは関係がないことがある。

 寿ぎの歌の歌詞に協力できるほど、物語などに長けた小神は必ずや生き残っていることであろう。

 俺はそれを探すことにした。


 まずはユイーツ神を経由して、神々の神脈を伝う。

 人脈みたいなものな。


『ほうほう、小神で文才に長けた者ですか。小さい詩神ならばあちこちにいますね』


「よしきた。順繰りに巡ってみよう」


 勇者村がある場所は、地球で言うとスペインみたいなところだ。

 ここからぐりぐりっと小神たちを辿って、ワールディアを巡ってみようというわけである。


 無論、夕食には帰る。


 俺が旅立とうとしたら、マドカがトテトテーっと駆け寄ってきた。


「おとたん、どーいくのー」


「ちょっとな。歌詞を作る神様を探してくる」


「おー? まおも!」


「マドカも来るのか。よし、行くか!」


 そういうことになった。

 マドカももうすぐ二歳である。

 俺の旅に同行させてもよかろう……!


 俺はマドカを念動魔法でふわっと浮かせると、一緒に飛び立った。

 カトリナが下で手を振っている。

 俺もマドカも手を振り返した。


 さて、まずは海を越えたところにある島へ。

 ここには、楽神と呼ばれた神がいたはずである。

 あまりスケールの大きい神では無かったから、ひょっとすると生き残っているかも……。


「楽神ブレッド様ですか? そう言えば音色を聞いたことがこの数年一度も……」


「そうかー」


「おとたん、ないない?」


「ないないなー」


 地元民に聞いて回ったら、どうやら滅ぼされてしまっているらしかった。

 次なる土地へ向かう。


 今度は南国の暑いところ。

 砂漠の王国から距離があり、砂漠と海岸のギリギリ辺りにある国だ。


 ここでは千の物語を紡いで世界の形を明らかにしたという、語り部の神がいたはず。


「いる?」


「あっ、勇者様! はい、女神ナイティア様は最近やっとお姿を現され、細々と活動を再開されてますね」


「よしっ」


「よい!」


 俺はガッツポーズした。

 横でマドカがそれを見て、真似をする。

 ちっちゃいガッツポーズ可愛いのう。


 女神ナイティアは、神殿の奥深くにいるらしい。

 早速訪れてみると。


「おーい、俺だ。俺俺、ショート」


『俺俺と言って魔王がやって来ました。もうその手は食いません』


 魔王め、俺俺詐欺めいた手口で神々を何柱か嵌めたな。

 神の信頼関係を揺るがす工作でもあったのだろう。


 女神ナイティアは、扉の隙間から目だけ出してじーっとこっちを見ている。


『……あれっ? 赤ちゃんがいる……』


「おー? おとたん、なんこれー」


 マドカがふよふよ浮いていって、隙間から覗くナイティアの目を指差した。


「女神がなー。魔王に騙されてひどいめにあってなー。それで俺を悪いやつだと疑ってるのだ」


「んー」


 難しかったらしい。

 マドカが眉を寄せて、口をむにゅむにゅさせる。


『語り方が良くないです! これはですね……』


 ナイティアが思わず口出しをして、ちょっと広めに扉を開けた瞬間である。


「今だ! ツアーッ!」


 俺は超高速で動き、女神の結界をぶち抜き、ガーンと扉を開いた!


『あーれー!』


 女神ナイティアが転がり出てくる。

 色とりどりな幾重の布に姿を隠された、南国のお姫様と言った見た目である。


「見ての通り、勇者ショートだ。魔王は俺が倒している。女神ナイティア、手を貸せ」


 まずは一柱目、ゲットである。



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