第274話 三神会談+俺
カトリナのお勉強が順調に進んでおり、母がパートで来れない日は、自学に励んでいるらしい。
俺は俺で畑仕事を終えた午後には暇になり、やることを探した。
『ショート、これから神々は寿ぎの歌を作るために会議をするのだが来るか』
「海乃莉の結婚式でやってたやつか! 行くぞ」
ということで、いい感じの暇つぶしのネタがやって来たのである。
俺は鍛冶神とともに、神界へと行く。
そこでユイーツ神を拾って、海の王国へ。
ザザーン王に話を通しておく。
「おいザザーン王」
「おお、勇者様!! そ、その横におられる光り輝くお二人はまさか……」
「ユイーツ神と鍛冶神だ。あと海神を加えて、三神+俺でちょっと会議をする。地元の店を一軒借りるな」
「ど、ど、どうぞどうぞ」
いつもは豪快なザザーン王も、ひきつり笑いを浮かべている。
流石に目の前に神様がいるとびっくりしちゃうよな。
俺が店を確保している間に、鍛冶神が海の方にひとっ走り行ってきた。
海神を呼ぶ声が響き渡り、海の王国の民たちが大騒ぎになった。
天が掻き曇り、嵐が巻き起こる。
そして海が真っ二つに割れ……そこから海神が歩いてくる。
『わざわざこっちに来てもらって済まんね』
『なに、ともに魔王大戦を生き延びた古き神同士ではないか』
昔の神々は、神としての威厳だとか派閥だとか、色々な面倒くさいしがらみがあったそうだ。
そのため、神々の集まりを特定の神の土地ですると、その神の格が上がったり呼ばれた神の格が下がったりとか、そりゃもう大変だったらしい。
お陰で、神々が集まるのも一苦労。
魔王マドレノースはそういう神々のメンツの問題にも詳しかったため、神々が共闘体制を作り上げる前に各個撃破。
ワールディアを丸裸にしてしまった。
うーん、思い返すほどにマドレノース、恐ろしい魔王だった。
社会を司る魔王というが、社会性を持つ存在ではあの魔王に立ち向かうことが敵わないんだよな。
多分、俺のように、強大な個の力であいつの話を全部スルーして叩き潰すしかない。
耳を貸したら負けるのだ。
そして結局、もともと大らかな神格で小さい神々を懐に避難させていた海神と、司る役割の大きさの割に神々社会では軽く見られていた豊穣神、そしてちょっとコミュ障だった鍛冶神の三神が生き残った。
彼らには、メンツとか派閥とか関係ないので、大変風通しが良くなったぞ。
「来たか」
『ショート殿! 最近ちょくちょく会いますな! ほう、人間の酒と料理を楽しみながら、寿ぎの歌の復活を? 素晴らしい趣向ですな』
『神も今から楽しみである。作詞は色々考えてきてあるのだ。作り上げるのが鍛冶神であるがゆえに』
『豊穣神は育てる担当ですからね。私は歌を形として整えようかと』
『それではわしが作曲すればいいのですな? お任せあれ。海には素晴らしき作曲家たちがひしめいている。潮騒もまた、わが眷属の奏でる歌なれば』
盛り上がってる盛り上がってる。
そこへ、給仕の女の子がガチガチになりながらお酒とおつまみを運んできた。
『ご苦労ですぞ』
『ほう、つまみは新鮮な刺し身か』
『海の実りですねえ』
神々が喜びの言葉を発する。
給仕の女の子が祝福パワーを間近で受けて、なんだかキラキラ光を放ち始めた。
こりゃいかん、絶世の美女になりかけておる。
「みんな、神気を抑えろ。このままでは酒場が祝福の地になる」
『これはいけませんぞ』
『セーブせねばな。やれやれ』
『世界は簡単に祝福されてしまいますからね』
やれやれ系神様たちめ。
ということで、俺たちは努めて冷静な感じで会議を進めることにした。
給仕の女の子は、せいぜい国一番の美少女くらいで収まった。
「では寿ぎの歌についてだが、役割分担はさっき話した通りで。各地への広報は俺がやるよ。ネームバリューとフットワークで俺が最適だからな」
『ありがたいですぞ!』
『地域の信仰にとらわれずに移動できるのは良いな』
『私たちがよそにいったら、他の小神が恐縮しますからね。ああ、そうだ! 鍛冶神殿。歌詞は何パターンか用意して下さい』
『おお、地方の小神への捧げ歌にもするためだな?』
『ええ、その通りです。海神殿、メロディラインは各地のものをある程度取り入れて……』
『うむ、引き受けましたぞい。海は全ての土地に繋がっている……内陸は知らんけど。ということで世界の曲はわしが把握しておりますからな』
内陸部の民よ。
君たちには対応しきれんかも知れん……!
こうして、海の幸などを突きつつ、神々と俺の会談は続いた。
鍛冶神がアドリブでそれっぽい歌詞を提示して、みんなでやいのやいのと突っ込んだりする。
そのうち、魔王大戦時代のよもやま話になり、本当に今が平和になって良かったなあと笑い合い……。
続いて魔王が来る前。俺が知らない頃の話になった。
なるほどなるほど、人同士の戦争はたびたび起こっており、それは裏側では神々の権力争いでもあったわけか。
『あの頃にイキっていた神々もほとんど滅びましたなあ……。まさか魔王が降りてきて、神々の諍いを利用して来るとは思ってもおりませんでしたからな』
『そうそう、裏切った神がおっただろう。確か神が剣となった時に、ショートが斬り伏せて滅ぼしたはずであったが』
「あー、いたいた! 一国を支配して住民を全部眷属に作り変えようとしてたやつだろ。後半で駆け足になってたから、三十分でクリアしたところだわ。あいつにそんなドラマがねえ……」
『いかに神を凌ぐ強さになっていたからと言って、悪神を三十分は無慈悲ですよねえ』
わっはっは、と俺たちは笑いあった。
こうして会談はつつがなく終わり……。
神と人を寿ぐための歌が生まれる準備が整ったのである。
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