第273話 カトリナのクリエイティビティ大作戦

「まあ! カトリナちゃんは世界を広げたいのね!!」


 やって来たうちの母が、あらまー、おやおや、と奥様っぽい仕草をした。

 なんだそれは。


「そうなるな。種族的な特徴もあるだろうが、子どもの頃にあまり余裕がない暮らしをしてたからな」


「あらまあ」


 この世界は日本と比較すると娯楽も少ないし、別の世界を伝えてくれるのは言い伝えや他人との関係だ。

 人の世界で暮らしているオーガだと、そういう繋がりも希薄だろうしな。


 なので、カトリナは何かを作るためにイメージを思い浮かべる、というのがとても苦手だ。

 実際にあるものを参考にすれば作れるから、不器用なのではないだろうが。


「カトリナちゃんまだ二十歳前でしょう? だったらなんでも吸収できるわよ! うちにあった絵本も持ってきてあげる」


「マジか」


「マジよー」


 言うなり、猛烈な勢いで走り出す母。

 小一時間ほどして、大量の絵本をこちらの世界に持ち込んできた。

 これが、図書館に蔵書として寄贈される。


 魔本たちが歓声を上げた。


『異世界の本とな!』


『使いこまれているなあ。よく読まれていたのだな!』


『よしよし、我々が教育してやろう』


 絵本は魔本たちに受け入れられたようだ。

 何年かすると、己の意志を持つようになってくるかも知れない。


「お義母さんありがとー!!」


「可愛いカトリナちゃんのためよー!」


 むぎゅーっと抱き合うカトリナとうちの母。

 キミらめっちゃくちゃ仲良しだな!


 なんと、母が直接読み聞かせをして、その後絵本の話をカトリナとするという凄い光景が展開された。

 ちなみに横でマドカが、きょとんとして読み聞かせを聞いており、途中で退屈して俺の膝の上に登り、より高みを目指そうとむぎゅむぎゅくっついて来たりした。

 これはこれで楽しかったから良い。


「翔人は本当に、子どもの世話をよくするわねえ。お父さんはね、あの時ちょうど仕事が忙しくなってねえ……。私のお義母さんと母が手伝いに来てね? 三馬力であんたを育てたのよ」


「今明かされる驚きの事実だな……」


「いいなあショート」


 カトリナが羨ましそうにしたら、母がカトリナをぎゅーっと抱きしめた。


「カトリナちゃんももう私の娘よーっ! だからこれからちゃんと私が育ててあげる!!」


 おお、母がやる気だ……!!


「やったー! 育てられます!!」


「育てるわー!!」


 なんだこれは。


「おー?」


 マドカも首を傾げた。

 うんうん、状況についていけないなー。


「ばーば、おかたん、なかよし?」


「おおっ!!」


 な、なんという高度な認識だ!!

 俺は驚愕した。

 マドカは天才であろう。


 サーラから色々なボキャブラリを仕入れ、使い方も学んでいるらしいな。


 その日の午後はずっと、カトリナと母が絵本談義をしていたような気がする。

 母曰く、とにかくインプットしまくらねばならないということらしい。


「あんたはね、何年も掛けて色々なものを取り込んだだろ? ほら、ライトノベルっていうのとか、マンガとか。だから、あんたはこの世界で勇者をやっても色々やってこられたっていうのがあるんじゃない?」


「ある。なるほど、その蓄積か。カトリナにひたすら、蓄積させようというわけだな」


「そういうこと」


 なるほど……!!

 一朝一夕にはマスターできないだろうが、いつか必ず自分の実になることであろう。

 カトリナのこれからに期待である。


「イメージがばりばり湧いてきたよー!!」


 本人はもうすっかりやる気だが。

 その夜、自宅でカトリナとマドカによるお絵かき大会が開かれた。


 お絵かき用の板に、炭を使ってぐりぐりと何かを描くカトリナ。


「ほう、これは何を描いているんですかなカトリナさん!」


「ふっふっふ、これはね、マドカです」


「ほう!!」


 棒人間に目っぽいのと鼻と口がついている。

 笑っているのは分かるな……!


「マドカの笑顔が素敵なところをよく表現している」


「ほんと!? やった!」


「おとたん! まおも!」


 マドカも、お絵かきをした板を見せてくる。

 これは何かな……?

 芋虫……?


 にょろりとしていてぐちゃぐちゃーっとしたものがついている。

 なんだい、これは……。

 深く思考する俺だが、カトリナにはピンと来たようだった。


「ショートでしょ! お父さん!」


「おとたん!」


 当たりだったようだ!

 マドカがニッコニコになる。

 うわーっ、うちの子可愛すぎる。


 マドカのそれは、子どもらしいものだが、カトリナはこれからようやくクリエイティビティなことにチャレンジしていく段階だ。

 だが、本人の中にはきちんとイメージが生まれつつある。


 これから、ずんずんと彼女のイマジネーションは広がり、それが作り出す衣服や諸々に活かされていくことであろう……。

 カトリナの想像力が勇者村を救うと信じて……!


「じゃあ二人とも手を洗って今日は寝ような……」


「はーい」


「あい!」


 いつもは寝る前、ちょっと遊んだりしたがるマドカではある。

 だが、お絵かきでパワーをかなり使ったらしい。

 素直に手を洗い、カトリナに膝枕されて歯磨きを終えると、あっという間に寝てしまった。


「寝たな……」


 マドカの熟睡度合いを確認する。

 一度寝ると、なかなか起きない。


「ということはカトリナ、ここからは大人の時間……!!」


「むにゃ」


「アッー」


 カトリナも本日、創作世界に身を委ね、インプットしまくった疲れからか、マドカと一緒に眠ってしまっていたのである!

 こんな安らかな寝顔を見せられたら、起こすことはできない。


「……外でちょっと散歩してから寝るか……!」


 やる気になってしまった、この気を散らさねばならんからな。


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