第271話 ある意味本番の式はこっちだろう

 ワールディアでも、海乃莉とパワースの式を挙げるということだったが。

 ある意味では、こちらの式の方が本番と言える。

 というのも……。


『本格的にこちらの世界の人間を、向こうに送り出すわけですからね。我々ワールディアの神としても、祝福を与えたり、この間訪れたあちらの世界の環境を考えて、影響が出ないように工夫したりする必要があるわけです』


『うむ。この式は、そのための儀式だ』


 ユイーツ神と鍛冶神からそんな説明をされた。


「なるほど、大事な儀式なんだな。俺をこっちに召喚したのとは真逆の儀式であると」


『そうなります。ではやっていきましょう』


 ということで、日本で行われた結婚式とは打って変わって、勇者村でのそれは荘厳なものになった。

 何せ、神様が二柱……いや、三柱いる。

 堂々と教会の入り口と奥間に立ち、式を見守っているのである。


「まさか海神までやって来てくれるとはな」


『なに、魔王が放逐されてわしも暇になっていたところです』


 海神は気さくに笑った。


「それほど重要な式になるとはな……。だが、妹の結婚式に神が三柱も参加してくれて俺は嬉しい」


 俺がジーンとしていると、ユイーツ神と鍛冶神と海神がきょとんとした。

 ちなみに俺たちの会話は、念話で行われている。


 今現在、リタが取り仕切っている結婚式は荘厳に行われているのだ。


『何を言ってるんですかショートさん』


『お主を入れて、四柱だろう』


『ですな。それで四方を守り、儀式はこれまでにない完成度で完遂できることになる』


 な、なんだってー!!

 俺も神の頭数に入れられていた!


 事前に相談して欲しい。

 道理で、俺の席が神々のいない前列の右隅だったわけだ。


「具体的には何をするんだ?」


『我々が今、神気を流してるでしょう。これに同調してショートさんも神気を流して下さい』


「俺は神気とか使えない気がするんだが?」


『あなたくらいまで高い領域に至れば、ただの魔力が全部神気になるんですよ』


 なるほど!

 つまり魔力を垂れ流して、他の三神と同調すればいいわけだな。

 それは簡単だ。


 俺はだーっと魔力を出した。

 すると、式場を包み込むようにぐるぐる神気がめぐり始め、何やら儀式的なものが佳境に突入していく。


 新郎新婦が、神の像の前で祈りを捧げ、誓いの言葉を復唱する辺り。

 司祭見習いのリタは大変緊張しているが、頑張ってきちんと儀式の手順を踏んでいる。

 偉い。


 海乃莉は、とてもそれっぽい式にすっかりはまり込んで、まるで舞台に上がった役者のように祈りと誓いの言葉を口にしている。

 雰囲気に弱いタイプだよな。


 パワースは魔力を持たないとは言え、勇者パーティの一員として魔王マドレノースと戦った男だ。

 式場で起こっている事がどれだけとんでもないことなのか、よく理解しているようだ。

 チラッと俺を見て、ため息を吐いた。


 大事になってしまった……とか考えているんだろう。

 その通りだ!

 全ワールディア規模の大事である。


 俺は儀式に集中した。

 ま、大したことではない。


 祝福しすぎないようにだけ気をつけて、パワースがあっちで長く暮らせるように、魔力とかのバランスを調整するわけだ。

 こいつが魔法使いだったら大変な騒ぎだったな。


 そして今後、海乃莉とパワースの間に子どもができたとすると、その子が突然魔法的な才能を発揮しないとも限らない。

 なにい、海乃莉との間に子ども?

 自分の想像でちょっとショックを受けたぞ。


 ということで。

 滞りなく式は進み、そして終わった。


 そうなれば行われるのは酒盛りである。

 地球側で言う披露宴のような、形式張ったものではない。


 山のような料理を食い、酒を飲む。

 もう、何もかも全部テーブルの上に並べられているので、みんなが適当に手にとって食い、酒を飲み、これが半日くらい続く。


「ううっ、ついに海乃莉が嫁に行ってしまう……」


 父が酔っ払いながら泣いている。


「海乃莉は結婚してもうちで暮らすじゃない。男の人ってやーねー」


 母はけらけら笑いながら、かぱかぱ酒を飲む。


「あらやだ、勇者村のお酒、前よりも飲みやすくなってる」


「おう。丘ヤシ酒のな、雑味をなくして純粋に香りを楽しめるようにしたんだ」


 ブルストが得意げに、勇者村最新の丘ヤシ酒について解説を始めた。

 魔本との共同開発である。

 オーガの種族的特徴である、創造性の弱さは魔本による知識サポートで補った。


 日々酒と向き合い、ブルストが醸造二年目にして完成させた酒である。

 だが、ブルストに言わせるとまだまだ道半ばなのだとか。


「問題はこれ、飲みやすいだけでな。今は丘ヤシの果汁を絞ってるから飲めるが、酒単体だと味気ねえんだ。こう、どうしたもんかなあ。酒だけで主役を張れるような味にしてえなあ……。米の酒や、麦の酒はもうレシピがあるから、美味いものが作れるんだが」


「ブルストさんは本当に真面目ねー! パメラさんはいい旦那さん見つけたわね! パワースくんも見習ってね!」


 母がおばちゃんムーブをしておる。

 相当酒が回っているな!


 パメラはニコニコしながら、「ま、うちの旦那は世界一だから」とかのろけているな。そこについては俺も否定はしない。

 ブルストは大した男だからな!


 バインはパメラの胸に埋もれるようにして寝ており、ぷすーぷすーと寝息が聞こえる。

 この酒盛りの中で、大したものだ。


 マドカやサーラは家に帰って寝ているというのに。


 海乃莉とパワースがバインを見て、何やら二人でぽしょぽしょ話をしているのだ。

 家族計画か!?


「ふいー、マドカも寝たよ。あらショート、何を百面相してるの? ほらほら、お父さんが作ったお酒飲んで飲んで」


「あっ、ちょっとカトリナさんそんな一気にがぼがぼがぼ」


 たくさん飲んでしまった。

 俺は曖昧になってきたぞ!

 ええい、大いに飲むぞ食うぞ!


 そして海乃莉とパワースおめでとうーっ!




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