第270話 勇者村の人々、日本へ~その3

 花嫁入場で大いに盛り上がるうちの村人たち!

 誓いの言葉で大いに盛り上がるうちの村人たち!

 近いのキスでハチャメチャに盛り上がるうちの村人たち!


 見た目が異形の集団なので、神父さんも注意してこないぞ……!!

 というか、ユイーツ神と鍛冶神も大いに盛り上がっているのはどうなんだ。


 大変不謹慎な空気なのに、どうしてか教会の中には神々しい気配が満ち満ちている。

 二柱の神がめちゃくちゃに祝福しているからな。


 おいそろそろ祝福をやめろ。

 洒落にならんことになる!!


 あっあっあっ、なんか十字架にくっついている人の像が! 聖なるお母さんの像が! 微笑みを浮かべ始めている!

 天井に描かれた天使の絵が動き始めて、本当に音楽を奏で始めているじゃないか!


「おいばかやめろ」


 ユイーツ神と鍛冶神を後ろから叩いてやめさせた。


『痛い!』


『痛い!』


「あぶねえ……! もう少しでセレモニーホールにくっついた教会が聖地になっちまうところだったぜ……!」


 彫像や絵が、スンッ……と元の静物に戻った。

 だが、どうも大変神々しい雰囲気の間に式は進んでしまったらしい。


 神父が妙にこう、神秘的な結婚式になったので感涙しているではないか。

 済まんかったな。


 だが、まだまだ気が休まる暇は無いのだ。

 なぜなら、賛美歌を歌うフェイズに入ったからだ。


 歌う人たちが入場してきて、歌い始める。

 クロロックが、ケロケロとカエルの歌で合唱し。

 ブルストやグーやフーが獣じみた低音で加わる。


 そして立ち上がる神々。


『我々の本気を見せるときですね』


『うむ、神の歌声を聞かせてやろう』


「おいやめろ」


 止まらんかった。

 教会が黄金に輝き出す……!!

 彫像が! 絵が歌い出す!

 

 ……まあいいか!

 俺は考えるのをやめた。

 俺も楽しく歌うぞ!


 うおーっ、教会が放つ黄金の輝きが虹色の光になった。

 知らん。

 もう知らん。


 かくして、式は滞りなく終わり……。

 おらが町の教会はめでたく祝福に包まれた聖地となった。

 あーあ。


「こう、現実改変はほどほどにしてやらんとな」


『神はこの世界がこうも神秘が薄くなっているとは思わなかった』


『神秘が弱まっているので、この調子であちこちに我々が訪れるとワールディアで塗り潰せそうですね』


「なんという恐ろしい侵略行為だ」


『ショートさんだって、その結界を解いたら世界を魔力で塗り替えちゃうでしょう』


「俺の場合はこう、魔力を小出しにする技が神よりも下手なので、魔力災害が起こるのだ……」


『これはひどい』


『お主、こっちにいてはいけないのではないか』


 そんなことは分かってる。

 俺が神々と反省会をしている間に、この場は披露宴へ。

 食事とかを堪能しつつ、花嫁のお色直しを楽しんだりするのである。


 海乃莉は大変きれいだった。

 パワースは憎らしいくらい決まっていた。


 俺は二人を祝福し……。

 結婚式は無事に(?)終わったのだった。


 その後、地元の商店街を冷やかして回る勇者村一行。

 もう、目立つ目立つ。


「わんわん!」


「お? なんだ、てめえやる気か」


「わん!」


「そんな小さいなりで虎人の俺に喧嘩を売るとはいい度胸だ……」


「フー、子犬とガンをつけあうのやめなさい」


 俺がフーを子犬から引き剥がしていると、近所のイキった中学生男子たちと遭遇したブルストが、


「で、でけえ!」


「外人かよ!」


「おっさんどけよ!」


「ああん? 生意気な小僧どもだな」


「うわーっ、ゆ、指先で俺をつまみ上げた!」


「ぐはははは、食っちまうぞー」


「洒落にならんブルスト、洒落にならん! この県には悪い子をミソにつけて食う鬼が名物でいてだな!」


 ブルストを止めて、中学生たちが泣きながら逃げていくのを見送りつつ……。


「試食ですか? どれ……ほう、なかなかののどごし」


「ま、丸呑みした……!? キグルミじゃなくて本当にカエル……」


「クロロックー!!」


 忙しい!

 とても忙しいぞ!


 ちょっと向こうでは、ビンがサーラとマドカを連れて空を飛んでいるし。

 

 神々が近所のおばあちゃんと楽しくおしゃべりした後、ユイーツ神がちょいっと背中をなでたら背筋がしゃんと伸びて、見た目で分かるくらい明らかに10歳くらい若返ってるし!


「ええい、帰るぞ! 村人集合! 帰還! 帰還ーっ!!」


「ショート、あと少しだけ! ね!」


「おとたん! あそぶー!」


 ハッ!

 愛する妻と娘が……!


「そうだなあ……。じゃあ、もうちょっとだけ遊んで行こうか」


 デレッとする俺。 

 既にこの場には、ストッパーなどいない。


 我々は大いに楽しみ、帰宅することになったのだった。


 後日。


「ショートくん、あの後、何したの?」


「何って。村人のパワーを抑え込むのをやめた」


「なんか、うちの町に百鬼夜行が出たとかそういう話が超バズってて……!

 中学生をひとつまみにして食べちゃった鬼とか、犬を噛み殺したトラの頭の男とか、空飛ぶ赤ちゃんとか、触るだけでお年寄りを若返らせる光る人たちとか!」


「あーあー、聞こえない、聞こえない」


 後日、海乃莉からツッコミを受けた俺である。

 わが町は、観光客がかなり増えたらしい。


 観光名所が二箇所くらいできたもんな。

 教会とか、俺たちが楽しんだ商店街とか。


 ともかく、日本への影響は最小限で抑えられたと考えていいだろう……!


「ショートくんちょっと、どっち見てるのー」


「どっちってそれはもう……」


「おとたーん!! おいしいぼうー!!」


 マドカ登場!


「悪いな海乃莉! 俺はこれからマドカのために、美味しい棒を再現せねばならんのだ!」


「逃げた!」


 逃げたのではない。

 戦略的撤退である。

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