第269話 勇者村の人々、日本へ~その2
マイクロバスから、異形の軍勢が礼装姿でどやどや降りてきたので、セレモニーホールの人はギョッとしたようである。
ショックのあまりぶっ倒れそうになるのを、必死に堪えているのが分かる。
「な、何あれ。きぐるみだよね?」
「何かの映画の撮影?」
最近だと映画のCGもレベルが凄く高くなっていて、現実と区別がつきづらくなっている。
うちの村の仲間たちがそういうのだと思われるのは当たり前である。
だが、これは現実だぞ。
「入り口が小せえなあ」
「角が引っかかっちまうよ」
ブルスト、パメラ夫妻が何やら言っている。
「人間サイズに作られてるからな。この世界の平均身長は俺だ」
俺が説明したら納得した。
「ショートみたいな背丈のがわんさかいるのか。そりゃ狭いに決まってるぜ。だが、スペース取らないぶん色々便利そうだな。風呂の水の量とか」
「この国の外に行けば、ブルストやパメラくらいの背丈の連中がたくさんいる国もあるけどな」
ホールで、案内されるのを待つ。
珍しいものばかりがあるので、みんなあちこち触ったり眺めたりして、「ほぉー」とか「へぇー」と唸っている。
このホールには、新婦側の客も混じっており、彼らが一様に、信じられないものを見る目を向けてくる。
なんだなんだ。
こちらは新郎の友人一同だぞ。
ちなみに新郎の職場となる予定の農協からも、それなりの人数がやって来ていて。
彼らは皆、動じていない。
この間の迎肉祭で、すっかり勇者村の面々には慣れてしまったのである。
「やあやあフーさん。その後どうですか。チンゲンサイは美味しく育ちましたか」
「おう、そのにおいはタカハシか! なかなか難しくってよ。美味いことは美味い。歯ごたえがな。あとはそこだけだ」
「歯ごたえはチンゲンサイの最も重要な部分ですからねえ」
農協の人と虎人のフーが親しげに話をしている。
「あらまあバインちゃん、今日はいちだんとプクプクしてて可愛いわねえ! 食べちゃいたいくらい!」
「あぶあー?」
「うっふっふ、いつもうちのバインは可愛いからねえ」
農協のおばちゃんが、パメラの抱っこしているバインに声を掛けたりしている。
バインは慣れたもので、おばちゃんに向かって手をバタバタ動かし、パメラはにっこり。
あまりに農協の人々が勇者村一行を気にしていないので、どうやら花嫁のお客たちもそういうものだと思ったらしい。
恐る恐る近づいてきた。
大丈夫だ。
取って食ったりしないから。
ここで、物怖じするということを知らぬ我が娘、マドカがトテトテトテーッと走った。
アリたろうが後ろに続く。
そして、海乃莉のご友人一同であろう女性たちの前で立ち止まり、じーっと見上げている。
アリたろうも並んで、じーっと見上げた。
「かわいい! 赤ちゃんとアリクイ!」
「うわー、エモい!」
おっ、なんか人気になったぞ。
パシャパシャ撮られている。
「マドカは可愛いでしょ」
カトリナが自慢げである。
ちなみに新婦のご友人一同よりも若いカトリナである。
「うちの子だ」
「あ、もしかして海乃莉のお兄さんですか!」
「奥さんわかーい! 何人なんですか?」
「オーガ人」
「知らない国だ!」
だがそういう国の人だと思われたようだ。
カトリナの角については、みんな「コスプレかな?」みたいな認識で片付いた。
これで完全に、周りも打ち解けてしまった。
式が始まるまでの間、ホールでわいわいとお喋りに花が咲く。
「ヤギいるんだけど!!」
「おっきー!」
ガラドンが女子大生たちにもふもふされているぞ!
「緑の鳥いるんだけど!」
「やーんキレイ! ふわふわ~!!」
トリマルが女子大生たちにもふもふされているぞ!
ちなみに男子大学生もいることはいる。
だが数も少なめだし、女子たちのパワーに圧倒されているな。
そうこうしていたら、式の時間がやって来た。
みんなでワイワイと、セレモニーホール併設の教会へ向かう。
途中、勇者村の参列客の中に光るやつが二人加わった。
鍛冶神とユイーツ神である。
かなり輝きを抑えているので、まあ大丈夫だろう。
ということで、教会では賛美歌の歌唱シートとかを配られる。
ほう、異世界の主神に賛美歌を歌わせるのか。
かなり挑戦的だな!
『こっちでもこういうの歌うんですね』
『神たちもワールディアで寿ぎの歌を復活させるか』
『いいですね。海神も呼んで三神で歌詞とメロディを考えましょう』
神々は特になんとも思ってないようだ。
むしろ新しい着想を得たらしい。
おっと、パワースが新郎として入場してきた。
白い礼服に身を包んだこの男、惚れ惚れするほど絵になる。
もともと長身で、体格のいいイケメンの白人だからな。
新婦の友人たる女子大生一同が、ほーっと見惚れる。
続いて新婦入場。
うちの父が感無量といった顔で、海乃莉と腕を組んでやって来る。
しっかり決めろよ、父よ!
そして海乃莉、きれいだぞ!!
「ミノリさんきれいねえ」
「うむ」
カトリナの呟きに同意しておく。
「マドカもあんなふうにお嫁に行くのかなあ」
「むう」
こっちは同意しないぞ。
勇者村勢の赤ちゃんたちは、立派におとなしくしている。
一番むずかるのではないかと思われたバインが、殊の外静かなのだ。
どうやら、農協のおばちゃんとパメラに代わる代わる抱っこされて、満足している様子だ。
サーラは緊張しているので静かで、マドカは……寝てる!!
大物である。
ぷうぷうと寝息を立てるマドカをよそに、式は始まってしまうのである。
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